#1
夕日が傾き掛ける頃、一人の青年が自宅に向かって、全速力で走っていた。
彼の名前は、鑑 亮一。
今彼が何故、全力で走っているのかというと、ネット仲間との大事な約束があるからだ。
家に入り自室まで走る中、母親に「お帰りなさい。あれ?今日、部活はどうしたのよ」と声を掛けられるが振り向きもせずに「今日も明日も休み。夕飯は適当でいいよ」と大声で返す。
自分の部屋に入り、カバンと制服の上着をベッドに投げ捨て、机に設置されたモニター前に座り、VRヘッドセットを頭に被り電源を入れる。
しばらくすると目の前に荒廃した世界が広がり、音声で
「プレイヤーの入室を確認。パイロットコードネーム、カガミを確認。
ご帰還お疲れ様です。作戦司令部からのメールが数件あります。至急ご確認お願いします。」
機械的な声が聞こえなくなると、また目の前の光景が変わる。
今度は、どこかの軍事施設を思わせる造りの格納庫だった。
先ほどとは違い、身体が動かせその場の空気や雰囲気を身体全体で感じる事ができる。
「おう!来たな、カガミ君」
声の聞こえた方に振り向くと、灰色の髪にサングラスを掛けた上からでも見える位置に、右目に刃物で切り付けられたような傷が特徴の、見た目30代前半位の男が立っていた。
一見怖そうな見た目だが、アバターの見た目がそう見えるだけで、なかなかに優しい人だ。
因みに実際の歳は20代後半?らしい。
「どうも、お疲れ様です。ダイさん」
カガミは一礼して、格納庫全体を見回す。
「あの、他の皆さんは?」
いつもならばこの時間には、コミュニティーメンバーがちらほら居るのだが、今日に限り誰も居ないのだ。
「あぁ、アキさん含めた何人かは、先に補給拠点確保の為に先に出撃したよ。俺達も準備が出来次第、出撃さ。一応11番ハンガーにハヤテさんとエムジー君が待ってるから、早く準備しておいで」
そう言うとダイさんは、ハンガーの方に歩いて行った。カガミも近くの通路にある、ロッカールームに入る。
部屋の一番奥にカガミと書かれたロッカーがあり、そこを開ける。
中には武器や防弾服、防弾用アーマーが入っている。
そこから今着ている迷彩服を脱ぎ、ロッカーに入っている防弾服に着替え、更にその上にアーマーをセットしていく。
着替え終わり、ロッカーの鏡をみる。さながらメタルヒーローのような感じだ。
ただし軍用タイプにしているため、カラーリングは黒一色である。
普通のゲームならステータス画面を開いて、装備欄からボタン一つの動作も、このアーマードブレインでは、完全リアルを謳うゲームなだけに、すべて自分の動作を必要とする。
「う~ん。未だに馴染めない」
顔をペタペタと触りながら「もっとリアルな自分に、近づければよかったかな」っと、
鏡に映る自分の顔を見ながら、そうつぶやく。
それもそうだ。本来のカガミは、高校生の青年である。
だが鏡に映る人物は、キリッとした目に黒髪、小顔が特徴的なイケメン顔の男性なのだから。歳も20代半ば位だろうか。
「でも、”ウチ”のコミュだと、若すぎると浮くんだよなぁ」
カイヤナイトメンバーのアバターは、平均するとオヤジ率が高い。
理由の一つなのか、カガミと友人のエムジー以外全員が社会人で、年齢もバラバラだ。
そしてアバターもチョイ悪オヤジ風の見た目率が、非常に高い。
カガミが、この見た目にしたのも、コミュメンの中で若すぎると浮くし、かと言ってオヤジキャラにしたくは無い、といった気持ちから選んだ見た目なのだ。
前になぜ若いキャラにしないのか、団長のアキさんに理由を聞いたら「ゲームとはいえ、若いお兄さんにすると、何だか無理に若作りしているみたいで、嫌じゃん」と言っていた。
「今なら、アキさんの言ってた事が、少し分かるかも」
カガミは自分も、無理やり大人ぶってるみたいで、少しいやだなぁっと思っていた。
そんな事を考えていると、ロッカールームの扉が開き「遅い」と、不満に満ちた声が聞こえた。
そこには、金髪の優男風な男が、仏頂面をし立っていた。
恐らくカガミと同じ位の年齢に設定しているだろう、このアーマードブレインを進めてきた友人の、エムジーだ。
「もうみんな準備出来てる。あとお前の準備を待つだけなんだが」
「悪い。もう準備できたから」
そう言い、カガミはロッカーから、アサルトライフルを取り出し、小走りに部屋を出た。
ハンガーに向かう廊下で、友人のエムジーに声を掛けようとすると
「間違っても、本名で呼ぶなよ」っと釘を刺される。
「えぇ~。だってさ、呼びにくくないか、エムジーって。リアフレなんだから、別に本名で呼んでも良いだろう。特別珍しい名前でもないし」
「一応ウチのコミュニティーって、リアフレの人同士も居るけど、本名で呼び合ってないだろ。ダイさんとリュウさんとか。あと、べんべんさんとハヤテさんもか」
カイヤナイトには、カガミとエムジー以外にもリアルフレンドで、コミュニティーに参加してる人間も何組か存在していた。
「まぁ、そうだけど。本名知られて困るような人達じゃないだろ?皆、良い人達だし」
「暗黙の了解じゃないけど、面倒事起こさない為にって感じがあんだよ。深く突っ込むな」
そんなやり取りをしている間に、目的の11番ハンガーに着く。
ハンガー前には、いくつかの人影があった。
先ほどのダイを中心に右側に居る人は、眼鏡を掛けた、いかにもなエリート感溢れる、鋭い目に白髪頭の40代前半位の男性のトシさん。
更にその隣に居るのが黒髪の短髪ヘアーに強面風の顔に、 右口元に縦一文字の傷がある ハヤテ。
ダイの左側に居るのが、髪をワックスか何かで整えたようなツンツンヘアーで、筋肉質で大柄な大男のリュウがいた。
「遅いぞ少年!」ふざけ半分にそうカガミを呼ぶハヤテに
「来たなぁ~カガミ~」と軽口を言うトシさん
「取り合えず荷物は、こんなもんか?」
「そうだな。ハルさん達が、ある程度運んでくれている、カッコ予定だ」
「カッコ予定って?!打合せしてないんかい!」
リュウとダイが、持っていく物のチェックをしていた。
「遅くなってすいません」と謝るカガミに「本気では、怒ってないんだがね」と、付け加えるハヤテ。
「それで、例の機体は?」
エムジーが、ダイとハヤテに尋ねた。
「ちゃんと徹夜して仕上げたさ。お陰で仕事に影響出まくりだったけどね」
「まっ、俺等3人に掛かれば数日あればね。だけど今日は、早く落ちる。流石にキツイ」
カガミは苦笑いをしながら「有り難うございます。すごく感謝していますから」とお礼を言った。
ハヤテ、ダイ、ここには今居ないが ジャガーが、カイヤナイトでの機体整備・開発・設計を担当している。
「お二人さん。早く機体を見せてある程度説明してやらないと、更に出発が遅れるぞ」
カガミ達が来た方向から、リュウと同じ位の体格・筋肉質の50代位の男が歩いてきた。
一言で表せばマフィアのボスだ。
「ムックさん、メールは全員に送ったかい?」
「あぁ、一応今日参加しないメンバーにはね。」
トシと話し始めたのは、カイヤナイトの副団長のムック。
一昔の極道映画に出てきそうな見た目に反し、とても話しやすい人物だ。
歳もアバター通りの年齢で、中学生位の娘が居るらしい。
「取り合えず、ムックさんも来たことですし」
「お披露目といきますか」
ハヤテとダイがハンガーの扉に向かって、スマホの様な端末をTVのリモコンを操作する様にかざす。
すると、鉄の擦れるような音を立てながら、扉が左右に開く。
扉が開ききるとそこには、全長15メートル程のロボットが逞しく立っていた。
正にロボットというような重厚感に、白に所々に赤いラインが入った見栄えに、全体的に騎士の甲冑型シルエットが特徴であり、足と背中にはオプションパーツとして、スラスターが増設されている。
「おぉぉぉ!スゲェー。これが俺の機体ですか」
興奮気味のカガミをエムジーが落ち着かせる。そして、ハヤテとダイの解説が始まる。
「ABF-10・OG、名前はイヅナ。ウチのコミュニティーは、全員レジェンドタイプの貴重な10番クラスのフレームを使う事で、機体の耐久強度を異常な程上げている。ジェネレーターも、そこらの機体と違ってビラージュ・ジェネレーターって言う高出力な物を使っている。そのせいか、操作性は非常に癖が強い」
「だけどまぁ、ウチは変人の集まりだからね。癖の強い機体を選ぶ傾向があるからね。因みに練習機のデータを元にカガミ君の操縦癖を計算して、機体を一から組んでいるから操縦は恐らく問題ない。但し! さっきもハヤテさんが言ったことだけど、操作に癖があるから他の人間が乗る事が出来ない、間違って俺等以外の知り合いに乗せたりしたら、下手をすると壊される心配があるのを忘れないでね。それから……」
色々と説明が続いていたが、すでにカガミの耳には入っていなかった。
(これが俺の機体!イヅナ。これで俺も皆と一緒に戦える)
カガミは、イヅナのバイザー越しのツインアイを見つめていた。
一通りの説明を受けたあと、それぞれの機体に乗り込む。
カガミもイヅナのコックピットの胸部部分に有るハッチを開き乗り込む。
「えっと、システム起動、ジェネレーター出力安定、各部異常無しっと。えっと武器は…」
カガミが武器のチェックをしようとしていると、メインモニターの右上に小さなウィンドウが出現し、そこにダイの顔が映し出される。
【カガミ君の武器は、コレ】と言われて、メインモニターに視線を戻すと目の前に、イヅナよりも装甲が追加され、背部から右肩にかけて小型のキャノン砲が付いた機体が居た。
青を中心とした色のダイ専用機の富嶽だ。
そして機体の手に持っていた、ライフルとバスターソードを手渡され、機体の武装ラックの後ろ腰にライフル、背中のラックにバスターソードを装備する。
そして最後に機体半分程を隠せるシールドを渡された。
【それじゃ出撃するぞ】
ムックの合図で格納庫の扉が開き、副団長機のムックを先頭に各機が続いて歩み出した。