蟷螂
怪物は灰色の石のように固まり、その体表がひび割れ、新たな姿が内側から姿をあらわす。
二本の腕と4本の足、鋭い棘を持つ鎌のような腕、ひょろ長い足。そして三角の頭には7つの目が円弧を描いて並ぶ。
──カマキリみたいだな。
似せたのか、それともたまたま似たのか──どちらにしろそっくりだ。シオンは昔読んだ格闘漫画のワンシーンを思い出した。
あの漫画の主人公はどう勝っていただろう。
そもそも勝てていたか?
シオンの背中を冷や汗が伝う。
「フシュルルルル……」
その胴を貫通しバチバチと電撃の音を立て続ける剣を、怪物は痙攣しながらも太い腕で引き抜き、地面に投げ捨てる。
「くそ、脱皮されたか!必殺技……なんかあるだろ!」
チェンジャーからは『データが足りないよ。現在66→43%解析完了』と声がするだけ。
全く使える気配がなかった前回よりいくらか希望がある──いや、使えなければ意味はない。
データが減ったのは脱皮し、姿が変わったからだろうか? ならば、また脱皮される前にデータを集めなければ、必殺技は永久に出せないということか。
「ああもう!」
シオンはもう一つの歯車──ウェポンギアをチェンジャーに装填する。
『ウェポンギア! オーディナリソード!』
チェンジャーから音声が鳴り、光とともに黒い光沢を放つ飾り気のない剣がシオンの手元に現れる。
「これでも喰らえっ!」
シオンの拙い刺突は怪人の鎌に挟み込まれミシミシと音を立て──ボキン、と剣がへし折れる。
「折れたぁー!?」
なんの役にも立ちやしない!どうすれば──
「フシュルルルル!」
怪人の腕が突風を巻き起こしながら襲いかかり、シオンは木っ端のように吹っ飛ばされる。
「うわああ!」
折れた剣が地面に落ち、カランと音を立てた。
「さてらいと!何やって──」
シオンは叫ぶ。この怪物は一人で倒せる相手ではない。
「もう少し、時間を稼いで!」
上空からさてらいとの声がした。
──何か作戦か、秘策があるのか?なら……
「準備できたら言えよ!」
シオンは折れた剣を拾い怪物に投げつける。
「こっちだデカブツ!」
怪物は折れた剣──というよりはおそらく地面に落ちた時の金属音──に反応し、ギチギチと音を立てながら振り向く。
「フシュルルルル……」
「いいぞ!来い!」
シオンは構えた。腰が引けそうになるのをこらえながら。