効率
「フシュルルルル……!」
怪物は鎌のような腕を横薙ぎに振り払う。
シオンはバックステップで回避──眼前を鎌が通り過ぎる。だんだんと怪物の攻撃の練度が上がっている。当たれば真っ二つになると確信させる速度と鋭さ。長く戦い続ければ体力も切れ、怪物も強くなり──確実に死ぬだろう。
腕を取って投げようにも、あの鋭い鎌のような腕だ。こっちが大怪我を負いかねない。
「サテライトー!早く!」
あとはもうサテライトの秘策かなにかに頼るしかない。
それが不発なら──
「あと15秒で蒼が着く!こっちはまだかかりそうだ、エネルギー供給が安定しなくて──」
上空からさてらいとの声。
「なるべく早く頼むぞ!」
シオンは鎌の攻撃を回避しつつ叫ぶ。
──あと何秒だ?十秒?もっとか?
蒼が来るまで持ちこたえれば、生存率はいくらか上がる。
必殺技はまだ使えない。データがどれだけ溜まったのか確認する余裕もない。
「フシュルルルル……!」
怪物が腕を振るう、辛うじて届かない距離──のはずだった。
「なっ、伸び──」
関節がゴキンと音を立て、怪物の腕が伸びる。
かすった攻撃がシオンを吹っ飛ばした──慣れない攻撃方法だったのが幸いしてか、真っ二つになるのは避けられた。
「ぐっ……」
シオンはふらつきながら立ち上がる。視界が霞む。
怪物の腕はぶらりと垂れ下がったままだったが──ごきごきと音を立て、もとに戻っていった。
──関節を外して、リーチを稼いだか……
ひどく非効率的な方法だが、怪物に効率など関係ないのだろう。
つまり、怪物が何をやってくるか、シオンには予測できないということだ。予測できない動きで来られれば対応が遅れる、すなわち死である。
「くそ……まだだ……こんなところで……!」
シオンは拳を握りしめ、怪物を睨む。
「悪い。待たせたな」
背後から聞き覚えのある声。振り返るまでもない。
「蒼か。助かった……」
「なんかここんとこいっつもツーマンセルだなあ、こないだまで敵同士だったとは思えねぇ」
と、蒼は──ロムルスは構える。
「言ってる場合か──来るぞ」
「フシュルルルル……!」
獲物が2つに増えた、とでも言うように7つの目が光る。
鎌を振り上げた怪物は、シオンと蒼に飛びかかった。
「遅い!」
ロムルスは高速でその背後に回り込み蹴りつける。怪物の体がぐらりと傾く。
「まだまだぁ!」
反動で空中に浮かんだ状態から蹴り、殴る。
「すげえ……」
技術も鍛錬も何もない、身体能力と野生の勘に頼った乱雑な攻撃。
しかしそれは、怪物に少しずつながら損傷を与えていく。
振り返ろうとするその頭を踏みつけるように蹴り込む。
迫る鎌を拳で打ち上げ、軌道を逸らす。
圧倒的な力を持つ怪物と、蒼は互角以上の戦いを繰り広げていた。
「見とれてる場合じゃない。加勢しないと!」
シオンは注意の逸れた怪物に足払いをかける──怪物の巨体が支えの一つを失い、ぐらりと傾いた。
「そこだぁ!」
ロムルスが怪物の頭に踵落としを叩き込む。
ミシィ、と怪物の甲殻が軋み──土煙をあげて倒れ込む。
「ちっ、ちょっと浅かったか!」
蒼が着地し、毒づく。
怪物は倒れ込んだまま少しずつ灰色に変わっていく──




