剣の渦
「そうですね……こんなのはどうでしょうか……?」
ウプイリは両手を広げ剣を水平に構え──回転する。
二本の剣が風を切り、ウプイリはさながら台風のような渦となった。
「さあ、行きましょうか……」
剣が描く渦は電柱を、ガードレールを、信号機を、路上駐車の原付を両断しながら、シオンと蒼に向かって滑空する。
「どうする──?」
蒼がシオンに尋ねる。
「どうもこうもない、避けろ!」
シオンは答え、横飛びに避ける。
掠った斬撃がシオン──ジュピターの腕装甲をばっくりと切り裂き、細切れにした。
露わになった左腕から血が吹き出る。
──良かった、浅いな。まだ動く。
幸いにも傷は浅く、皮膚を削がれた程度で済んだようだ。
──あいつは?
シオンはロムルスの方を見る。ダメージはなさそうだ。回避に成功したらしい。
安堵しそうになるシオンの背後に殺気。
「2発目くるぞ!避けろ!」
背後には迫る剣の竜巻。
「いや、今ので見えた!これなら!」
ロムルスは駆け、倒れた歩行者用信号機を持ち上げる。
「てえええええいやぁああ!!」
シオンの前に立ち、ロムルスは剣の渦に向かって信号機を振り回す──火花が散り、その側面が削り取られ──回転ごと、剣の渦となっていたウプイリを吹き飛ばした。
ウプイリは地面を転がり、ふわりと起き上がる。
「なかなかやりますね……少し、楽しくなってきました……」
ロムルスは何も言わず、両手で信号機を構えなおす。
ああなるほど、とシオンは気がついた。
簡単な話だ。水平に構えた剣では、回転の勢いを保ちながら足元をカバーすることができない。
せいぜいが腹の辺り─長物で無防備な腰から下を狙えば攻撃は当たる。
──厄介そうな攻撃はあいつがなんとかしてくれた。あとはどうやって有効打を与えるかだ。ん?
シオンは自分の横に転がる、両断された原付きに気がつく。
──あれなら……もしかしたら!
シオンはむき出しになった燃料タンクを、乱暴に引き抜く。
タンクを固定していたらしい、ねじ曲がったボルトが地面に転がる。
タンクの中でガソリンがちゃぽちゃぽと音を立てる。少々心許ない大きさと内容量だが、ないよりはマシだ。
「喰らえぇえ!」
シオンはそれを、そのままウプイリに投げつけた。
「無駄ですよと……何度言えば……」
ウプイリは燃料タンクを剣で切りつけ──溢れ出したガソリンは慣性に導かれ、びしゃりと黒い装甲にかかる。
「悪あがきは終わりですか……?」
「ああ、終わりだ!オオカミ、その信号借りるぞ!」
「あ、ああ!」
シオンはロムルスから信号機を受け取り、ウプイリに振り下ろす。
「その程度……」
ウプイリはそれを剣で受け──金属音、火花が散り──
「なっ……しまっ──」
火花が燃え広がり、業火となり黒い装甲を焦がす。
「ううう……あああ!こんな……こんなことで……!」
炎に包まれ、火達磨となったウプイリは地面を転がる──が、ガソリン塗れの装甲はなかなか消火できない。
「ぐっ……はぁ……息が……!」
炎に酸素を奪われ、酸欠となったウプイリは地面に突っ伏す。
怪人とはいえ、呼吸ができなければこうなるのも当然か。