黒煙
「このまま攻撃され続けるのもつまらないですね……今度はこっちからもいきましょうか……」
宙に浮いたウプイリは、シオンに向かって音もなく滑空する。
乱雑な、ふりまわすような蹴り──が、速い──シオンは後方に転回し、なんとか蹴りを回避する。
「ほう……避けますか……興味深いですね……」
ウプイリはぼそぼそと呟くと、再びシオンの方へ滑空する。
子供の喧嘩のようなフォームの突き──しかし速度は稲妻のようだ──シオンは受け流しきれず、後ろに吹っ飛ぶ。
「──っ!重い……!」
「怪人の身体能力に、ヒーロースーツの戦闘力……この2つを合わせた私にはどうあがいても勝てませんよ、所詮人間の君では……」
──攻撃は当たらない、向こうの攻撃は一挙一動が致命打……さて、どうしたもんか……
シオンは策を求め思考するが、相手の能力の正体、そして弱点すらもわからない状態では作戦の立てようもない。
「これならどうです……? 」
ウプイリの踵落とし──シオンはギリギリで回避する──コンマ数秒前までシオンがいたアスファルトの地面に放射状のひびが入る。
「そこだっ!」
シオンの上段回し蹴りがウプイリの頭に──その頭が煙になり、シオンの蹴りは煙を散らしただけで空を切る。
「学習能力がありませんね……」
散らばった煙は首の上で纏まり、蝙蝠を模した兜のような頭に戻る。
「頭狙ってもだめか……なら!」
シオンは連続で蹴りを放つ。踵落とし、中段の回し蹴り、前蹴り──息もつかせぬような連撃を、ウプイリは息一つ乱さず煙になって回避する。
「愚かしいですね。無駄ですよ……」
「本当に無駄なのか?」
シオンは攻撃の手を緩めない。
殴り、蹴り、かわし──そして、気がつく。
──そうか、ひょっとしたら……
「どういう仕組みかは知らないが……殴り続けてりゃ、そのうち限界が来るんだろ?」
ウプイリは微かに反応する。
「何を馬鹿なことを……」
ウプイリは空中に浮かんでシオンから距離を取り、そのまま垂直に飛び蹴りを放つ。
「動きが単調だぞ、コウモリ!」
回り込むように回避したシオンは、ウプイリの背中に回し蹴り──煙になったウプイリには当たらず、空を切る。が。
「やっぱり──ほんの僅かだけ、煙になる速度が落ちたな!」
「──っ!?」
ウプイリが焦る。ほんの零コンマ数秒だが、確かに煙になるまでの時間は伸びていた。霧を蹴るような微かな感触がシオンの足に伝わる。
「このまま続けていれば……煙になる前に、お前に攻撃が当たる!」
「──ふふふ、はははは、面白い……思ったよりは聡いようで……無傷で制圧しようと思っていましたが、仕方ないですね……」
ウプイリは構える。
「煙になることだけが、ウプイリの独壇場ではありません……見せてあげましょう、圧倒的な強さを……」と。