ヴォイド
「やあ、待たせてすまないね。少し取り込んでて……シオンくんは……何かあったのかな?」
おおよそニ十分後、奥の部屋から出てきた富岡は、心配そうにシオンに尋ねる。
「あー、いや、ちょっと稽古で。すみません汚れちゃってて。」
あれからしばらく投げられ、投げては打たれを繰り返しシオンの服土まみれだった。
服を脱ぐわけにもいかず、サテライトも大丈夫と言い張るので仕方なくシオンは部屋の隅に佇んでいた。
「いや、いいんだよ。こっちに来て座りなさい。今日は君たちに話さなきゃいけないことがあるんだ。」
富岡は椅子を引きシオンに座るよう促す。
「あー……はい、じゃあお言葉に甘えて。」
シオンが椅子に座ると、富岡は隣の椅子を引き、座った。
「さて、今日君たちをここに呼んだ理由は他でもない。シオンくんとキキちゃんは勘付いてると思うが、昨日の怪人のことについてだ。」
「あー、あれ何だったんだ?明らかに今までの怪人とは違ったぜ。」
と、キキ。
「そりゃそうさ。怪人もヒーローも、あれに対抗するために生み出されたものだからね。奴らのことをヴォイド、と私達は呼んでいる。奴らは星から星に蛹のような状態で移動し、その星の生命をすべて食らい付くしてはまた去っていく……と言われていた。」
「言われてた…って誰に?」
と、シオンは問う。
「他の星の住人だよ。むかーし宇宙へのメッセージって銘打って、宇宙に向かって地球の情報を打ち上げて、誰かに拾ってもらおうってのがあったんだよ。それが帰ってきたのが十年前くらいだったかな。奇妙な丸いカプセルに、他のものと一緒に入っていた。それの中に入っていた設計図と、ヴォイドの一部から作られたのがそれぞれヒーローと怪人なんだ。」
「ほー……となると、あいつらも俺達も、もとは一緒か。またなんでそんな面倒なことを?」
と、トオル。
「最初に完成した怪人……ハンドラーの変身ギアには僅かな危険性があった。そしてヒーローのチェンジャーはまだ未完成で、出力が低かった。リスクを押してハンドラーギアの生産を優先しようとした組織、アニバースに私は抗議した。聞き入れられやしなかったけどね。それで……それともう一つの理由で私はここにいるが……今となってはもう一つの方は、正しかったのかもわからない。正義の心を持つものだけに、力を与えようなどというエゴだ。」
「それは……」
何か言いかけたキキを遮るように、富岡は続ける。
「力なきもの全てに力を与えれば、犠牲をより少なく抑えて奴らに打ち勝てるかもしれない。だがその後はどうする?危険を孕んだ強すぎる力を誰もが持ち、それとともに平和に生きていくなど、幻想に過ぎないと……だが、奴らはもう来てしまった。私の理念では、綺麗事では救えるものも救えないかもしれない。」
富岡は頭を抱え、机に突っ伏す。
「大丈夫だって。あたしらがみんなを守ればいいんでしょ?」
キキは富岡に向かって笑いかける。
「いや、しかし……」
「大丈夫。ヴォイドとやらはあたしらが全部ぶっ倒す。悪い怪人が出たら、そいつらもぶっ倒す。簡単なことさね。な、できるだろ、お前ら?」
キキの言葉に、シオンとトオル、そしてサテライトは頷いた。