富岡
隣町、廃墟のような家。サテライトは怪物の亡骸を調べる彼の生みの親……富岡を眺めていた。
「すまない、これが終わったらすぐ君の修理をするからね。待っててくれ」
「うん、いつまででも待つよ。富岡さん」
サテライトは壊れた体のことなどどうでも良いかのように、嬉しそうに答える。
「それにしても……こいつがここまで早く来るなんてねぇ……大丈夫かな。トオルくんも治ったとはいえ本調子とは言い難いし……」
富岡は心配そうに眉をひそめた。
「大丈夫。シオンとキキは強いよ。僕だっている。まだ15%しか完成してないけど、次のこいつが来るまでにはもっと……」
「ああ、そうだね。心配ばっかりしていても始まらない。彼……シオンくんは予想以上の逸材だ。彼がいればきっと、トオルの抜けた穴を埋められるよ」
富岡は少し顔をほころばせる。
と、突然ジリリリと電話が鳴る。 ひび割れた、プラスチックの黒電話。富岡は受話器をとった。
「はい、富岡……」
『久しぶりだね、環。調子はどうだい?』
電話越しに富岡の名を呼ぶのは、彼のかつての同士。そして今は敵同士となってしまった男、生野 玄龍だった。
「なんだい、君か。なんの用だい?ヴォイドの死骸なら君たちに渡すつもりはないよ」
富岡は怪物の亡骸をちらりと見やる。サテライトの手により皮膚の一片、足の一本に至るまで全て回収済みだ。
『違うよ。そんなものはどうだっていい。私の要件は停戦協定の申し入れさ。予定よりずっと早くヴォイドが来た。もうすでに争っているべき時じゃない。 それにもともと私達の志は同じだ。今なら……』
「……目的がどうあれ、君は手段を誤った。私達は私達の正義を貫くさ。」
『ふ、君らしいな。まあいい。こっちは勝手に協力させてもらうよ。ではまたそのうち。』
電話が切れ、富岡は受話器を戻す。
「はあ……少し、ありがたいなんて思ってしまう自分が情けない。」
富岡は額に手を当てしばらく悩んだあと、ヴォイドと呼んだ怪物の亡骸の調査を再開した。