応急処置
「フシュルルルル……フシュルルルル……」
怪物はわしゃわしゃと足をうごめかせサテライトの方に頭を向ける。
「こっちから、行くよ!」
サテライトは地面を蹴り、右腕の装甲と一体化した剣で怪物の足の一本を切り落とす。
「フシュルルルル……」
怪物は動じず、別の足を振り回す。
「読んでたよ、その動きなら!」
ひらりと爪をかわしたサテライトは3本、怪物の足を同時に切り落とした。
怪物はぐらりとバランスを崩す。
「そこだっ!」
サテライトの剣が閃き、さらに3本胴体からひょろ長い足が外れ、どさりと地面に転がる。
「フシュ……フシュルルルルルルルル」
怪物は立ち上がることもできない。と、突然その体がぴきぴきと氷にひびが入る時のような音をさせながら灰色に染まり、動かなくなる。
「……倒したのか?」
傷口を抑えるシオンの問いに、サテライトは答えない。
「今のうちに、一旦変身を解除して」
「へ?どういうことだ?」
「いいから」
シオンは言われるがままにチェンジャーを差し出す。
「外してくれ。片手じゃどうにもならない」
「ああ、そうだったね」
サテライトはシオンのチェンジャーを外し変身を解除する。
同時に、シオンの傷口がひどく痛みだす。
「ああっ……ぐうっ……痛ってぇ……なんで?」
「スーツには痛覚を鈍くする機能もあるからね。さて、と」
サテライトは地面に転がるシオンの腕を拾い上げ、元あった場所、シオンの肩口にあてがう。
「抑えてて」
シオンは痛みを必死にこらえ、力なくだらりと垂れる肩を抑える。
「これでよし、と」
サテライトは再びシオンの腕にチェンジャーを装着し、操作した。
『ジュピター!ジュピター!ジューピーター!』
けたたましい変身音とともに、シオンは再びジュピターに変身する。
「どういうこった……あれ?」
シオンは失ったはずの指先の感覚に気がつく。
「あ、まだ動かさないほうがいいよ。5分くらいは押さえてないと」と、サテライト。
「いや……これ……え?」
「手足くらいならくっつけて変身しとけば数分で治るよ」
「ええ……?何そのツバつけときゃ治るみたいなノリのスーパーテクノロジー……」
痛みが薄れ、少しずつ腕に体温と感覚が戻ってくる。
手を握る。ちゃんとグーになる。
「ほんとに治った……」
「呆けてる暇はない、そろそろ来るみたいだ」
「来る……って?」
「あれだよ」
さてらいとの指差す先、石のような灰色に固まった怪物の体表に、ぴしぴしとひびが入る。
そしてひび割れをこじ開けるように、内部から桃灰色の太い腕が突き出した。