塞ぎ込み
翌日。シオンは体調不良と嘘をついてバイトをサボり、布団を頭から被り布団に寝転びつづけいた。
昨日から目が冴えて眠れない。目を閉じれば、瞼の裏に浮かぶ苦しそうなあの子の…銀の怪人に変身していた女の子の顔。血溜まり。
炎の怪人と戦ったあのときは気にもしなかった、戦いの中での死。
彼は満足げに、怪人のまま死んでいった。
──だけど。きっと彼にも人間の姿が、人生があったのだろう。
──あの子は…銀の怪人のあの子は無事だろうか。
無事を願うような立場でもなく、そんな資格もないのはわかっているが、それでもどうか、生きていてほしいとシオンは祈った。
「俺はこれから……どうすればいいんだろうな。ヒーローでいなきゃいけないけど……ヒーローでいていいのかな?」
布団の中で呟くも、答えは出ない。
そのまま眠ることもできないまま転がっていると、呼び鈴が鳴る。出る気力もわかず放っておくと、玄関のドアが乱暴に叩かれる。
「おーい。出ないなら扉に穴開けるぞー」
借金取りより物騒な呼びかけ。キキだ。
シオンは渋々ドアを開ける。彼女なら本当にドアに大穴を開けられる。そして開けかねない。
「よお。どうした?死んだ鳩みたいな顔して。久しぶりに稽古でもつけてやろうかと思ってたけど……風邪か?」
「いや……ちょっとね。ごめん」
「どうしたんだよ。なんかほんとに明後日くらいに死にそうな顔だぞお前。悩みあるなら聞いてやるよ。」
「ああ……ありがとう。キキはすごいよね、いつもヒーローって感じだ。」
「感じ、じゃない。あたしはヒーローだ。何があったって。お前もそうだろ?」
「いや……俺は……」
シオンは口ごもる。
「あー、なんかやらかしたんだな。とりあえずちょっと入らせてもらうぜ。」
シオンの返事も聞かず、キキは部屋に上がり込む。
「お、ちょうどいい。さてらいと、昨日こいつ何やったんだ?」
キキは床に転がっていたシオンのチェンジャーを拾い上げ、質問する。
『昨日は……』
「わざわざあいつに聞かなくてもいいだろ。怪人に変身してた女の子に大怪我をさせた。強くなって、はしゃいで、俺のせいで。」
シオンは吐き捨てるように言った。
「あぁ、だからうじうじしてんのか。俺はヒーロー失格だー、もうだめだーって、ずっと。」
「……まあ。」
「あのなぁ。過ぎたこといつまでも引きずってたら助けられるもんも助けられねえぞ。」
「だとしても……」
「あたしも失敗したことは一回二回じゃない。だけどそのたび成長してきた。あたしみたいなのにできて、お前にできないわけないだろ。だからくよくよするのは今で終わり!な!元気出せ!」
「あぁ……うん」
「まだ落ち込んでるな。まあそう急に元気出るわけもないよな。よし、なんか昼飯でも買ってきてやるよ。何がいい?」
「いや……食欲が」
「そうやって朝からどうせ何も食ってないんだろ。飯食わなきゃ元気なんて出ないよ。適当に見繕って来てやるからちょっと待ってろ。」
と、キキは部屋を出ていった。
『持つべきものは仲間だね。』と、床に転がったチェンジャーから声がした。
そうだろうか。そうかもしれない。