帰り道
しばらくスマホを使い続け、電池が心もとなくなってきた頃、富岡が戻ってきた。
「待たせてすまなかったね。解析が終わった。君のチェンジャーを改良するから貸してもらえるかい?」
シオンはチェンジャーを富岡に渡す。
「ありがとう、こっちは数分で終わるはずさ……」
富岡はチェンジャーを片手に小走りで奥の方へ消えていった。
「大丈夫かなぁ……」
シオンは不安げにつぶやくと、またスマホをいじりはじめた。
数分後、戻ってきた富岡はシオンにチェンジャーを手渡した。
「はい。これで、君はもっと強くなれる。敵も強くなっているだろうから、ひょっとしたらあまり効果が感じられないかもしれないけどね」
「はあ……ありがとうございます」
見た感じ、チェンジャーに変化はなさそうだ。
「変身してみなさい」
シオンは富岡に促されるままにチェンジャーを使い、変身する。
『マスクドオン!ジュピター!ジュピター!ジューピーター!』
さらにやかましくなった変身音と共に、シオンはジュピターに変身した。
「おお……」
ネガ・ジュピターに変身したときと同じような力の張りを感じる。
「よしよし、これならきっと……」
と、富岡は嬉しそうに目を輝かせた。
「で、帰りにまたあいつを見つけると。なんなんだろうなこのしょうもない縁。」
ポストに何か──十中八九ギアだろうが──を入れるフードの男。未だこのアナログなシステムに頼り続けるのには何か理由があるのだろうか。
「はあ…変身」
『マスクドオン!ジュピター!ジュピター!ジューピーター!』
やかましい変身音に、フードの男が振り向く。
「イモムシか……ノコノコ現れるなんてなぁ……昨日の借りを返してやる!」
「昨日?昨日……あー、お前か。あの黒いジュピター」
答えることもなく、フードの男は狼の怪人に変身する。
「ウオオオオオ!」
雄叫びを上た怪人の爪が迫る。が。
「こんなもんだったか?」
シオンはその爪を掴み、握ってへし折る。
「グッ……!」
狼が呻く。さすがに痛いようだ。
「はあっ!」
その隙をついたシオンの横蹴りが、怪人を吹き飛ばす。受け身も取れず怪人は地面を転がる。
「ウオオオオオ!」
狼の蹴りを、シオンは軽く体をひねってかわした。
「早いけど……早いだけだな」
怪人の蹴り足を掴み、振り回して地面に叩きつける。
「ヴッ……!」
怪人は地面に手を付き、なんとかシオンの手を振り払って距離をとった。
「ウウ…ウオオオオオ!」
「甘い!」
雄叫びを上げ、突進する狼の頭にシオンが放った踵落としが炸裂し、地面に怪人の顎を叩きつける。
「こんなもんだったっけお前。もう少し強かったと思ったんだけどな」
怪人はもがく。シオンは踏みつけ、その動きを抑える。
「敵をいたぶる趣味はないからな……早めに終わらせよう」
「ぐうぅ……」
シオンに踏みつけられ、狼の怪人は動けない。
その頭を蹴り飛ばそうとしたシオンは、背後からの攻撃によろける。
「ぐっ……新手か?」
怪人の頭を踏みつけたまま振り向いたシオンの目に映ったのは、銀色の占い師のような怪人、シルバーマナ。
「そこの狼くんは私達に必要でね。助けに来たんだ。一応聞いてみるけれど……お引取り願えるかな?ヒーローさん?」
「誰が帰るか。ついでにお前も倒してやるよ。」
「やっぱりねぇ。仕方ない……」
シルバーマナが両手を広げると、空中に20枚ほどのカードが浮かび彼女を取り巻くように整然と並んだ。