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博士

 翌朝。シオンは朝食の蕎麦を啜り、さてらいとに指定された場所にチェンジャーを届けるため家を出た。

「朝から面倒な……」

『昨日の夜だと受け入れの準備できてなかったからね。』と、チェンジャーからさてらいとの声。

いつも通る道とは違う、隣町に続く道。

シオンは自転車で長い坂を下る。

「なんか新鮮だな、こういうの」

まだ少し冷たい風が耳を冷やす。

空は曇り、ここ数日全く晴れ間がない。


 「ここ……で大丈夫なのか?こんな廃墟みたいな」

『大丈夫、あってるよ。』

たどり着いたのは廃屋、と言うにも少々老朽化が激しい家屋。

窓は割れ、瓦もところどころ剥がれている。

呼び鈴は……ない。

そもそも中に人がいるのだろうか?

不安を覚えはじめたシオンの前、家屋の扉が開く。

「よく来てくれたねぇ、ささ、入りなさい」

出てきたのは白衣を着た、いかにも博士といった感じの老紳士だった。

「いや、あの、これを渡しに…というかさてらいとは?」

「彼はここにはいないよ。彼にもいろいろ事情があってね」

シオンは老紳士に黒いチェンジャーを手渡す。

「ああ……これは……まずいねぇ。中でしばらく待っててもらえるかな。急いで解析を済ませるよ」

老紳士は顔を曇らせ、奥の方に小走りに消えていった。

「誰なんだあの人……?」

富岡とみおか たまき。僕の父親だ』

さてらいとが答える。

「となるとさてらいとってけっこうおっさん…?」

『失礼な。まだまだ若いさ』

「どうだか」

シオンはきしむ木の椅子に腰を下ろす。

「なんでこんなボロいんだここ」

『あの人はそういうとこ無頓着みたいだね』

「みたい、って他人事みたいだな」

『いろいろ事情があるのさ』

シオンはスマホをかばんから取り出し、いじり始める。

「Wi-Fiとかないのかね、ここ」

『ないよ、そういうの使わなさそうだし』

「通信量大丈夫かなぁ」

『心配なら使わないほうがいいんじゃない?』

「ほか時間潰す方法ないだろ」

『しりとりでもする?』

「しない」

シオンはなんとなしにニュースサイトを開く。

シオンたちが住む鳴鍋市の名前を見つけ開くと、異常な雲が鳴鍋市上空にだけとどまり続けているという内容だった。言われなくてもわかってるとシオンはタブを閉じた。





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