シルバーマナ
「何なのよ、もう。あー、もう。強盗に人質に取られるしひょろいもやしみたいなのに助けられて事情聴取に一時間もかかるし。アイスを買いにいっただけなのに。しかも買いそびれたし!」
ほんと迷惑だわ、と 生野 多々良は自室のベッドに飛び乗り大きなクマのぬいぐるみをぽすぽすと殴り続ける。
「あー、もう、イライラする!暴れて来ようかしら!」
タタラが握りしめた拳を開くと、掌で怪しく輝くのは銀色のギア。
あの時変身していれば……シルバーマナになっていれば、あんな強盗屁でもなかった。でも。でも。
「嫌ね、非力って。」
タタラはギアをポケットにしまうと、ベッドの上で抱えた膝に顔をうずめる。
「んー」
なんとなく引いたタロットのカードは、恋人の正位置。
「バカじゃないの?バカみたい。」
ぶつぶつとつぶやき、カードをしまう。
「でも……」
ヒーローみたいだったな、とつぶやきそうになり、思い直す。
「あたしは怪人。怪人、シルバーマナなんだ。ヒーローみたいな奴にまた会いたいなんて……変なやつだったけどちょっとかっこよかったな、なんて……会って、お礼言えたら……なんてバカみたいだ」
膝を片手で抱えたまま、タタラはもう片方の拳で力なくぬいぐるみを殴る。
ぽふ、と間抜けな音がして、ぬいぐるみはベッドの上に転げた。
「そういえば……」
思い出した。ヒーローで思い出したくないことを。
「お父様に報告しなきゃいけないのよね……はー、ほんと憂鬱」
試作品、ネガジュピターの変身装置を敵に奪い返されたこと。
タタラたちが属し怪人を開発研究している組織、アニバースの代表である父にタタラはまだそれを報告していなかった。
怒られるだろうか。それとも落胆される?
どちらもタタラには嫌だった。
「憂鬱なことばっか。今日は厄日だわ。」と、タタラはベッドにタロットカードの束を無造作に投げ出した。
何枚かが暗示するように表を向いていたが、タタラは見ないようにして部屋を出た。