杭
「ウウアアアアァ……」
怪物はふらつきながら頭を振る。
「どうした、かかってこいよ!来ないなら……!」
シオンは地を蹴り、次の瞬間には怪物の眼の前にいた──正拳突きが、怪物の頭部を捉える。
突きの反動で、踏み込んだ足が地面を削った──怪物が真後ろに倒れ、正拳をまともに受けた右の角もへし折れた。
「ウウ……アアア……アァ……」
怪物はなんとか起き上がり、旋風をまきおこしながら羽ばたいた。
空中に舞い上がった怪物はシオンを睨み、咆哮した。
「ウウオオオオオォ!」
その全身から、鈍色の棘が──いや、違う。
「杭、か。そういやなんか見覚えあるような気もするな。あのときとは随分変わったけど。」
シオンは思い出し、確信した。彼はかつて戦った黒衣の怪人狩りだと。
どのような経緯であの姿になったのか、そして正気を失ったのかは定かではないが──
「まぁ、生きてくれてただけ御の字かな」
「ウウオオオオオォ!」
怪物は吠える。全身いたるところから鈍色の杭を生やし、その姿は針の塊のようになっていた。
「悪魔の次はハリネズミか。忙しいな。」
怪物はさらに高度を上げ──加速しながらシオンに向かって落下した。
ドォン、と地響き。そして土煙。
もうもうと舞う土が収まると、シオンと怪物の姿が現れる。
怪物は空中で静止していた。いや、させられていた。
生やした鉄杭の一本をシオンに掴まれ、逃げることも攻撃することもできない。
「ちょっとヒヤヒヤしたけど……いけるな!」
怪物はもがく。飛んで逃げようにも、この翼の向きでは空中には浮かべない。
「ウウ……アアアアァ……」
怪物は呻き、じたばたと手足をもがかせた。
「よっ──と!」
シオンはそのまま、怪物を地面に叩きつける。
全身にくまなく生えた杭が、杭らしく地面に刺さった。
怪物は標本の蝶のように、地面に串刺しにされて身動きも取れない──が、全身の杭が縮み、消える。
拘束から逃れた怪物はシオンから距離を取り、地面を足で掻く。
「さてらいと、必殺技は?」
『もう少し待ってて。それにしても、急にここまで強くなるなんて……』
「選ばれたとか言われてたよ。あれ夢じゃなかったんだな、きっと。」
『何があったかは後でじっくり教えて貰うとして。とりあえずこいつを片付けようか』
さてらいとからの通信が切れる。
『フィニッシュムーブ スタンバイ!』
チェンジャーが鳴った。その響きも、どこか懐かしい。