黒と紺
「これでも喰らいな!」
ロムルスは叫び、怪物に石を投げつける。生臭い風とともに石は姿を消し──ぼりっ、ぼりっと音を立て、怪物は口をもごもごと動かす。
「ほんとに喰らうか……やべえな、このままじゃジリ貧だ……」
ロムルスは──蒼は呟いた。怪物がごくりと喉を鳴らす。石は砂か、あるいはもっと細かい粒子になり悪魔のような怪物の胃の中だ。胃があるのか定かではないが。
「ウウアアアアァ……」
石を嚥下し終わった怪物は、呻き──頭の角を突き出し突進する。
蒼の方向ではない、少しズレた方向──
ロムルスは気がつく。狙いは自分ではない。彼の背後でギアを手に持ち、震えている──
「タタラ!」
ロムルスは叫ぶ。怪物はタタラ目掛け、土石流のように突っ込む。
衝突、そしてひび割れ、へし折れる音。
ボタボタと血が地面に流れ、地面に赤い染みを作る。
「タタラ……無事か?」
タタラの数十センチ手前、怪物に立ちふさがったロムルスがその突進からタタラを庇い、止めていた。
「私は大丈夫……でも、蒼……!」
怪物の角はロムルスの装甲を砕き、めり込んでいた。
ひび割れた紺の装甲の隙間から流れた血は、血溜まりとなり怪物の足を滑らせる。
当然、蒼の失った血の量も少なくはない。
「こんくらい何てこたねえよ……逃げろ、タタラ。時間は俺が稼ぐから、援護を……」
貧血により酷くなる目眩に耐えながら、蒼は言う。
タタラはこくこくとうなずき、駆けていった。
「さて、と……悪魔さんよぉ。」
蒼は怪物に視線を戻す。その足は血溜まりを背後に蹴り散らし、再び突進しようとしていた。
「こっからだ……ぶっ倒して……」
言い終わることなく、ロムルスは膝から崩れ落ちる。
偶然の肩透かしを食らった怪物はつんのめり、地面に転がった。
ロムルスは血の跡を地面に残しながら這いずり、両手でその足を掴む。
「逃さねえぞ……あいつを追うんなら……俺を殺してから行くんだな。そしたら……そうだな、呪い殺してやるよ。おまえがタタラに何かする前にな……」
「ウウアアアアァ……」
怪物は立ち上がり、首をひねった。理解できない、というように。