声
真っ暗な場所。誰かが呼ぶ声が聞こえた気がした。
「誰だ……?」シオンは恐る恐る問い、一歩踏み出す。墨汁のような地面が、歩調に合わせ円形の波紋を描く。
「選別されたものよ……目覚めの時が来た……」
どこからか響く声。踏み出すたび近づき、あるいは遠ざかる。
「誰なんだ、いったい……」
歩けども歩けども、シオンが声の主にたどり着くことはなかった。
「お前に与えられた力は滅びの運命に抗うためのもの……どう使うか、見定めさせてもらうぞ……」
声は遠ざかっていく。シオンは声を追い、走る。その足が早まるほど、声は遠ざかり──
「はっ……夢か……」
シオンは目を覚ます。見慣れない天井、聞き覚えのある隙間風。
このボロボロの部屋を見まごうはずもない。おそらくは富岡の家だろう。
夕日の光と風に揺れるカーテンが、部屋の床に長い影を作っていた。
「そうか、たしか怪物に刺されて……その後は……どうしたんだろ?」
かすかに頭が痛むが、怪我の痛みはなかった。服装はTシャツとズボンという簡素なものだが──シオンの持ち物ではない。小学生のようなセンスの、迷彩に龍の柄。
──誰だよこんなクソダサいTシャツ着せたの。
あるだけありがたいと言うべきだろうか……いや、これなら全裸のほうがまだ恥ずかしくない。
「なんだよ、力とか滅びとか……物騒なことだけ言って肝心なことはなんも教えてくれないまま消えた……まぁ、夢だし気にすることでもないな」
シオンはもう一眠りしようと目を閉じ──聞いた。今度ははっきりと、誰かの声。
「助けて」と。
「……行かなきゃ」
シオンは熱にうかされたかのようにベッドから起き上がる。
枕元にあったチェンジャーをひっつかみ、装着する。
「変身……!」
『マスクドオン!ジュピター!ジュピター!ジューピーター!』
天にまで届くような変身音とともにシオンは光り包まれ、窓から飛び出したその姿は緑の戦士、マスクドジュピターに変身していた。
地面に着地し、同時に駆け出す。目覚めたばかりとは思えないほど──いや、意識を失う前以上に、足が、全身が軽い。
「こっちか……?」
覚束ない隣町の道を、シオンは駆ける。
声は頭の奥で聞こえ続けている。女性の声。
「助けて……誰か、助けて!」と。




