正体
──逃げなければ。何をなげうってでも。
捕食されるという恐怖、そして絶望が夜雲に叫ぶ──逃げろ、と。
ウプイリは煙になって逃げようとする──が、できない。
「まさか……私の力を奪って……!」
怪物は答えず、呻く。逃げることもできない。
「ぐううう……!」
ウプイリは左手に剣を作り出し、突く──やぶれかぶれの一手は、肘ごと怪物に食いちぎられた。
「ああ……」
──もうだめだ。
ウプイリの胸に諦めが浮かぶ。
チェンジャーが腕ごと食われたため変身が解け怪人の姿──デスモダスに戻ってしまった。
両腕も失った、変身もできないこの姿では、ただの餌だ。
怪物は鋭い爪が光る手で、デスモダスを掴む。
怪物の顎が──いや、喉、胸、そして腹まで──顎が開き、巨大な口となる。
──食われるのだ。私は、これから。
デスモダスは──夜雲は、そう悟った。もう明日を迎えることはないと。
と、デスモダスは夜空に浮かぶ稲光に気がついた。
──フレイムボルトさんか?まさか私を助けに……
「やあ、夜雲。それとその声、そして山羊の怪人……そうか。まだ生きていたのか。久しぶりだね、怜央。」
デスモダスにも聞き覚えがあるその名前に、怪物が頭をもたげた。
「ウウアアアアァ……ラ……ライ……雷斗……」
怪物はフレイムボルトの人間の姿の名を、つっかえながら言う。そしてその動きが止まる。
「まさか……こいつは……!」
デスモダスは気がつく。この声。そして彼の名前を知っているのは自分と、研究室の同士と、そして──あと一人。自分はこの怪物の元の姿を知っている。
「そうだよ。彼は黒茅 怜央。かつて我々の同志だった……そして、私の実験の、元失敗作だ。」
淡々と、フレイムボルトは答える。
「そんな……彼は、ヒーローとの戦いで死んだと……」
聞かされていた。他でもない、フレイムボルトから。
「ヒーローに負けない力を手に入れるための実験で廃棄せざるを得なくなった。となればヒーローに殺されたも同然さ。」
悪びれる様子もなく、フレイムボルトは言う。
「ウウアアアアァ……」
怪物のうめき声が、怒りを帯びたものに変わった。
「いや、しかし失敗だと思っていたら、なかなかこれは素晴らしい結果だ。興味深いね。これだから実験はやめられない。」
「あなたは、部下を──人間を……なんだと思ってるんですか……!」
「決まっているだろう。消耗品だよ。幸いにも替わりもたっぷりある。君はそのまま、実験の糧になってくれたまえ。──なぜ彼が怪人を捕食するのか、それが知りたいのでね。」
怪物は再び動き始める──
「ああ……嫌だ、嫌だ……!こんなところで、こんな、こんな最後……私は──」
デスモダスがその言葉を最後まで言い切る前に──どこからか射出された鉄の鋭い杭が、彼の心臓を貫いた。
怪物は杭ごとデスモダスの亡骸を丸呑みし、ゴリッ、ゴリッと骨を捻り潰すような、すり潰すような音が聞こえ──止む。
そして怪物の背中。その肩のあたりから、蝙蝠のような翼が皮膚を突き破り──生える。
「ウウアアアアァ……ウオオオオオオオオォ!」
怪物は叫ぶ。その姿は、まるで悪魔そのものだった。
フェイスレス・ウプイリ
怪人から変身する、ヒーローと同系統の兵士「フェイスレスシリーズ」の試作品。
怪人の能力に、ヒーロースーツの身体強化を重ねがけするので圧倒的な身体能力を得ることができる。
本来怪人の体とヒーロースーツ自体は相性が悪くめまいや吐き気、倦怠感や頭痛、匂いの好みなどの変化といった副作用があるが、夜雲が開発した回路によりハンドルギアとフェイスレス用の変身装置により副作用を打ち消した。
黒い煙になり攻撃を避ける、煙を固めて武器や防具にするなど様々な能力を持つが、夜雲の戦闘技術の低さによりあまり使いこなせてはいなかった。




