友達
「これは……何が起きているんだろうかね。私にもわからないけれど、シオンくんは……人間から離れていっているようだ。」
埃をかぶったモニターに表示された心電図を見ながら、富岡は言う。
表示されている心拍数は毎分280。測定器の故障でない限り、明らかに異常だ。
「なんでこんなことになってんだよ……」
蒼は力なく椅子に座り、祈るように手を組んでいた。
彼は無神論者で、完全な無意識の行動だが──何かにすがりたくなっているのかもしれない。
「私も、できることを探してみるよ。それと──」
富岡は悲しげな目で、続ける。
「彼が目覚めたとき、私達が知っているシオン君とは別の何かに変わり果てている可能性もある」と。
「んなわけあるかよ。あいつはきっと──何があってもそうそう変わんねえよ。底なしのアホで、そして──」
蒼の脳裏に、怪物になったシルバーマナの姿が蘇る。
蒼は不安を振り払うように、首を振る。
──あのときだって、タタラはもとに戻れたんだ。きっと、こいつも。
「──そして、もしこいつが正気失ってたら、俺がぶん殴って、正気に戻してやる」
「頼もしいね。もし彼が暴走したら、そのときは頼むよ」
富岡は部屋を出ていく。 病室と言うには風通しが良すぎる、隙間風が吹き込む部屋を。
「なあ、シオン。目が覚めたらさ、飲みに行こうぜ。」
眠り込んだままのシオンと二人きりになった蒼は、シオンに話しかける。
「うちはあんま同僚と飲み会とかないから、店知らないけどさ……調べてさ。タタラも呼んで、しょうもない話で盛り上がったりしてさ。はぁ……らしくねえな。ここんとこずっとだ。お前と背中あわせて戦ってから……でもさ、俺……あのらしくない時間、けっこう好きだったんだぜ。なあ。」
蒼はシオンに話しかけつづける。半分ほどは、独り言だったかもしれないが。
数時間後、何度も振り返りながら蒼は帰っていった。
「変わってるなぁ、彼」
さてらいとはつぶやく。最後に放った必殺技──ネメシスソードの反動は大きく、あちこちの駆動部が焼けている。修理には数日を要するだろう。
「若さ、だね。きっと彼らはいい友人になれるよ。いや、もうなっているのか。さてらいと、君もいずれわかるようになるさ」
富岡はサテライトの胸部駆動を取り外しながら言い、かつての友人──玄龍のことを思い出した。
「そんなもんなのかな。わからないや」
胸から上だけになったサテライトは、火花をちらしながら首を傾げた。