9話
今回は短めですね〜
「酷い目にあった……」
数十分ほど私はずっと鶏に咥えられ、肉体的にも精神的にも疲労してしまった。
というかなんで私だけこんな目に?
今はラーガの少し手前らしいのだが、あまりぶっ続けで走り続けるとエルさん曰く鶏子がばててしまうらしいので休憩を挟んでいる。
「鶏子がああするのは結構珍しいことなんだ。多分気に入られたんだと思うよ」
「嬉しくないです……」
エルさんの言葉にゲンナリとして答えつつ、鶏子へ視線を向けると。
「アハハハ!ふわっふわだねー!」
「フフフ、枕にしたらよく眠れそうね」
桜子とジャッジメントが子供みたいに鶏子の首に掴まってじゃれていた。いや、ジャッジメントって見た目ほぼ子供んだけどさぁ……ん?私もどうなんだよって?私は19なのでいいんです〜!
「コケッー!コッコッコッ!!」
「あ、こっち見た」
「…………」
「コッコッコッ…………」
ジリジリと距離をとる。
私と鶏子の間に火花が散り、沈黙が場を支配する。
コッコッコッ、って鶏子鳴いてるけどノーコメで。
「ケフン」
そしてエルさんの咳払いが合図となり、鶏子との鬼ごっこが始まった。
「アハハハ!はやーい!」
「ほらほらマスター。走りなさーい」
「ちくしょー!おーぼーえーてろー!!」
恨み言を残し、私はひたすら走り始めた。
「ほいほいっと!」
「桜子〜!流鏑馬(?)するなぁ!!」
「よいしょっと」
「ジャッジメントも協力しないでー!!」
「コケコッコー!!」
「テメェ糞鳥ィ!覚えてろよォ!!」
そしてそれを外から眺めてるエルがぽつりと漏らすを
「若いって……いいねぇ」
「貴方年齢幾つなんですかァァァァァあ!!?」
「個人情報はちょっと……」
「コケッー!!」
「ギャァァア!!?」
「し、死ぬかと思った……」
グデーと地面につっぷし、アバターの体だと疲労がないというはずなのにひどい疲労感に苛まれる。
「コッコッコ」
「やめろー、つつくなー」
コツコツと軽めに鶏子の嘴につつかれ、辞めるよう言うけどやはり獣畜生には伝わらないか……
「いやー、やっと着いたね要塞都市ラーガ!」
「大きわねこの壁」
「何メートルあるんだろ……」
「たしか25mくらいだったかな?それに壁の内部に様々な魔術術式が込められているから並大抵の攻撃じゃ傷一つつかないらしい」
私が地べたに倒れて鶏子に小突かれている間、ほかの面々はそびえ立つ巨大な石壁を見上げてそのようなことを話し合っていた。
「フン、私の力ならこの程度簡単に壊せるわ」
「それはなんともまぁ勇ましい限りだね」
「フン、事実を述べたまでよ」
そんなことより私を助けてくれませんかねぇ?
「クエー」
「おっと、そうだったね鶏子。それじゃあ僕らはもう行くから。また縁があったら出会えるだろう。じゃあね」
「ありがとうございましたエルさん!!」
「機会があればまた会いましょうエル」
「ました………」
ヨロヨロと力なく手を振り、さぁ立ち上がろうとしたら……
「こけー!」
「おいこら鶏野郎。離しなさいよ。ご主人様はあっちでしょ?」
「クエー?」
「コイツ……」
また鶏に咥えられましたよ。じたばた暴れる気力も湧きませんよ。
「あちゃー、鶏子……そんなに彼女が気に入ったのかい?」
「クエッ!」
「ふぅむ……ヒビキくん。ひとつ頼めるかい?」
「なんですか……」
少しだけブスっとした物言いになってしまうが、仕方ないと思ってくれるとありがたい。
エルさんは少し悩む仕草をした後、その口を開いてなかなかに爆弾を投下してきた。
「鶏子を引き取ってはくれないかな?」
「ハ?」
一瞬、思考がフリーズする。
「ああ、もちろんそれ相応のお礼はするよ。毎月君に鶏子のご飯代を振り込むし。竜車の弁償は僕がしよう」
「いやいやいや………そんないきなり過ぎません?というかなんで私なんですか?」
「鶏子が君のことを気に入ってしまってね。離れようとしないからだよ。無理やりという手もあるけど僕は彼女の意思を尊重したい」
「えぇ………」
「コッコッコ………」
「いーじゃん響。エルさんもこう言ってるんだからさー」
「そうよマスター。この子の羽毛とても気持ちいいのよ?それにいざというときひじょうし───ケフン」
「今なんか不穏なこと聞こえたんだけど?」
「気の所為よマスター」
プラーンとぶら下がりながら私は腕を組み、少し考える。
はっきりいうとこの鶏を手元に置くのは少し……というか、かなぁ〜り嫌だが相手はレベル99のトッププレイヤー。ここで関係を持っておくのも悪くない。それにこの鶏を足に出来るはずだから後々の利益はおそらくプラスに傾くだろう。
この間を《思考加速》で結論を弾き出し、私は不承不承頷いた。
「……わかりました」
「ありがとう響くん。それじゃあこれが僕のフレンドコードで、とりあえず竜車の代金と鶏子のご飯代を軽く見積って……ハイこれ。多分竜車の持ち主に僕のことを伝えれば勝手にやってくれるから」
エルさんは何かの紙(おそらく小切手)を取り出すと、それにスラスラと文字を書き込んでいき、その紙を私に渡してきた。
「どうも」
フレンド登録を済ませ、その髪を受け取って文字を見てみる。
えーと……ひーふーみーの……………………………
「ピュヒッ………」
なんかゼロがすごく多いね。思わず変な声が出ちゃったよ。
「それじゃあ鶏子。僕はもう行くよ。いいかい?あまり迷惑をかけるんじゃあないよ?」
「コケッー!」
「うん。よろしい。それじゃあ今度こそ失礼するよ」
エルさんはそう言い残し、今度こそお別れとなった。
「えーと……よろしく鶏子」
「クエー」
咥えられたまま私はとりあえず新しい仲間に呼びかけると、元気よく答えてくれた。
とりあえずこの街をセーブポイントとして登録した後に冒険者ギルドにクエストのことを伝え、私達はログアウトして続きは明日やることにした。
〜PM8:30〜
「それでね沙知さん。桜子がね私追いかけ回されてるのに笑ってたんだよ?酷いよね?」
「フフフ、失礼お嬢様。フフ………想像しただけで………笑いが………」
「沙知さんも笑うなんてひどーい!」
頬をふくらませ、恨めしげに私を睨みつけますが、むしろ可愛いですね。
「それにしてもInfinite・Destiny・Answer・Onlineですか………斜陽沙知。いささか興味が湧きましたね」
「本当?」
「ええ、もちろん」
「本当に本当?」
「本当に本当の本当でございます」
「やった!もし沙知さんもやってくれるならすごく頼もしいよ!」
見た目相応にはしゃぐお嬢様……眼福です。
バレないよう高速で私は写真を連写し、即保存をしたあとお体に障るため窘めます。
「お嬢様。そろそろ眠る時間でございましょう?それに明日は定期検診でございます」
「はーい。おやすみなさい沙知さん」
「おやすみなさいませお嬢様」
お嬢様が自分の部屋へ登っていくのを見送り、私は完全に気配が移ったことを確認して懐から携帯を取り出して、電話をする。
2回ほどコールがスピーカー越しに聞こえ、すぐに通話相手と繋がった。
『もしもし?』
「奥様、斜陽沙知でございます」
『あら、沙知さん?そういえば時間だったわね……』
スピーカーの奥からは鈴のように軽やかな美しい声が響く。
この声の方は、私が仕える"神無月 響"お嬢様のお母様"神無月 桔梗"様でございます。
御歳40を迎えるというのに、声には若若さが失われず、むしろ私よりも若く感じるということに、女として些か嫉妬してしまいますが今は日課の報告なのでそのことは放り捨てます。
私は奥様に本日の報告を行いました。
「──というのがここ一週間のお嬢様の行動でございます」
『そう……フフ。響ったら楽しそうで何よりだわ』
「その事なのですが奥様……」
『あら、なにかしら?』
「私もInfinite・Destiny・Answer・Onlineをやってみようと思うのですが、どうですか?」
『ええ、構わないわ』
「かしこまりました」
奥様から許可を頂き、私は内心ガッツポーズをします。
『あぁ……それと。もしその"いんです"?というゲームの中で幹也と会ったなら、少しは家に帰ってきなさいと注意しておいてね。お爺様がそろそろ我慢の限界が近いからね』
「かしこまりました。では、失礼します。奥様」
通話を切り、携帯を懐にしまう。
「さて……フルダイブマシンとソフトはいくらですかね」
ARPCを立ち上げ、私はショッピングサイトで必要なものを全て注文し、代金も振り込んでおきます。
届くの来週ですね。
「フフ、楽しみです」
人知れず私は口を緩ませ、趣味で集めているお酒のひとつを飲むことにしました。
響と奇妙な仲間たち……
誤字脱字のご報告。感想と評価まってます。
評価も嬉しいですけど感想とか、ここをこう直した方がいいんじゃないか?ってやってもらえると勉強になります。