66話
仕事部屋にルーナだけ残していくのも可哀想なので、俺はルーナを連れてサハギンの居住区へと向かっていた。
彼女は二枚貝なので歩くのが不得手だ。俺が誘ったということもあり、背負っていくことにする。
両手が塞がるのは不味いので、おんぶ紐で背中に括り付けているんだけどね。
赤ちゃん扱いだが本人は満更でも無さそうなので問題なし。
途中でお昼寝から起きたエンケラドゥスに捕まり、一緒に行きたいと駄々をこねられたので仕方なく連れていくことに。
仕事でサハギン居住区へ向かうというのにまるで親子連れのような有り様だよ。
「パパ~、エンケラもおんぶして~」
「んー、ルーナは歩くのが苦手だからおんぶしてるんだよ。エンケラは元気だから歩けるよな?」
「うん! エンケラはげんきだよ!」
一緒にお散歩できて嬉しい! と全身でアピールしているエンケラドゥス。うむ、あざとい感じもするが可愛くて癒されるじゃないの。
ついついエンケラドゥスばかり構っちゃうね。
「……二人きりだったのに……」
なんか背中側から冷たいオーラが漂ってくるんですが、俺が貴女の方を見ようとしない理由はそれです。気づいてくださいルーナさん。
さて、最初に比べてサハギンやギルマンの数も増えたが、居住区の拡張は更に進んでいる。
進みすぎて今では軽い迷宮状態。誰も住んでいない場所もあるくらいだ。
もう少し配下を増やしても大丈夫ということかしら……。いや、俺とスバルさんが管理しきれないから止めとこう。
サハギン、ギルマンの居住区は階層も区画も同じだ。生活に必要なものが全く同じなので分ける必要が無い。分けたいという要望も出てきてないし。
サハギンは水中メイン、ギルマンは陸上メインという違いはあれど根っこは同じなのだ。
木の枝のように掘られた洞窟の中には横穴がチーズのように開き、誰かが住んでいる横穴には入り口にカーテンが引かれている。
このカーテンは、自分達で狩ったモンスターの皮を鞣したものだったり、オクトリッド提供の昆布カーテンだったり、俺がカタログから出してやった家具だったりと色々ある。
おかげで表札は無いがどこに誰が住んでいるか分りやすい。
サハギンやギルマンの間では自分で狩ったモンスターの皮をカーテンにするのが流行っている。
強いモンスターのものであればあるほど尊敬を勝ち取れるらしい。
誰がどれだけ強いのか一目瞭然になるので、やる気の向上に繋がっているようだ。
無謀な戦闘で怪我をする者もいるが、種族全体の質の向上にも繋がるため、それぞれの指導者であるカロンとフォボスは狩りを推奨している。
当然、最も強いモンスターのカーテンを引いているのはカロン、次にフォボスである。
以上、スバルさんの報告書より。
「パパ、パパ、あれはなに?」
「あれは清掃舟虫だねー、エンケラの所にも居たろ? 汚れを食べてくれる便利な虫だよ」
「ちいさなむし、はじめてみたよ!」
「……私の殻も、磨いてもらってます……」
「そうなのか、ルーナは綺麗好きなんだな」
「はぃ……」
娘二人があっちこっち引っ張るので目的地にたどり着けない件。
カロンの所に行きたいんだけど、アイツの家は居住区の奥だからなぁ、この分じゃスバルさん達の仕事の方が早く終わるだろうな。
……また怒られるかもしれん。
こうなったら二人をお菓子で釣るか?
進化したばかりの二人であれば、お菓子は十分に魅力的なはず。
俺は配下モンスターの生活の充実のために、配下が狩ったモンスターや拾ったアイテム等から手に入れたDPに応じて、カタログから好きな物を手に入れられるようにしている。
各家庭に簡易カタログを配布しているのだ。
簡単に言えば、配下モンスター達は歩合制で好きに使えるDPが貰えるってことね。
誰が何に使ったかという記録はマスターである俺の所に自動で報告されるので、不正も発生しない。
個人個人で好きなものをDPと交換出来るんだけど、今はまだ家具やら生活必需品やらを購入する者が多く、お菓子などの嗜好品に手を出している奴は少ない。
それは進化した幹部達でも同じだ。
むしろDPの稼ぎ頭である幹部達は、自分のDPの恩恵を種族全体に行き渡るようにしている為、質素な暮らしをしていたりする。
質素といっても、ただの配下モンスターに比べればかなり得をしてるんだけどね。
そこら辺は差が広がりすぎないように調整させてもらっている。
力あるものが報われるように、尚且つ強さだけで差が広がりすぎないように渡すDPをコントロールする……。楽な仕事じゃないよ!
おっといかんいかん、仕事のことを考え出すと止まらなくなるな。
「……ワダツミ様。ここがカロン様の家、ですか……?」
どうやら俺が考え事をしている内に居住区の奥までたどり着いていたらしい。
やけに静かだと思ったら、二人は俺が何か考えていることを察して黙っていてくれたんだと。
できた娘達だ。この子達の気遣いに甘えちゃいかんな。
「そうだな、奥の鰻革のカーテンがカロンの家だ」
「はじめて、来ました……」
「そうだろうなぁ」
「エンケラ、じめじめあんまりすきじゃない~」
「サハギン達には必要な水分なんだよ、エンケラの住んでる場所はスバルさん達と同じだから、此所とは大分違うね……。おーい、カロン、今ちょっといいかー?」
ここには呼び鈴もノッカーも無いので、こうやって声を掛けるしかない。居ることはコールで確認済みだからそのまま入っても問題ないんだけど、一応礼儀として、ね。
俺が声を掛けるとほぼ同時に鰻革のカーテンがバサリと開かれた。
「お待ちしておりましたワダツミ様。む……、ルーナにエンケラドゥスも一緒でしたか。茶菓子が足りませぬな」
「あぁ、気にしないでくれ。例の新しい装備を欲しがってるっていうサハギンの話を聞きたいだけだから」
「ワダツミ様に立ち話をさせる訳にはまいりません。狭い我が家ですが、どうぞ中にお入りください」
青い鱗の巨漢に促され入った家は、広さ的にはせいぜい壁ぶち抜きの2Kといった所。お世辞にも広いとは言えない家だ。家というよりかは部屋だな。
HURM...これは少し問題ですな。
今はこの広さで落ち着いているのかもしれないが、いずれは結婚するサハギン・ギルマン達も増えてくるだろう。ファミリー向けの家の開発をスバルさん
、フォボスと相談しなきゃだな。
うへぇ、仕事を片付けに来て仕事が増える不思議。
でも必要なことだしな、頑張るか。
ウチのダンジョンは従業員にも優しいホワイトダンジョンを目指します。




