64話
「そして今に至る訳ですね。どう言い訳しようとも『幼児愛好家』の称号が全てに語っていますよ、ワダツミ様」
スバルさんの目が絶対零度です……。
これは駄目だわ、ケーキをホールで進呈しても許してもらえないヤツだわ。
要塞ガニという強力なモンスターのトップを俺が幼児に変えてしまったのだから、お怒りは全くごもっとも。
要塞ガニが十全に活用できれば、その殻に兵隊を乗せて敵の船に接近したり、海中から一気に船を突き上げたり、集まって防壁になったりと戦術の幅がかなり増えていたはずだ。
これから行う交易についても、大規模な輸送手段んは要塞ガニによる運搬を構想していた。
だが、代表が指揮能力を欠如していたらどうなるか?
俺が命令した範囲では動くことが出来る。スバルさんの指示にも従うだろう。
だが、それだけだ。それしか出来ない。
指示の内容を自分で理解して行うのではなく、機内のように動くだけ。細かい動作や状況に応じて行動するといったことが出来なくなってしまう。
これは防衛においても交易においてもかなり痛い。
どちらも現場の判断が重要になる場面が多いからだ。
兵隊を乗せて敵船に接近せよ、と命令した場合、罠が仕掛けられようとも、集団で大砲を打ち込まれて死にそうになろうとも命令のままに突っ込んでしまう。
この交易路を進めと命令すれば、嵐や渦潮、高波などが来て積み荷が駄目になろうとも、自身が動けないほどダメージを負おうとも進んでしまう。
だったら細かい命令をすればいいかもしれないが、ぶっちゃけ人化してない配下モンスターにそこまで複雑な指示は出せない。
常に行動を監視してその都度指示を出せればいいが、俺もスバルさんも目が回るほど忙しく、要塞ガニだけに構っていられない。
だからこそ種族を束ねる長が必要であり、スバルさんに早く名付けをしろとせっつかれていた訳なのだ。
「よし、仕方がない、こうなったら要塞ガニには新しい代表を立てよう!」
「出来ないのを分かっていて言ってますね?」
「……はい」
「馬鹿ですか? 馬鹿なんですね? まぁ馬鹿なんでしょうね、でなければこんなことしませんものね」
「……はい、私は馬鹿です」
そうなのだ。出来ないのだ。
代表・長とは重要な仕事。ダンジョンマスターとダンジョンコアに次ぐ権力者だ。
配下同士で権力を巡って争われても困るので、代表を決める権限は俺とスバルさんだけに有る。
下手に知恵を付けたモンスターが代表の暗殺や、俺たちに媚びを売って自分を売り込む、なんてことも考えられたので、代表の証として『名付け』を行って強力なモンスターに進化させ、直接手を出せないようにし、ダンジョンマスターと繋がりを深くすることでHP・MP・SPの一部を共有するようにした。
お分かりいただけただろうか?
ダンジョンマスターと各種族代表は、一蓮托生なのである。
何でこんなことをしたかって?
絶対に身内に裏切られないようにするためだよ。
ダンジョンを落とそうと挑戦者がやってくるっていうのに、内患の世話までしてらんないの。
だから絶対に裏切られない保証が欲しかった。だから命で繋げました。
どうせ各代表が殺られるような時は、俺も多分敵わないレベルの敵が来るときだろうしね。
ある意味、自分の配下すら信用してない措置だけど、ダンジョンマスターってだけで無条件に信頼してもらえると思うほど自分に魅力があるとは思えないので。
スバルさんは信用できる。その理由の一つに、一蓮托生ってのがあるからね。配下もそうすることに何の抵抗もない。
これを思い付いたのはフォボスを進化させる時だけど、その後、カロンとエウロパにも共有させている。
つまり、代表を超強化出来た代わりに、彼らが落ちればその分俺のHP・MP・SPが削られる、と。
そこで今回の一件、エンケラドゥスのことですよ奥様!
代表はダンジョンマスター&コアと一蓮托生。
代表の仕事は自分の種族の細かい管理。
代表が落ちたら俺も弱体化。
これが主なルール。
だけど幼児化したエンケラドゥスに細かい管理とか無理だよねー。
一蓮托生っつったって、この子戦闘になったらまず生き残れないでしょう。
つまり要塞ガニに任せる筈だった仕事はそのまま俺たちのものとして残り、尚且つ重要な戦闘要員を一人削られたということなのですね。
HAHAHA、そりゃスバルさんも怒るわ。
笑えよポーラ、このペド野郎を笑うがいい。
静かに激怒するスバルさんに怒られ正座する俺の膝の上では、エンケラドゥスが丸くなって眠っている。
回収したら離れなくなってしまったのだ。そしてそのまま寝た。もう余計にスバルさんが怒るっていうね。
火に油どころかガソリン注ぐ勢いだよ……。
ちなみにコレ、大広間で代表全員集めての説教だから。公開処刑だから。ポーラもいるから。
壁際に並んだ代表達、俺を俺を助けようとする勇気ある者はいない。くそぅ、冷血な奴等め!
ダンジョンマスターが困ってるんだぞ? 助けるのがダンジョンモンスターとしての務めじゃないんかい?
カロン、フォボスはまるで彫像のように身動きをしない。それが一番被害が少ないと知っているからだ。
エウロパは……あれは別のこと考えてるな。多分、研究とか実験とかの続きが気になってるんだろう。
ネレイドは微笑んでいるが、冷や汗が隠せてないぞ? 分かる、スバルさんは怖いよな、怒らせちゃあいけないんだ。
ルーナは言うまでもないな、ただの二枚貝と化している。あれズルいわ。
「あ、あの、スバル様、もうマスターも反省したようですし、その、エンケラちゃんもベッドに運んであげたいので、もう……」
ポーラぁ! 君はなんていい子なんだ!
よし、あとでおっちゃんがアメちゃん買うてやろ!
「甘やかしてはいけませんポーラ、ペドが悪化します」
「それはもはや暴言じゃないですかね……」
「自分の命と幼児を掛けて幼児を取ったんですよね? 調子に乗りやすい御自分の性格を把握してたんですよね? それでこのザマであるならペドフィリア以外の何だと言うのですか?」
もう止めてぇ! 俺のライフはゼロよ!
「スバル様……」
「……はぁ、未だに呆れた溜め息しか出てきませんが、そうですね、確かにこれ以上は冗長かもしれません。ですが、今回のようなことは二度と起こさないと確約して下さい。ダンジョンの為にも、何よりワダツミ様自身の為にもです」
「本当に、済まなかったと思っています」
プライドも何もない、お手本のような土下座で誠意をもって謝罪いたします。
要塞ガニが機能不全になっちゃった分は、俺が頑張りますんで、もう許してください死んでしまいます。主に俺の心が。
でもあれね、スバルさん、エンケラドゥスには文句付けないのね。
「幼児化したのはエンケラドゥスの責任では有りませんから。ダンジョンモンスターがマスターの意思に沿いたいと思うのは自然なことなのです」
「スバルさんがエンケラドゥスを責めなくて良かったよ、俺のせいでエンケラドゥスがスバルさんに嫌われたら可哀想だもんな」
「見くびってもらっては困ります。私も怒る相手の区別くらい付けているんですよ」
プラス思考で考えよう。子供ということは伸びしろが有るということなんだ。
そう、エンケラドゥスは大器晩成型。未完の大器なんだ。
「そうであると良いですね。ではポーラ、エンケラドゥスを部屋のベッドに運んであげて下さい」
「はい、スバル様。えっと、お仕事、たくさんあるみたいですので、私にもやらせてください」
あぁ、本当なら名前を考えてもらう筈が、結局ほぼ俺が決めちゃったからな。
ネレイドショックで一回頭が真っ白になっちゃったから、ポーラにお願いしたことも飛んでしまったんだね。
すまぬ、すまぬ……。
「ポーラには既に私の補佐をしてもらっているじゃないですか。それで充分ですよ」
え? 何それ初耳なんですけど?
「ポーラ、スバルさんを手伝ってるの?」
「はい……、ほんの少しですが」
「ダンジョン内の清掃と、配下モンスターの健康チェック等を任せてみましたが、なかなか良くできていましたよ」
ここで言う配下モンスターは、『名付け』には至っていない魚系やタコ、カニの仲間だな。
健康チェックって、餌でもあげているんだろうか?
なんだろう……、ポーラが水族館の飼育員みたいに見えてきた。
バケツに餌をいれて、ポイっと投げるイメージ。
「そっか、ありがとうポーラ、偉いぞ」
「え、えへへ……」
はにかむポーラ、うむ、可愛い。
「ポーラに負けないようにもダンジョンマスターとしての務め、しっかりと果たして下さいね」
「…………はい」
しばらくはスバルさんに頭が上がらないな……。
身から出たサビというヤツです、はい。大人しくスバルさんから渡される仕事をこなすマッスィーンと化そう、そうしよう。




