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58話



 ダンジョンへの挑戦者、いや、侵入者になるんだろうか? まぁどっちでもいいけど、彼等の代表は俺に会いたいらしい。


 と言っても、俺も早朝に叩き起こされた上に『大海洋魔法』を広範囲で使用して疲れているし、向こうさんもいきなり面会できるとは思ってないだろう。


 代表格三名には海蝕洞窟のダンジョン内に部屋を用意してあげたし、俺も休んだっていいよね。


 そう思ってベッドでゴロゴロしていたんだけど、早起きで鈍った頭と魔法の行使で疲れた気持ちが回復してくると、段々と冷静になってきた。


 そうして現在、激しい自己嫌悪に襲われております。


 ベッドでゴロゴロくつろぐ筈が、今は後悔と恥ずかしさに身悶えしてゴロゴロする羽目になっている。


「あー……もう、なんであんなことしちゃったかなぁ……」


 目に浮かぶのは迫り来る船団が三角波に襲われ、海の藻屑になる光景。


 俺さ、もしかしなくてもやり過ぎたよね?

 眠い中でいろいろ考えなくちゃいけなくて、イライラしてたのはある。ぶっちゃけ短慮でした。


 だけど挑戦者撃退するのに船ぶっ壊す必要なんてどこにも無いじゃん。

 今回は奇跡と仲間の尽力があって死傷者ゼロでことを収めることができたけど、次も同じ対応をすれば、今度は死人が出るかもしれない。


 スバルさん的にはそれでいいんだろうけど。

 全く、なんで人間を吸収したがるんだか……。普段モリモリ食べているケーキでダンジョンの維持は出来ないのだろうか?


 あー……それにしても、他に方法はいくらでもあったよなぁ。

 例えば『大海洋魔法』で海流を作って船を進ませないようにするとか、ミラージュクラムの霧と合わせて波を操作して方向転換させる、とか。もっと平和的に出来たはず。

 はぁ、ホント考え無しに行動すると落ち込むわ。


 次に同じようなことがあったら、今度はもっと穏便な対処をしよう。そうしよう。


 そもそも、こんなに落ち込む羽目になった理由の一つに、このダンジョンの立ち位置を決めていなかったというのがある。

 ダンジョンっていうのは神様 (?)が人間に課した試練のようなものらしい。

 だが、そのスタンスは様々で、スバルさんからきいた話では人間とは完全に敵対し滅ぶか滅ぼすかみたいなダンジョンもあれば、人間と協力し、国家の繁栄に貢献しているダンジョンもあるようだ。

 また、協力といっても、武力で押さえ付けられ無理矢理資源を吐き出させられている所もあれば、逆に国をダンジョンの支配下において操っている所もあるのだとか。

  

 まだ名前さえ決まっていない俺たちのダンジョンは、これから一体どんな感じで人間と付き合っていけばいいんだろう?


「失礼いたします」


 俺がうんうん唸っていると、スバルさんが入っていきた。


 俺が寝不足と魔力不足でグダグダしている間に、スバルさんには挑戦者達の扱いについてお願いしていたのだ。

 船長クラスには海蝕洞窟に作った来客用の部屋に滞在してもらうが、他の船員達までは面倒を見きれない。彼等には少々窮屈な思いをさせるが、破損を免れた船に残ってもらっている。


 食料については最近余り気味の魔物肉を提供するので、それで何とかしてもらおう。


「スバルさん、捕虜への対処は終わった?」

「はい、そのご報告に。ですが、ワダツミ様はそれ以外のことでお悩みの様子ですね」


 スバルさんにかかっては俺が悩んでいることなどアッサリ見抜かれてしまう。

 最近忘れがちだけど、一応思考というか、意識というか、繋がっている所があるんだよね、俺とスバルさん。


「うん、このダンジョンを、今後どうしていこうかと思ってさ」

「ダンジョンを、というよりも、挑戦者への対応でしょう?」

「スバルさんには敵わないな」


 ということは、俺がどうしたいかもバレているということだよなぁ。


「今更です。私を人化させた時に言っていたではありませんか。人恋しい、と。カロンやエウロパの進化にも影響しているのです、その思いの強さは分かっています」

「そうだな、俺は挑戦者側と交流していく必要があると思ってる」


 ジッとスバルさんの様子を伺う。

 俺の意見を優先して自分の考えを圧し殺して欲しく無いからな。

 俺一人のダンジョンじゃない。みんなで作って暮らしているダンジョンなんだ。


「考えはあるんでしょう? もっと詳しく教えて戴いてもよろしいですか?」

「もちろんその積もりだよ。まず1つ、このダンジョンの立地。この世界に来る前の俺が何を思ってこんな不便な所にダンジョンを作ろうと思ったのか分からない、だけど、ダンジョンに人が来ないってのはマズい。今は島の陸地に生息しているモンスターからのDPで何とかなっているけど、今後ダンジョンを大きくしていくんだったら、島のモンスター達からだけじゃ賄えなくなる」


 スバルさんは黙って俺を見つめている。俺の話が終わるまでは口を出さないでくれるようだ。


「この不便な場所に挑戦者を呼ぶ必要があるんだ。もちろん踏破される訳にはいかないけど、少なくとも交通の便を良くしないといけない。これはオープンまでに解決しなければいけないことだと思う」


 そういう意味では、あのフライングチャレンジャー達は都合が良かった。

 彼らから情報を貰えれば、何を目玉として挑戦者を呼ぶのか、その方向性が定められるだろう。


「挑戦者に友好的なダンジョンを目指す、ということでよろしいのですね?」

「俺はそうしたいと思ってる」


 スバルさんも考えているようだった。

 友好的なダンジョンを目指すってことは、挑戦者側、主に人間と関わりを持っていかなくてはいけないということ。

 ただ来た奴を撃退すればいい敵対的ダンジョンと違って、面倒くさいことがめちゃくちゃ増えるだろう。


 特に人間との関わりとか、人との距離感が分かんないよ……。


「今捕らえている挑戦者達はワダツミ様に面会を求めています。彼らで練習すればいいのです」


 HURMフーム、それも有りか。

 でもなぁ、勢いで船をぶっ壊したという負い目が……。


「何を甘えたことを言っているのです、友好的なダンジョンを目指していれば、もっと不利な条件で会談することもあるかもしれませんよ?」

「わ、分かってるんだけどね……」

「いいえ、分かっているとは思えません。そもそも、その格好で捕虜達にお会いになるつもりですか?」


 その格好って、いつもの服装だけど?

 ちょっと伸びつつあるシャツと、ジーパン。最初のセットに入ってた服で、俺の服はこの種類しかないよ?


「はぁ……仮にもダンジョンマスターがそんな草臥くたびれた格好で現れたらどう思われるか、分からないワダツミ様ではありませんよね?」

「うっ……」

「分かっていただけて何よりです。ではこちらが服飾関係のDPカタログになります」

「えー……、じゃあもう声だけとかで良いじゃない、顔見せなんかしなくても」

「駄目です」

「そうだ、カロンかフォボス辺りを替え玉に」

「駄目です」

「人前に出たくないでござる」

「駄目です」


 とりつく島もないとはこの事か。

 うぇーん、行きたくないよぉ、会いたくないよぉ。

 開口一番で罵詈雑言皮肉や嫌みが飛んできたらショックで全部流してしまいそうだ。海流的な意味で。

 でも言われるだけのことをしちゃってるんだよぉ、あぁ、嫌だなぁ。


「何をそんなにゴネているのですか。船が壊れたのは、あちらがオープン前のダンジョンに攻め入ろうとした報いです。全員の命を助けてあげたのですから文句を言われる筋合いはありません」


 スバルさんくらい割りきって考えられたらいいんだけどね……。


「ふーむ、ではワダツミ様は、要は自分が恐れられ怖がられるのが嫌だということですか」

「ざっくりとした感じで言えば、そうなる」


 誰だって嫌われるのは嫌でしょうよ。

 八方美人は辛いっていうけど、性分らしく中々変えられんのよ。


「では、変装などしてみたら如何でしょう?」

「変装?」

「はい。ワダツミ様の外見を今のお姿とは結び付かない容姿に変装させ、非情な場面では変装し、そうでない所ではいつものお姿でいて頂くのです」


 変装かぁ……。その発想は無かったな。

 仮面を被ると別人になったような感覚があるって言うし、そうやって切り替えるのも良いかもしれない。

 少なくとも、このまま悩んでグダグダしているよりかはずっといい。


「取り合えず変装グッズを探してみようか」

「はい、といってもパーティグッズなどでは駄目ですよ? しっかり本格的にやって頂かないと」


 映画の特殊メイクみたいなのは無理だけど、仮面ならちょっとDP高めのもあるかなぁ……。

 ガスマスクやペストマスクまであるのか、ヤバイな、なんだか、心が疼く。テンション上がってきた。

 俺の中の中学二年生は暴れてやがる!


「よっしゃ! いっちょお客の度肝を抜くような変装をしてやろうか!」

「乗り気ですね、ワダツミ様」

「毒を食らわば皿までさ! 思いっきりやるぞぉ!」


 この時、俺はテンションが上がっていた。

 テンションにまかせて暴走して自己嫌悪したばかりだというのに、全く学んでいない俺は、後にこの事を後悔する羽目になる。


 ……人は、過ちを繰り返す。



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