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59話





 薄暗い洞窟の中を白熱電球にも似た改造海藻フィラメンティアのオレンジ色の明かりが照らしている。


 洞窟の壁をくり貫いた、岩肌がむき出しの空間。

 空気はじっとりと湿って気持ちが悪く、お世辞にも居心地が良いとは言えないが、この人数が集まれる部屋はダンジョンの中でここしかなかった。


 これまた岩を削り出して作ったテーブルに着くのは四人の人影。


 『鮫殴り粉砕傭兵団』団長 イングヴァー

 『青塩党』頭領 ヴィゴ

 『夜鳴き妖鳥女』船長 ボルグヒルド


 そしてダンジョンマスターである俺、ワダツミ・グラコウスだ。


 俺の背後にはカロンとフォボスが控え、いつでも動けるようになっている。

 対して、団長さん達は丸腰で護衛なし。これは仕方ない。だって扱いは客分でも立場は捕虜だし。


 圧倒的優位な立場。スバルさんがここで対人交渉の練習をしろと言うわけだ。

 ここで一番発言権があるのは俺で、たぶん余程の無茶じゃない限りは要求が通る。

 まぁ、俺が発言するというよりも、挑戦者連合の方々が俺に何か要求したいからこの会談が開かれたんだけどね。


 まぁしかし、練習になんのかこれ? ってくらい立場が強い状態でスタートしているんですが、俺の心は晴れません。

 むしろ晴れ間なんかありません、どしゃ降りです。ダウンプアです。


 俺の対面に座る三名を見るが、誰とも目が合わない。三名とも、俺と目を合わせないように必死なのだ。


 何故って?

 ははっ、この三名の立場だったら誰だってそうする。俺もそうする。


 まぁ、怖いよね。

 俺、今まんまモンスターだし。


 その姿を簡単に描写してみよう。

 まず目につくのは頭部。溝水どぶみずのような不快な茶緑色をしたタコのものであり、表面の粘液が油膜のようにぬらぬらと虹色に光っている。そこに鋭い巻き貝のような兜を被っているのだ。

 顔のパーツの位置は人間のものと似通っているけども、目は黄色く濁ったタコの目だし、口は真っ黒な嘴だ。


 この時点で既にSAN値ピンチ確定のグロさなのだが、まだ終わらない。まだ首から上の紹介だけだ。


 首から下はかろうじて人間のシルエットが残っているが、青銀の魚類の鱗に覆われいかにも屈強……そうに見える。

 中身が俺な時点でお察しね。

 実際体格がショボいのを隠すために要塞ガニの中でも一番の猛者の黒い甲殻を譲り受け、キチン質の重鎧を制作、着込んでいる。当然、頭部以外の全身鎧だ。


 それだけでも十分だというのに、エウロパ製のドラゴン骨とイモガイのトライデントがあったり、鋼靱昆布を編んで作ったマントを羽織っていたりと、なんか凄い。


 俺の身長や体格を二回りは水増ししていると言えば装備の分厚さが分かるだろう。

 シルエットがただの好青年からダブルラリアットなレスラーみたいになってます。


 一応言っとくが、人間やめた訳じゃありませんからね? ただの変装だから。いやもうこれは仮装か。


 いやね、最初、俺はいつもの格好+仮面的なもので良いと思ってたのよ。テンション上がった悪ノリと言えど、俺に浮かぶアイディアなど精々その程度。


 でも、それじゃ危険だとスバルさんが必死に止めるので、急遽、ダンジョンマスターは人間じゃない設定を作ることになったのだ。


 過去のダンジョンマスターの中には不用意に正体を明かしたことで暗殺されたという人もいたらしい。

 そんな話を聞いたら、怖くなっちゃうじゃん。

 すぐにダンジョンマスター変装計画を大幅修正したね。


 だけど、そこからが問題だった。

 俺を何に変装させようかという話になった時、何処から聞き付けたのかカロンとエウロパが参戦し、まだ身軽に行動できないサルガッソ、ミラージュクラム、要塞ガニまでわざわざコール画面で参加する始末。そして全員が全員、自分に近いモンスターの姿が良いと主張したのだ。


 カロン、エウロパを中心としたモンスター達、人外主流組に対するは、人型から外すのは反対なスバルさんとポーラの二人。

 俺を置いてきぼりにした話し合いは混迷を極め、俺がダンジョンマスターとして強制介入しなくてはならない程だった。


 話し合いの結果、名前まだ組は、俺の所為とはいえ目立った戦果が無かったということで装備品に落ち着き、スバルさんとポーラは、とりあえず人間のシルエットは残すということで妥協した。

 最後にカロンとエウロパがジャンケンをして、どっちが頭部を取るか決めたのだ。


 まさかエウロパが触腕二本を使ってチョキを出すとはカロンも予想できなかったようで、パーを出した自分の手を見ながらしばらく呆然としていたものだった。


 俺としては、まだ人間らしさが残せる可能性があった半魚人顔が望ましかったのだが、ジャンケンで決めろって言ったのは俺だし、顔面がタコなら間違っても身バレはしないだろうと思ったので、最終的には了承した。


 そして、各担当が頑張った結果、深海の悪魔とも形容すべきおぞましく冒涜的な仮装が完成してしまったという訳だ。

 エウロパに至ってはハッスルして武器まで作っちゃったので、恐ろしげな風貌に禍々しい武器まで追加されちゃってもうどうしようもない。


 マイナス印象にマイナス印象かけてプラス印象にならないかなーとか思ったけど、マイナス印象が加速しただけっぽいね。


 みんな固まっちゃってるし、仕方がない、俺から話してやるか。


「さて、我がダンジョンは未だ開いておらぬのだが……、物々しい船団を率いて何用だったか、詳しく聞かせてもらおうとしよう」


 あ、ちなみに声も変わっています。

 しゃがれた声に、水の底からごぼごぼ言うような聞き取り辛いノイズが混ざり、理解を大変困難にしております。

 まぁ頑張れば聞き取れるべって感じ。


「へ、へぇ、それが、その……、お宅と交易できねぇか……、いえ、出来ませんか、と思いまして……」


 傭兵団長のイングヴァーさん、完全に目が泳いでいるな、もうバタフライレベルで目が上下してるわ。

 だがよくぞ一番最初に発言した! 偉い、貴方は勇者だ!


 ……しかし、交易ねぇ。まぁそうなるよねぇ。


「交易か……」

「決して悪い条件では結びませんです、知っての通り、ダンジョンってのは資源の宝庫ですから、マスターの旦那には損させませんぜ」

 

 おっと、口に出てたか。

 ダンジョンが資源の宝庫って、そりゃDP使えばある程度なんでも出せるし、支配下に置いた地域から色々採れる。

 ウチなんかだと、海産物は勿論、独自に研究開発した海藻類。モンスター素材を使った武器防具ってことろか。


 いずれは海底資源にまで手を出していきたいと思ってたけど、早々に諦めた。海底資源が何か分からないし。

 石油とかレアメタル、天然ガスが採れました! じゃあどうすんの? ってなっちゃう。加工の方法なんて知らんわ。


 俺が言うべきなのは今用意できるダンジョンの品揃えじゃないな。

 いきなり最初からこれだけ出来ますよって言ったら足元見られちまう。

 このダンジョンウチが挑戦者側と友好関係を結んでもいいと匂わせつつ、相手の希望を引き出し、こちらの価値を上げる。それを目指さないとな。


 そもそも、このダンジョンってどう思われてんだろ?

 対外的な行動はもう少し後の予定だったからなぁ……。オープンに向けて、船でこの島に来られる範囲にある人間の勢力図を作らなきゃって考えてた所だったし。

 やっぱ隠密とか諜報期間とか、そういうのが必要だな。

 カロンとフォボスは今後も護衛をお願いするだろうし、そこら辺の知識も覚えてもらうか。

 いやいっそ隠密に特化した新しい種族の進化を促して組織を作るべきか。


 いかん、思考が別の事に傾いた。今は目の前の御三方との話し合いをどうにかしないとな。


 ま、コイツ等は元々攻めるつもりで武装して来たんだから、この交易云々はただの苦し紛れの言い訳というか、命乞いなんだと思うけど。


 よし、遠回しに聞いてみよう。

 ダンジョンはどういうのが多いのか、人間側はどう思ってるのか。



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