54話
「マジかよスゲェな異世界」
挑戦者の船を監視させているリトルフィッシュの視界を借りてたんだけど、いや、ホント凄いとしか言い様の無い光景だった。
だって、大人よりでっかい女の子が常識に当てはまらない速度で泳いで海に落ちた人たちを次々に救助してるんだよ?
こんなの予想できないわ。
「良かったではないですか。これでブルーサハギンやサルガッソ、要塞ガニ達に不自然な救助をさせなくても良くなりました。間に合わなかった分は不可抗力ですよね?」
「うん、まぁね、そうなんだけどね」
高い所から落ちると海面がコンクリート並みに固くなるって聞いたことがあったから、サルガッソには海草クッションになってもらってたんだけど、これは言わない方がいいか。
多分、今回の魔法で死んだ人はいない、筈だ。
これでビビって帰ってくれないかなーなんて思ったり。
スバルさん的には餌を取り逃がすつもりは無いんだろうけど。
優柔不断で考えがふらふら変わって悪いんだけども、無益な殺生も有益な殺生も、やっぱ拒否ってことで。
人間殺す → DPになる → 俺もDPを利用する。
これってある意味カニバリズムだよねって考えたら、戦場の習いとか無益な殺生はしない、とかそういう理屈がどうでもよくなった。
嫌なものは嫌。共食いは気分が悪いんです。
「まだオープン前なんだし、ここはサービスってことで」
このままだと明らかに救助が間に合わない連中は、こっちで受け持とう。
デカい女の子が助けまくってる所はサルガッソがちょちょいと手伝えば良いとして、残りの2ヶ所にブルーサハギンだな。
「……それはやはり、ワダツミ様が人間であるからですか?」
「うん、ごめんな。まさか魔法がここまで効果的だとは思わなかったし、俺も何処かでまだ、此所対する現実感が無かったんだと思う」
特に戦場の習い云々のところ。
頭の中がタワーディフェンスゲームやるみたいな感じになってた。
だから魔法で一掃するなんて考えになったんだと思う。
ゲームと現実をごっちゃに考えてはいけませんよ、いやホント。
これが実際魔法やモンスター、ダンジョンなんてファンタジーがリアルに存在しているから起こり得る弊害だね。
「人間が最もDP変換効率が良いのですが……」
スバルさんが残念そうにモニターに映る人たちを見つめている。
完全に捕食者の目やでぇ。
「やっぱり?」
「はい、そもそも挑戦する者のために作られたダンジョンですので」
「だよねぇ」
普通はもうちょっと人間が住んでいる地域に近いところに出来るもんだよね、ダンジョンって。
それがこの世界に来る前の俺は何を思ってか、交通が不便ってレベルじゃねぇぞって場所にダンジョン作っちゃうんだもんな。
自分自身のことながら、全く考えが理解できません。
まぁ、過去のことを思い出そうとすると、思い出したくもないって不愉快な気持ちが溢れ返るから、やんない。
多分嫌なことがあったんだろうね。知らんけど。
「理由はどうあれ、ワダツミ様がそう決めたのであれば、私は従います」
「……嫌なら嫌って言っていいんだよ?」
「いえ、挑戦者を見逃す程度、何の問題も有りません。ですがそうですね、やはり突然の変更は驚くものです」
き、来た! やはりおねだりがあったか!
危ねぇ、これをスルーしてしまったら後で何をされるか分からねぇ。
だが欲しいものは知ってるぞ! 俺が『名付け』によってレベルアッポしたからな、DPで変換できるものリストにも大幅な更新があった。そう、デザート系にも!
ケーキだろ? 新しいケーキが欲しいんだろ? 3個か? 3個ほしいのか? このいやしんめ!
「分かったよ、俺も何もタダで無理を通すつもりはない。何でも言ってくれ」
さぁ、言えよ、覚悟は出来てる。3000ポイントまではな!
「では遠慮なく。魔冷泉の源泉をダンジョンまで引っ張ってきて下さい。出来るだけ早く、DPは節約して下さいね」
「え?」
「何ですかその顔は? まさか私が何も考えず甘味を頼むと思っていましたか?」
思っていましたが何か? とは口に出さぬ。
出してはならぬ。表情にもだ。
出せば死ぬぞ。
「……まぁいいです。魔冷泉の源泉を引っ張ってくる際の注意なのですが、島の方の泉は枯らさないようにお願いします」
「え? それ無理じゃない? ここまで引っ張ってきて、溜め池みたいなの作るとしたら、結構水量いるよ? 多分島の方は枯れると思うんだけど……」
「何のために島の上層部はダンジョン化していないと仰っていましたか? 島のモンスターから恒久的にDPを取るためでしょう。ならばモンスターの成長を促す魔冷泉は必須です」
それならわざわざダンジョンに引っ張ってこなくてもいいんじゃないかなって、僕は思うんだ。
島に有ろうがダンジョンに有ろうが、汲むのは多分俺だし。
「魔冷泉がダンジョンに有れば、微々たるものですが毎日DPが入る他、ダンジョンモンスターの強化にも使えます。また、生活用水としても使用できるでしょう。正直、なぜ最初にこれに着手しなかったのかと悔やまれてなりません」
「最初は無理だろ、俺が死ぬわ」
「では今が頃合いだった、ということで。早速お願いします」
「いやいやいや、今は挑戦者の方々がいるじゃん、ね? 今は駄目でしょ、せめて帰ってからでしょ」
スバルさんは無情に首を横に振った。
取りつく島も無い。孤島のダンジョンだけに、取りつくs
「言わせませんよ? それと、挑戦者達ならば問題ないでしょう。ワダツミ様の『大海洋魔法』により指揮官が全滅、船団がほぼ機能していません。万が一起ころうとも私が対処致します。島での活動には支障はありません」
ソウデスネ、れっどぎるまんタチモイルシネ……。
これもう逃れらんねぇわ、皆がドンパチガチャガチャやってる最中に、俺だけ土木工事する流れだわ。
「せめて、ダンジョン機能で戦いの様子は記録しといてね……」
「お任せ下さい。ささ、ワダツミ様にはこれから大変なお仕事が待っていますので、まずはしっかりお食事を取ってください。今日から忙しくなりますよ」
今が忙しいんじゃなくて、今日から忙しくなるんかい。
スバルさんの中では挑戦者達は終わったことになってるのね。挑戦者ェ……。
俺がやりすぎたせいであるんだけど。正直、すまんかった。
嬉しそうに朝食の準備を始めたスバルさんの後ろ姿を見て、先程までの真面目ムードな喧騒はいったいなんだったのかとちょっと切ない気分になった。
モニターの向こうではまだ必死の人命救助とか続いているんだけど……。
いいのかなぁ……?




