43話
私はダンジョンコア。
ダンジョンマスターがダンジョンを製作するのをサポートし、ダンジョンを管理することが使命の存在。
天上の神がこの世に試練をもたらすために組み上げた、ただのプログラム。
言ってしまえば、いくらでも代えの効く物品なのです。
私が壊れればこのダンジョンは崩壊しますが、世界にとってそれは痛手ではありません。
そして、ダンジョンマスターにとっても。
ダンジョンが踏破され、ダンジョンコアが破壊されようとも、ダンジョンマスターにはなんの影響も無いのです。
いえ、影響が無い、と言っては大袈裟ですね、多少ではありますが、影響はあります。
ですがそれは、ほんの少し休眠を取るようなもの。
稀にダンジョンマスターが討伐されることもあるようですが、世界の人々にはダンジョンコア破壊することの方が重要であるように教えられているようですしね。
復活したダンジョンマスターはまた何処かでダンジョンを作るのです。
また新たなダンジョンコアを得て。
ダンジョンマスターにとって、コアとはそういう物なのです。
だというのに、私のダンジョンマスターは変わっています。
いきなり天井に穴を開けたかと思うと、貴重なDPで魔法を習得し自ら魔物を撃退しました。
ダンジョンマスターというものは自ら戦うものではありません。侵入者は罠やダンジョンモンスターを利用して撃退ないし討伐するものです。
記念すべき最初の戦闘がオープンもしていない生後数時間で行われ、ダンジョンマスター自らが一人で為したなどという体験をしたダンジョンコアが他にいるのでしょうか?
道具でしかない私のためにわざわざ狩りまでしてDPを稼いで下さり、こちらの指示に従ってくれさえするのです。
これでは一体どちらがダンジョンマスターなのか分からなくなります。
マスターと一緒にいる内に、私はマスターがいったい何を求めているのか理解できてきました。
マスターは関わりそのものを求めていらっしゃるのだ、と。
私のことを迷い無く人化させた時に、その思いは確信に変わりました。
ならば、私は私をそのようにいたしましょう。
マスターに喜怒哀楽を持って接し、人間のように振る舞いましょう。
それが、私に『私』というものを与えてくださったマスターへの恩返しになるでしょう。
私はもうただのダンジョンコアではありません。
私はスバル。
ダンジョンマスターであるワダツミ様にお仕えする者。
ワダツミ様は最近、御自身の能力の把握に努めていらっしゃいます。
中でも素晴らしいのは『配下モンスター覚醒』ですね。『配下モンスター進化』の上位互換であるこのスキルは、モンスターの成長・進化を促すだけでなく、その才能・スキルの開花をもたらすのです。
お陰でブルーサハギン・ジェネラルのカロンは更に逞しく成長し、武芸と統率に秀でたスキルを獲得したようです。
オクトリッド・クイーンのエウロパは錬金術だけでなく、魔術にも特化し、ワダツミ様ほどで無いですが、海水を使った魔法を取得しました。
レッドギルマン・ソルジャーに進化したフォボスも『覚醒』の恩恵を受けたようで、水と火の魔法を使えるようになっていました。
私もこのままではいられません。
ダンジョンのサブマスターとしての権限はいただいておりますが、そこで慢心すれば、配下のモンスター達よりも非力な存在となってしまうでしょう。
ただのコアならばそれでも良かったかも知れませんが、私は人型コアのスバル。
このダンジョンで最も強い方がワダツミ様ならば、私はその二番目にいたい。
私こそが最もワダツミ様のお役に立てるのです。
ダンジョンコアならばダンジョンマスターに従うことを機能として刷り込まれているものですが、私は私の意思で、スバルとしてワダツミ様のお役に立つと決めたのです。
カロンにも、エウロパにも、フォボスにも、ポーラにも、私は負けたくない。
あぁ、人の体とは、人の思いとは何と厄介なものでしょうか。
配下モンスターや幼い客人にまで競争心を抱き、嫉妬を感じるなど。
ですが、なんと充実し、輝いて見えるのでしょう。
感情があり、心が動く毎日は。
ふふふ、他にも居るであろうダンジョンコアよりも優越感を感じてしまいますね。
彼らはきっと、ミルクレープやザッハトルテの味を知りません。
配下モンスターやダンジョンマスターと何気なく交わす会話の楽しさを知りません。
この素晴らしい感覚と感性を与えてくれたワダツミ様に永遠の感謝と忠誠を。
もう私はワダツミ様無しでは生きられません。
もしも私が壊れたら、ワダツミ様が他のダンジョンコアとまたダンジョンを作り始めるのだ、と考えると、気が狂いそうになります。
ですから、私は自重しません。
このダンジョンをもっともっと強く大きくして、誰も攻略できない難攻不落の魔境にしましょう。
そうすればずっと一緒にいられますよね、ワダツミ様。