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36話




「ん……」


 DPを稼ぎに行くようにマスターを促して、数分後、奴隷の少女が目を覚ましました。


 白い髪に灰色の目。丸い耳。

 人間には見ない特徴です。この娘はいわゆる獣人という種族なのでしょう。


 マスターはこの娘を保護すると仰いましたが、この娘に敵意があるかどうか、まだ分かっていないのです。私が見極めなくては。


 考えすぎかもしれませんが、マスターは同種、人間に恋しさを抱いておられます。

 ダンジョンコアである私を擬人化したり、配下たちが人に近しい姿に進化したりしたことからも、それは明らかでしょう。


 それは悪いことではありません。人である以上、仕方がないことだと思います。


 ですが、それは弱点にもなり得るのです。


 世の中には、騙し討ち、奸計、裏切り、様々な手を使ってダンジョンを攻略しようとする輩がいます。

 このような弱い姿を装って、まだ成長しきらないダンジョンを攻めてやろうと考える悪党がいないとどうして言い切れるでしょう?


「ここ、は……」

「目が覚めましたか。御気分はどうですか?」


 ふむ、私を見て怯えたような表情をしていますね。

 演技では無いように思えますが、まだ油断はしません。


「……だれ?」

「……」


 誰、と来ましたか。

 ここでダンジョンコアであると名乗る訳にはいきませんね。

 しかし、ならば何と名乗りましょう?

 マスターは私のことを『コアさん』とお呼びになりますが、それは私がダンジョンコアだからであって、『コア』という名前ではありません。


 何ということでしょう!

 私には名前がないのです。

 こんな所で気付くとは大きな失敗でした。

 エウロパやカロンには有るというのに、私には名前がない。これは由々しき事態です。

 マスターが戻ってきたら直ぐにでも名前を頂きましょう。


 ですが、今はどうしましょうか……。


「人に尋ねる時は、先ずは自分から名乗るものですよ」


 この場はお茶を濁しておきましょう。

 後でマスターに名を貰ったら改めて名乗れば良いのです。


「……名前? ……あたしの……?」

「えぇ、そうです」

「……無い」


 参りましたね。これでは話が進みません。

 奴隷というものは名前がないのでしょうか?

 私の知識が正しいのなら、獣人は名前をとても大事にしている筈なのですが。


「では何と呼ばれていたのでしょうか?」

「……おい、とか、お前、とか……?」


 あぁ、これは駄目です。

 恐らく奴隷同士で生まれてしまった子供ですね。

 親が奴隷なので満足に名も与えられなかったのでしょう。


 この娘が敵対することは、多分無いでしょうね。

 今この場で私が殺そうとしても、この娘は無気力に受け入れるでしょう。


 濁った泥水のような、何の光も映さない目をしています。


 マスターも何でこのような生きる気力の無い者をわざわざ生かそうと思ったのか……。

 案外、酔狂な方なのかもしれません。


 今さら殺してDPに変換すると言われてもお断りですが。

 これでも食べ物にはうるさいんですよ。

 こんな魔力も生命力も乏しい人形同然の魂を貰っても、きっと不味くて吐き出してしまいます。


 せめてもう少し生きるエネルギーがあれば食べられないことも無いのですが。


 こう考えると、私は今この娘を将来食べる為に保護しているみたいですね。

 きっとマスターが怒るのでやりませんが。


 あぁ、面倒です。

 擬人化してから空腹に悩まされたり、思考が纏まらなくなったり、眠気に襲われたりとまったく良いことがありません。

 もうこの娘はマスターに任せてしまいましょう。


「貴女を助けたのは私のマスターです。今は仕事の為、外に出られております。マスターが戻られたら貴女の今後を決めますので、大人しくそこで待っていて下さい」

「…………」


 返事がありませんが、了承したということでいいのでしょう。

 逃げようとした所で逃げられる場所ではありませんしね。

 念のため洞窟の入口にオクトリッドを一人配置しておきましょうか。


 そうだ、餌付けでもしてみたら良いかもしれません。

 スープでも作ってみましょう。


 その内、食べ頃になったらマスターから許可がでるかもしれませんしね。



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