28話
俺の前には五匹のオクトリッドと三十匹のブルーサハギンが揃っていた。
俺がリストを見ている間に海から上がってきて、俺の前に整列していたのだ。
わざわざ進化したことを報告に来てくれたらしい。
出来た配下たちだよ。
でもガチガチに緊張している奴らとかいるな。
何故だ? 別に取って食ったりはしないぞ?
ここはただの生活スペースで、俺が座ってるのはただの丸太。謁見の間って訳でもないんだから、楽にしてたらいいのにね。
「我ガ主ヨ、コノ度ハ我ラニ力ヲ授ケテ下サリ、感謝ノ極ミデ御座イマス」
オクトリッドの中でも、他のタコ達よりも幾分細身で人間っぽい体格の奴が俺の前に進み出て膝を着いた。
HURM...
オクトリッドのリーダーはこいつか。
ん? 敬礼のつもりか胸に当てている腕? に何かの傷痕があるな。
あぁ、アレか。
海蛇に噛まれて毒状態になったタコか、このリーダー個体。
「構わん。励め」
何に励めばいいのか指示とかしてないけど、取り敢えず偉い人はこれ言っとけば良いってばっちゃが言ってた。
「ハッ、我ラオクトリッド、主ニコノ忠誠ヲ捧ゲマス!」
「サハギンモ同ジデ御座イマス! 主ノ敵ハ全テ討チ倒シテ御覧ニイレマショウゾ!」
オクトリッドに負けじとブルーサハギンの中でも体格が優れた奴が身を乗り出してきた。
こいつは戦士タイプだな。
魔法や学問でオクトリッド。武力や防衛でブルーサハギンといった感じか。
そういやDPで取得出来るスキルの中に『名付け』ってあったな。
確か500ポイントで取れたはず。
配下に名前を付けたらパワーアップとかダンジョンもののテンプレやん。
早速取得してオクトリーダーに名前を付けてやろう。
DPはダンジョン拡張に使うと言ったけど、これくらいは誤差誤差。
『名付け』 必要DP 500
配下に名前を付けることでネームドに覚醒させることが出来る。
その際、名付ける配下に任意でDPを注ぐことでより強く成長させることが出来る。
一回の名付けで更にDP消費するのか。
これは思ったより散財になりそうだな。
今回はオクトリッドのリーダーとブルーサハギンのリーダーを名付けるだけでいいか。
追加DPは、まぁ結構残ってるしな。5000くらいつぎ込むべ。
「ではオクトリッドの長にブルーサハギンの長よ、今からお前たちに名を授ける。これによ
りお前たちをこのダンジョンの幹部とする。これか忙しくなるが、宜しく頼むぞ」
「ハッ! 身ニ余ル光栄ニ御座イマス」
「ドンナ御命令デモ遂行シテ見セマス! 主万歳!」
「う、うむ……」
ダンジョンモンスターってなんでこんな俺をリスペクトしてんの?
マスターだから?
この勢い、ちょっと引くわぁ。
「ではオクトリッドの長よ、今よりお前は“エウロパ”と名乗れ。ブルーサハギンの長よ、お前の名は“カロン”だ。二人とも分かったな?」
名前を付けた瞬間、二人の体が発光し、見えなくなった。
“『名付け』による特殊進化条件を達成しました。個体名:エウロパは進化します”
“『名付け』による特殊進化条件を達成しました。個体名:カロンは進化します”
うわぉ。ネームドに覚醒ってこういうことか。
何だか凄そうだな。
というよりか、俺より強くなりそうだな。
光が収まると、其処にはより人間の姿に近付いたエウロパとカロンの姿があった。
エウロパは陸上で移動しているだけのタコ人間とだった姿から一変、タコから人間の体が生えているような姿になっていた。
ただ、人間の形をしているといっても、まるっきり同じな訳ではない。
体色はピンクめいたタコ色だし、目は黄色の眼球に横に割れた黒い虹彩が走っている。
あと胸が残念。
顔立ちや体系は完全に女性なんだけど、胸が……。
いや、女性の価値はそこだけで決まるものではない。
それに、見た感じちょっと幼いしな。これから成長するかもしれないし。
カロンは反対に筋骨隆々の男だ。
まるっきり魚だった顔は、人間のそれに変化し、顔立ちは厳めしく、既に歴戦の戦士の雰囲気を放っている。
目は魚のどんよりした様子は無くなり、視線だけで射殺せそうなほど鋭い。
全身はウロコがびっしりと覆い、頭の横からヒレのようなものが伸びていた。
半魚人の魚っぽさは大分無くなり、四分の三くらい人間になっている。
「主様、力に加えて名前まで授けてくださり、心からの感謝を申し上げます。オクトリッド・クイーンのエウロパ、主様に頂いた名前に恥じぬ働きをしてみせます」
「ブルーサハギン・ジェネラルのカロン、主様の剣となり盾となり、あらゆる障害から御身をお守りいたします」
かしずかれるのも中々気分がいいな。
こいつらに相応しい主で在れるよう、俺も頑張らないとな。
これでダンジョンはかなり強くなった。
ちょっと強気で周囲を拡張してみようかね。