9話 マリーウェザーに捕まった昼休憩
午前の就業時間が終わり、昼休憩になる。
いつもの中庭は今日も人が少なく穴場なのだとレティリアは満足気に息を吐く。
その手には、相変わらず持ちきれない量のサンドイッチがあって、すでに空腹を訴えるお腹が大音量を鳴らしている。
「…………今すぐに食べないと干からびてしまう」
解体できないイライラと、空腹のイライラが重なったら、もうレティリアは我慢が出来ない。
ベンチに座って大量のサンドイッチを置き、いざ! とサンドイッチのフィルムをピリピリと破ると、招かれざる客の声が響く。
「レティさーん!」
ふわっとした声が、後ろから飛んでくる。声の主はもちろん、あの夢見がち受付嬢マリーウェザーだ。
「マリーウェザー……」
「今日もサンドイッチなんですね! 昨日教えてもらったやつ、私も買ってみたんです!」
「……そう」
勢いよく隣に座るマリー。
まるで最初から約束していたかのような自然さで、当たり前のようにレティリアの視界に入ってくるのだが、誰も呼んでない。
ヒロインクオリティなのか、自分なら許されると思っているのか。
空腹が激しすぎて突っ込む余裕もなく、とにかく食べようとサンドイッチに噛み付く。
その横で、見てください! ほらっ!! と買ったサンドイッチを見せる。
確かにそんな話を以前したな……と、思いながら。
「レティさんって、すっごく一人で行動するタイプですよね。でも、私たち、最近けっこう一緒にいますよね?」
「……え?」
レティリアの手が止まる。
何を言ってるの? とマリーウェザーを見るとキラキラした目でレティリアを見て、にっこり笑ってからパクっとサンドイッチを食べた。
「昨日のお昼も、その前も同じ場所にいたし、ほら、今日も偶然ここで会ってるし。なんかこう、運命感じちゃいますよね!」
「……それ、ぜんぶ偶然だと思うけど」
「えっ、違いますよー。これはもう、仲良しってことで!」
悪気のない笑顔でそう断言して、勝手にレティリアの新作サンドイッチを取ろうとする。
伸ばそうとするマリーの手を、ピシッとレティリアが叩いて止めた。
「ちょっと。やめて」
「あっ、ごめんなさい!なんかもう、レティさんってお姉ちゃんっぽいから、つい甘えたくなっちゃうんですよね」
「…………私、そんなタイプじゃないけど」
「えー、でも優しいし、つい頼りたくなっちゃうし、あ、あと、今日の解体指導の時も!凄くかっこよかった!」
満面の笑みで語りかけてくるマリーを、レティリアはじっと見つめる。
その瞳は本当に純粋で、悪意も下心もなかった。
だからこそ、やっかいだ。
(関わると面倒なことになる。ただでさえ友達が周りに集まるマリーウェザーはちょっとしたことでレティリアも巻き込みたがる。さらに、本編は忘れているとはいえ、いつどんなことがきっかけでリレー小説に巻き込まれるかもわからない……)
「……マリー」
「はい!」
「なんで私にそんなに絡むの? 私、人付き合いも上手くないし楽しくないでしょ」
「え?そんな事ないよ?! レティさんと一緒にいるの楽しいもの!これからももっと仲良くなりたいなって思ってて……」
「……兄さんは関係ないんだ?」
「えっ?! ……いや、えーっと、うぅん……」
そっと視線を逸らすマリーウェザーに冷たい視線を向ける。
親友も、煩悩に忠実なお花畑主人公を作り上げたもんだ……と呆れながら食べ続けて既に10個目に到達していて、吸い込むようにサンドイッチがなくなっていった。
新作のレタスたっぷりに甘辛く煮込んだ鶏肉がたっぷり入ったサンドイッチ。
かなりのボリュームではあるが、レティリアは当然のようにお腹に収めていく。
そんなレティリアに気付きもせず、ひとりで身悶えているマリーウェザーを哀れみの眼差しで見詰めた。
(……兄さんは男性が好きって……教えた方が親切かな)
自分の世界に入って何か言ってるマリーウェザーを見ながら水を飲んだ。
「ねぇ、レティさんは好きな人いないの?」
んごっく!!
ほぼ丸呑み状態でサンドイッチを飲み込み喉の痛みに手を当てる。
そして、思いっきり眉をひそめてマリーウェザーを見た。
「……………………は?」
「いえね、職場環境も良くって皆さんと仲良いじゃないですかぁ。でも、恋愛的な感じはなさそうだし、かといって他に特別仲良い人もいないですよね?」
マリーウェザーは顎に人差し指を置いて、んー? と言いながら話す。
ほぼ毎日のようにヴェルクレアと連れ立って買い食いしているのだが、それをマリーウェザーは知らない。
「やっぱり好きな人がいるのっていいと思うんですよ! 幸せホルモン大放出! 相手の態度に一喜一憂しちゃうけど、毎日が好きな人を思って生活出来るなんて幸せ以外の何物でもない!! だから、レティさんにも幸せに毎日暮らして欲しいの!」
「私は解体できて美味しいのを食べれたら幸せだけど……」
「ちーがーいーまーすー!! 血みどろの幸せを願って欲しいんじゃなくて、ふんわりピンクな幸せを感じて欲しいの!!」
「頭お花畑か」
それからもマリーウェザーは恋がいかに素敵かを垂れ流した。
別にそれがダメだと否定するつもりは無いのだ。
だが、今のレティリアにそれを生活の中心にして幸せだ! というのが出来ないし想像もつかないだけ。
「と、言うことで! 恋愛しましょう! オススメは騎士です!!」
「……いらない、必要ない、めんどくさい」
全力拒否をしたが、全く聞いていないマリーウェザーは本日1番の笑顔を見せた。
まさか後日、レティリア恋愛大作戦として騎士や回復術師と合わせる計画を立てているなんてこの時想像もしていなかった。




