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孤高なるギエン  作者: ホオジロ ケン
ワーウルフ編
8/49

ワーウルフの脅威

 夜の闇に、二つの赤い点が揺らめき、倉庫へと入っていく。

 中は概ね広く、150平方メートルの敷地に、ポツリと数十の木箱が積み上げられていた。

『それ』は食い入るように凝視し、喉を唸らせる。


「すーっ」


 スコープ越しのその光景に、一人の少女が事態終息へのトリガーを引いた。


 射出される一発の銃撃が、緑色の輝きを纏い、敵の顔面を捉えた。


 叫び声を上げる暇なく、狼アッシュ――ワーウルフは上体を仰け反らせて、横転。


「あかっち隊長、確認の方お願い」


『ああ』


 アリスの手際に、あかつきは生死確認へと乗り出した。

 武装に取り付けられたフラッシュライトで、ワーウルフを照らす。

 銃口を構えながら、徐々に忍び寄り……。



 ギロリと、充血の筋を光らせたワーウルフの眼光を捕らえる。



「コイツ⁉」


 構うことなく、武器のトリガーを引いた。

 白い外装が施された武装の表面に、緑色の光の筋が銃口へと収束。

 放たれた巨大な光弾は、目標が回避した後の地面を破砕し、小さなクレーターを作り上げた。


「ワーウルフの生存を確認! 外傷はほぼ皆無‼」


『マジっすか⁉ あの攻撃に耐えて⁉』


「とにかくこれから交戦に当たる! 佐奈さな誠司せいじはすぐに合流しろ‼」


 通信を終え、ワーウルフへと向き直る暁。

 ワーウルフは暁の攻撃をいとも簡単に回避し、現在、木箱に詰められていた黒蝕物質(ネクタル因子によって黒く変質した食物)を食べ漁っていた。


「アイツ。えらく余裕ね」


 近くで待機していた佐奈と誠司も、暁の隣に立つ。


「外ではエミちゃんとレイラちゃん、軍の方たちが手筈通りに包囲してるっす! 本当にこの室内でやるんすか?」


「すばやい相手には、缶詰狩りだ。発砲はなるべく抑える。佐奈、お前が鍵だ。行けるな?」


「とっとと済ませるから、速く命令して」


 二本のナイフを構えて、佐奈は前に出る。


 三人は左胸に備わっているブローチ状のスイッチを押し込み、強化外装服アンブロシアスーツを起動させる。


 色の光があらかじめ造られたスーツの筋道を通り、光のラインが全身を覆う。

 ワーウルフは、突如現れた因子の気配を追って、暁らに向き直った。


「殲滅開始!」


 号令と共に、佐奈は跳躍。

 15メートルもあった距離を一瞬で縮め、ワーウルフの首筋を緑色の刃でさばこうと振り切る。

 しかしそれを見極めたワーウルフは、首を逸らして回避。

 暁と誠司も人間離れした跳躍で迫り、それぞれの近接用武装(暁は日本刀、誠司は槍に酷似した武器)で対応する。


 そのどれもがアッシュに対し、人類が唯一彼らに有効打となれると下した武器――《アンブロシア》である。


 通常の銃弾では、アッシュの頑丈な皮膚を傷つけられはしない。

 重武装でダメージを与えたとしても、ネクタル因子によって変貌した細胞の強度と回復力は異常であり、30分もすればほぼ完治されてしまう。

 アッシュ一体に重武装は非効率であり、市街地等ともなれば、ホイホイとは扱えない。

 その現状を加味し、8年の時の中、人類の答えがこれであった。


『ネクタル因子』を持つ生物を狩るには、同じく『ネクタル因子』を備えた武装だけ。


 詰まるところフローラチルドレンとは、唯一、人類の中でアンブロシア(ネクタル因子)を扱える、対アッシュ殲滅部隊なのである。


「オラア!」


 誠司による槍の一刺しを少ない態勢で避け、次の暁の刀を待たずしてジャンプで飛び越えるワーウルフ。

 空を切る暁の武装。しかし……。


 暁が薄く笑うや、ワーウルフの分厚い胸板に亀裂が広がる。


『ぎいい⁉』


「ちょいと浅かったな。だが今度はその首、貰うぜ!」


 息も付かせず、暁らは挟撃に出た。

 誠司の攻撃は難なく回避するが、次に来る暁の攻撃を嫌い、ワーウルフは大きく後方へとジャンプ。

 しかしそこへ、佐奈がナイフを振りかざし、頸部目掛けて突っ込んだ。


「悪いけど、これで終わりよ!」


 刃を突き立て、ワーウルフの息の根を止める――はずだった。


 実際に刃が到達したのは、何の感触も掴めない残像であり。


「がふっっ⁉」


 本体は、空中で滞在する佐奈を足場に、そのままコンクリートの地へ押しつぶした。


 500キロは下らない重量が、佐奈の全身を圧迫。


『佐奈(佐奈ちゃん)⁉』


 途端に冷静さを掻き、二人は駆けつける。

 ワーウルフは足指で佐奈のスーツを掴み、誠司に向けて投げ飛ばした。

 佐奈を受け止める誠司は、共に後方に突き飛ばされる。


「誠司、今すぐ佐奈を連れて下がれ! エミ、レイラ! 今すぐバックアップに‼」


「暁さん、奴が!」


 誠司の助言で敵へと向き直り、態勢を低く保つワーウルフを視認。

 突っ込まれる前に暁は銃口を構えたが、ワーウルフは空中へと飛び上がり。


「野郎、逃す! っ⁉」


 そして気づく。何故ワーウルフが、佐奈の攻撃を空中で掻い潜れたのか。

 背中だ。


 ちょうど腰に当たる部位から二箇所――皮膚の幕が魚のエラのように開き、赤い粒子が空気を震わせて噴出。


 ジェット噴射の推進力を得て、宙を移動し、暁の射線上を置き去りにした。


「映像で見た時と、まるで動きが違う!」


 ワーウルフの速力度は増し、こちらへ突っ込んでくる影に暁は身を翻した。

 ワーウルフの爪先が目前で薙ぎ払われた。

 赤い閃光が残影のように視界にこびり付き、後方に飛んで距離を取る。

 暁は反撃に転じようとするが――視界に残っている赤い残影は、いつまでたっても消えはしなかった。


 それどころか目前にある『それ』は、距離を縮めて襲いくる。


(この攻撃、ネクタル因子を帯びてるのか⁉)


 衝撃波が形を持ってして襲い来る。

 そんな形容し難い攻撃の威力は冗談などではなく、暁を紙切れの如く吹き飛ばした。




 倉庫内から赤い光が飛散し、続いて暁たち三人の姿が転がった。


「な、暁君⁉」


「来るなエミ‼」


 ヨレヨレになって立ち上がる暁の姿は、スーツの破損が目立ち、満身創痍の様相。

 他の二人も意識が無いのか、倒れたまま動かず。


「ちょっと、どうなってるのよこれ〜⁉ 三人とも一体!」


「レイっち、それは奴に、聞いた方がいい!」


 アリスが銃口を構えて、対象に狙いを定めた。

 ワーウルフが、無数の銃口の前へ怖気なく姿を晒す。

 こめかみに電流が流れたような刺激に、エミは「はっ!」となる。


「ネクタル因子の活性……! ワーウルフの体内で何かが始まってる‼︎」


 ワーウルフがうずくまり、背筋の肉が盛り上がっていく。

 粘土を捏ねるみたく形を変え、肥大し――原型からは遠く離れた奇形に、兵士は口ずさむ。


「野郎は、一体何を?」


 因子による力の膨張と、隣合わせて行われる身体の大幅な改良。

 エミは率直に告げた。


「あのアッシュは、『進化』しようとしている……‼︎」



『ごっがあああああああああああああああああああああああああ‼』



 ワーウルフは、新たな力を手に入れた。


 自身の両腕よりも更に強靭な二本の剛腕が、背中から特出する。腕周りの太さなど、ゆうに腰と同じぐらいに太く、赤い危険な光がそこへと収束していった。


「ネクタル系数値の発達を検知! まずい、総員退避ぃいいいいーーーーーーっっ‼」


 放たれた赫焉かくえんの衝撃は、周囲の車両も粉々に吹き飛ばし、破壊の爪痕を刻んでいく。


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