↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤高なるギエン  作者: ホオジロ ケン
ワーウルフ編
7/49

作戦準備

 軍車両が五台ほど直列で路地を進み、深夜の誰も居ない工場へと入って来る。

 停車するや、続々と兵士たちが荷物を運び、アッシュ迎撃の準備を進めていた。


「こんなあからさまな餌に、ワンコロ君は来てくれるんですかね〜?」


「奴らの思考パターンは単純。補給には絶対に、現れる」


「レイラちゃんにアリスちゃんも図太い神経してるよね? 作戦前にスマホにゲームって」


 誠司《せいじ》が、電子画面に現を抜かす女性陣を前に、手汗をスーツに擦り付ける。


「だって、いつ来るかなんて分からないんだし〜? 気を張ってるよりかはリラックス。そんなに心配だったら、佐奈《さな》ちゃんみたいに、真面目に取り込んだら?」


 誠司は、後方に居る佐奈を見やる。

 周囲への関心など皆無で、佐奈は自身の愛用するナイフを、入念に手入れしていた。


「ごめん、俺。あそこまで職に熱心になれるわけじゃないし」


「めんどくさい、男」


 そんなメンバーの輪から一時離れ、暁《あかつき》は一人立つエミの側に寄った。

 現在エミは、こめかみに指を添え、目を瞑って集中している。


「どうだエミ、奴の気配は感じ取れたか?」


「今のところはまだ。暁君、ワーウルフは本当にこの地点を通るのかな?」


「奴は南下し、ルートを一切変えていない。腹が減っているのなら必ずここに反応するはずだ」


「だとしたら、絶対にここで仕留めないとね。このまま誰かが被害にあったら」


「分かってるよ。まあ、軍の連中が取りこぼした尻拭いってのが、どうにも気が乗らないがな」


「もう。どうして君は、責任感に自ら釘を刺すかな」


 半目で睨んでくるエミ。

 しかし暁の姿勢は変わらない。


「市民を守ることは確かに重要だが、それよりも俺はお前が心配だ。それに、そんな責任を課したこの国に、義務を果たす気はさらさらねえよ」


 暁にあったのは、僅かな憤り。

 つい一年半前までは、こんな武器を持って戦うなど無縁の生活をしていたはずだった。

 なのにこの国は、自分たちに無情な試練を敷く。

 今でも揺れることがあった。家族は絶対に守り通さねばならないことと、市民を守らねばいけないこと――その狭間で。


「ん⁉ 暁君!」


「どうした? もしかして、奴か!」


「うん! 間違いなく近づいてきてる‼︎ 強いネクタルフォースの気配が一つ‼︎」


 瞼を緊張で痙攣させるエミ。

 そして彼女は、何かに驚いたように唇を震わせる。


「なに……この気配……! 今まで会ったアッシュと“何か”が違う!」


 別の危機感を感じさせるエミの発言。

 しかしその正体を知りうる術は現在無かった。暁は「やることは変わらねえ!」と、後方に居るメンバーや部隊に戦闘態勢へ入るよう働きかけていく。 


◇


 深夜の静寂が、あるアパートを前にして失われる。その周囲には、地域住民の人だかりができていた。

 パトカーに救急車。黄色い進入禁止テープの先にある倒壊したベランダなど、住民らの奇異の眼が集まるのは当然だろう。


「だから見たんだって! デカブツが隣の部屋から飛び去るのを! それに聞いたんだよ⁉ 怪物のような咆哮も!」


「分かりましたから落ち着いて。事情聴取は後日、行いますので」


 アパートの住民らしき男が、白服の男達に喚き散らす。

 その隣を、青みのある天色の髪を揺らし、一人の少女が通り過ぎた。

 負傷者を乗せた担架に付き添いながら、耳にスマホを当てる。


「うん。今からラボに連れてく。本当に助かるの?」


『ああ。彼の因子適合率が間違いないのならば、運命は必ず彼を選ぶだろう』


「そっちはアッシュの対策に追われてるんでしょう? 勝算は有りそう?」


『もし報告が本当なら、我々は今宵、アッシュの真の力を見られるかもね。ふふ、私は楽しみで仕方がないよ!』


「あ、今笑ったよおじさん。非常識」


 患者搬送車の後部へ負傷者と共に乗りながら、少女は呆れた表情をする。


『とにかく、早く彼を連れてきたまえ。すでに向かい入れる準備はできている。私はフローラチルドレンの動向を伺わなければならない。悪いが菜沙《なずな》ちゃんは、彼を頼むよ』


「言われなくてもそうしますよ、新城《しんじょう》おじさん」


 心底呆れたようにため息をつき、通話は終了。


「全く。子供のようにウキウキしてる姿が目に浮かぶな〜」


 そして菜沙と呼ばれた少女は、担架に横たわる男の手を握った。


「さてさて。先輩は、新城おじさんの期待に、どこまで応えることができるかな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。