持ち掛けられた選択
一歩踏み出した瞬間、援の背中からネクタルフォースの暴発が起こった。
膨れ上がったエネルギーの光を推進力とし、キャシテライトに殴りにかかる。
鈍く、骨にまで威力の残響が伝わった。
共に――破片が散らばり、キャシテライトが自ら後退をきっする。
(こちらの攻撃に、初めてよろめいた)
援の拳を纏う鉱物性因子の籠手が、更に強固になって覆っていた。
前に戦った時のように、自身の腕が砕けることも無く――自身の威力に亀裂が入っても、そこから噴き出してくる因子が、瞬時に構築・再生させていく。
(奴を止められる。ネクタル因子も僕の指揮に応じる。何より――僕の『意思』はここにある!)
援は拳を握りしめた。
「止めるよここで……父さん」
『ギギギィイィ‼』
援は物怖じもせずに突っ込んだ。
熱線の照射前に、キャシテライトの外装を掠め削り、照射口の役目を持つ結晶を宙に浮かす。
途中で攻撃が途切れ、キャシテライトはチューブの指を差し向ける。
繰り出される光弾の機関銃。
因子がそんな彼の危機に応じて、黒い外装の面積を拡張――瞬時に『盾』を造り上げ、攻撃を受け止める。
援は片手の盾でしのぎながら、攻撃の嵐が勢いを上げる前に、もう一方の腕で空間を裂いた。
赤い因子の衝撃波――威力も大きさも三倍近くに巨大となって、光弾を打ち消していく。
キャシテライトの皮膚は、そんな動物性因子の衝撃を受け流すが、援は射線状から外れ、奴の頭上を掻い潜りながら流れる動作の回転を以て、背面を蹴りつける。
脚部もそれに応じて、踵付近からもネクタルフォースの推進力が威力を水揚げした。
ピキビキ⁉ と、直撃したキャシテライトの皮膚に亀裂が入る。
キャシテライトは腕を180度反転。
並びに、触手の凶器を構築させて突き立てに行くが、援は俊敏な動きで姿を晦まし――。
「うおおおおおおおおお‼」
自身を狙っていた光弾の砲台――キャシテライトの左腕を蹴り上げ、破砕させた。
難攻不落とも思える鉱物型アッシュの優位性が、ここへ来て揺らぐ。
真正面から堂々と、攻略を試みる者の手によって。
「これが――人間が踏み出せる領域なのか⁉」
「私たちは因子の本質に至っていなかった。理解してなかったわけではない。だけどこれは……!」
常日頃から、因子を危険視し、あらゆる後遺症の想定と研究に目を光らせてきた。
自分たち――フローラチルドレンこそが、もっとも因子に近づきすぎてしまった人類だと……。
しかし目の前の秒間隔で凶悪になる交戦に、自分たちは驕っていたのかとすら錯覚してしまう。
本当に援は、アレで戻ってこれるのか?
変わらず、人の姿で。
「そんな生易しいもんじゃねえよな⁉」
暁は膝を笑いものにしながら、立ち上がる。
それでもふら付く義兄に手を貸して、エミは彼の真剣な顔を仄かに読み取った。
「暁君……!」
「このまま戦わせていけば、アイツがどうなるかなんて分からない。俺たちで止めるぞ、エミ!」
「…………そうだね! 彼を救えるのは私たちしか居ない」
示し合わせ、アンブロシア兵装の銃を持ち上げる。
「援ぅうううーーーーーーッ‼」
自分の名を、怒声で響かせて、援は暁とエミに気づく。
彼らが、必死にこちらへ銃口を向けていることに。
燃え盛る因子の片目が激しく揺らめいて、援は頷いた。
『ギギギ、ピーギギ、ギガッ‼』
度重なる戦闘で、キャシテライトも疲弊――ここへきて外表のヒビが広がり、ポロポロと崩れ落ちていく。
詰まるところそれは、鉱物性因子の構築がままならなくなっているということ。
「ここであの兵器を撃つのは不味い!」
後方に佇む二人に告げ、援は実行に出た。
ぎこちない動きのまま、相手は触手を振るうがもはや今の援には牽制にもなりえない。
援は寸でで掴み取り手前に引き倒しながら、その位置に蹴りを叩き込んでいった。
外表ごと、因子の中心部である最後の結晶が砕けていく。
援は力の限り相手の巨躯を僅かに持ち上げ、自身の背面からネクタルフォースを爆発させた。
力押しのままに、キャシテライトをその位置から押し出していく。
「暁君、射程距離は⁉」
「ギリギリ行ける‼ 問題はアイツだ!」
「援さん⁉」
暁やエミ、他の気を失っているメンバーへの被害を鑑み、距離を離していく援。
しかし肝心の、援本人の避難に関して二人に不安が過る。
「僕は君たちが撃つと同時に離れる。今の僕なら、被害範囲から逃げ仰せられる!」
「レイラの盾予防も無い! どれだけ被害が広がるか分からないんだぞ⁉」
「それだったら君たちだって同じことだ。僕を信じて」
キャシテライトを地面に叩きつけ、援は言う。
(ここまで来て、他人に気遣いかよ……)
変わらぬ彼の決意に、暁も心を決めた。
エミと共に銃身を支えながら、暁は狙いを定め――。
「……⁉ なんだ、アレは……」
そこで、誰よりもいの一番に気づいた。
キャシテライトの身体が、グズグズと崩壊していく様を。
その中で、青いネクタルフォースが妙な動きを覗かせてくる様を……。
「援⁉」
暁が叫んだ時にはすでに遅く。
鉱物の皮膚を突き破り、エネルギー状のツタが援の身体を拘束した。
「なんっ⁉」
動揺で反撃が一歩遅れる。
予想だにしない……ただのエネルギーであるはずのネクタルフォースが、一人で動くなど。
それも、本体であるキャシテライトの身体は抜け殻同然。役目を終えたように風化していく。
「あの時と同じ……。ワーウルフが瀕死に陥った時と……⁉」
「つまるところ……暴走ってわけか⁉」
エミの恐ろし気な推察を前に、もう一つ、見て見ぬ振りができぬ事実があった。
援も近くに居たからこそ、速く気づけた。
「キャシテライトから因子が……」
「漏れ出てる!」
援の足元に、青い液状の物質が流れ出す。
さらには空間に漂う、微粒子たち。
ネクタル因子を含んだそれらは緩やかに、確かに援たちの世界へと踏み出していった。
これがもしも水質を汚染するようなことになれば。
少量でも風になびかれ、遠くに飛ばされれば、どれだけの被害が生まれるだろう。
この街の封鎖。いや、そうなる前にきっと……誰かが犠牲になってしまう。
(拘束力が強い……! 衝撃波で抜け出そうにも、もしも因子が飛散したら)
そうなれば結局水の泡。
誰かが悲惨な道を辿ってしまうことをよしとしないからこそ、援は、決断に時間を掛けなかった。
「あっ君⁉」
だからこそ彼は――。
「僕ごと撃て‼ コイツが因子を解き放つ前に! 速く‼」
構うことなく、自身を切り捨てる方策を打ち出した。




