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孤高なるギエン  作者: ホオジロ ケン
キャシテライト編
41/49

因子による調和と破壊

 迫る閃光の鞭は、あらゆるモノを切り裂き……。


 紅に飛散する光の斬撃が、しなる凶器へ直撃する。


 青く発光する触手は僅かながらに明滅するが、断ち切れぬままたすくを刺し貫こうと切っ先が迫る。

 距離を見計らい、援はバク転で回避し、コンクリートに破片が舞った。


(動物性の因子では歯が立たないのか? やはり対抗するには、別の因子の力じゃないと)


 得意の動物性因子では、青いネクタルフォースに弾かれる。

 ならば微量ながらでも、鉱物性の力に援は賭けた。


(さっき奴の触手を断ち切った時を思い出せ! あれよりも強く引き出さなければ奴には勝てない‼)


 胸のギアに手を当てて、援は覚悟を決める。

 菜沙なずなに教えてもらった手順を追って、他の因子を注入する算段を始めるのだが――。


『ギイインッ⁉』


 キャシテライトは触手同士を重ね合わせ、頭上から広範囲に覆っていく。

 網で援を囲いこみ、そのままなぶり殺していくつもりだったのだろう。


 しかしその目論見は、外野から放たれる光弾によって阻まれた。触手がほぐれ、援は隙間を縫って攻撃から回避。電柱の上まで飛び上がり、援護してくれた人物に向き直る。


「エミちゃん」


「私も、勝手ながら共に戦います! 『逃げて』って言われても聴きません!」


「だが君たちの力では、こいつには……」


 会話が途切れ、彼らの輪にキャシテライトの凶撃が割り込んだ。

 エミはキャシテライトと同じ高さを保ち、銃口を向ける。


(赤い因子の力でも歯が立たない! 奴の触手は私たちの因子を受け流す……!)


 彼女が目を向けるは、唯一奴があらわにする、外皮の剥がれた部分。


(あそこに――さっきの冷凍弾を叩き込む! ネクタル因子さえ凍らせるこの兵器なら、内部から完全に息の根を止められる‼)


 自分たちの力を信じ、エミは目一杯に緑色の光弾を放っていく。

 晒された弱点へ放たれた攻撃は、触手によって打ち落とされた。


(やっぱり。キャシテライトは、あそこへの攻撃を嫌がっている! なんとかあの触手を‼)


 生物を灰化させるエネルギーの触手を、押さえつける方法などすぐには割り出せない。

 ならば敵陣すれすれの隙間を縫って、撃ち出すか――そう算段した最中で。


「くっ!」


 エミは悪態を付き、もう一つの因子の異変を察知した。


「エミちゃん、離れて」


 同時に、援の影が視界を横切った。

 咄嗟にキャシテライトは、援へ向けて反撃の姿勢を取り――。


 援の腕とキャシテライトの触手が交差する。



 打ち勝ったのは――援だった。



 彼の手には、千切れた触手が力無くただれ――やがて空気に同化して、消失した。


「援さん、それって!」


「ああ、自分にもできたようだ」


 エミが感じた力の正体。


 鉱物性の因子――その力が、援の両腕を飲み込み、黒々とした外表を生み出していた。


 熊手を目した籠手と言うべきか――特出したかぎ爪を指で動かすと、青白い発光が自発的に起こる。

 援はちぎり取った触手先端にある結晶を砕く。


「凄い……因子でこんな物を」


「奴の武器を問題なく掴めた。それにエミちゃんの攻撃にも意味が有るのかもしれない」


 キャシテライトが攻撃を仕掛けるが、今度の援は動じることなく、身体を逸らし、触手を掴み取る。

 エミはすかさず抑えた触手に攻撃を仕掛け、援はそこに爪を突き立てた。


 またしても、触手は簡単にちぎり取られる。


「植物性の力で、鉱物性のネクタルフォースを……⁉」


「僅かながらにエネルギーの乱れがある。奴は、植物性の因子が“苦手”なのかもしれない」


「でも、奴は植物型の力を借りて、エネルギーを供給していました……。私たちはてっきり共存関係にあるものだと……」


「僕も多少ながら扱えるから分かってることなんだけど、植物性の因子はただ空気から因子を生み出すわけじゃない。恐らく“自身の色に染める前の因子”を、分け与えてたんだと思う。そうでなければ、僕も植物性から供給した因子で、動物性のネクタルフォースを扱えないからね」


 あらゆる物と調和し、適合する緑の因子。

 それが本来の力だと考えてきた植物性に、切り札になりえる兆候が表れ始める。

 つまりは――。


「植物性の因子ならば、鉱物型の因子を抑制できる‼」


「奴の外表は今、大幅に剥がれている。今なら君たちの武器でも対抗できる」


 ぐっとアンブロシア兵装の持ち手に力を込めて、エミに希望が見え始めた。


「残りの奴の触手は6本」


「全部破壊すれば、こちらの奥の手も叩き込めます! それで勝負をつけましょう‼」


 息を合わせ、最後の死闘に乗り出した。



 

「どうやら気づいたようだね? 因子による力関係に」


『因子による力関係?』


 菜沙の音声がそう聞き返す。

 映像を横目に、新城はオフィスの専用机である物を吟味していた。

 置かれた三つのプラスチック容器の中に、因子によって蝕まれた細胞片。

 その横には、赤、緑、青と三種の液体が、注射器の中で揺らめく。


「単純な話だよ。動物性、植物性、鉱物性――私たちが三種に分ける因子には、それぞれに役割がある。例えば赤の動物性には……対象への『破壊』と自身の『再生』」


 注射器で抽出した動物性因子を、植物性の細胞に垂らす。

 所詮破片でしかなかった細胞が一人でにうねり、やがて灰となって死滅した。


「そして植物性因子には、ネクタルフォースの『分解』と『還元』」


 緑の液体を鉱物性の細胞に――すると、青々と光っていたエネルギーの脈が、やがて中和されるように消失した。


「同様に鉱物性にも、ネクタルフォースの『凝固』と『構築』に長けている」


 垂らした液体が結晶と成し、動物性因子の細胞が一人でに蠢いた。

 因子を飲み込もうと結晶に迫るが、凝固した因子を吸収することはできず。


「赤い因子は速やかな破壊を以って、緑の因子の還元能力を追い越す勢いで死滅させる。緑は青のエネルギーを中和させ、青はその防御性能を以て赤の破壊力に耐える」


『それじゃあ、今回の相手に対し人類側は有効ってこと? でもすんごく手こずってたよ?』


「人間の造った模造品の武器では、矮小なエネルギーの威力しか持たない。しかし彼らは決死の覚悟でチャンスを物にした。今ならば外表に阻まれず、自分たちの因子の本質を行使できる」


 柄にも無く「まさに血と涙の結晶だよ‼」と、声高に告げる新城。

 しかし彼は、この好機の現状に一ミリとて勝利を確信していない。


(『次の段階』に至った相手に対し、果たして連携だけでどこまで持つかな、援君)


 協力だけでは足りない。

 求めるは数よりも質。それを導き出して初めてこの戦いに人類の光明は巡る、と――。


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