友への重荷
キャシテライトの突然変異からほどなく、人類側に次の異変が直面した。
「第一部隊より入電! 『人型アッシュ』到来‼ 現在、キャシテライトと交戦している模様!」
「何⁉ また奴が!」
「ど、同時に戦場付近に妙なネクタル計測値も感知……! これは!」
流れ行く川の流れが、ここへ来てまた予想だにしない動きを見せる。
剛山も普段の冷静さから席を外して、通信先へ必死に問いかける中。
その場に一人、秋昌は拳を握った。
(やはり、来てしまったのだな⁉)
湧き上がってくるのは、不甲斐ない自分への怒り。
ここまでお膳立てをしてしまった自分たちに、言い訳の言葉など無い。
不謹慎だが――彼が不幸を背負ってくれる。自分の娘の分まで、使命を果たしてくれる。
そんな無責任な信頼が、怠惰にも秋昌を陥れた。
(頼む……こうなってしまっては、もう君にしか)
自分たちの存亡を彼一人に託し掛けていたちょうどその時。テント拠点に、排気音を高々に鳴らして近づいてくるバイクが一台。
「暁君……?」
停車するやヘルメットをかなぐり捨てて、彼は義父一直線に歩み寄った。
険しく視線を差し向けて――思えばそんな顔を向けるのは、家族になって初めてのこと。
「どうして⁉」
暁は秋昌を境にするテーブルに、平手を打った。
「なんで黙ってたんですか⁉ アイツが――こんなことになってたこと‼」
手が退けられた卓上に、一枚の紙切れが晒された。
書類のシワながらに映った写真画像を視野に、秋昌は一瞬で理解した。
「暁君。君は、いつから……」
「鉱物型が現れた時、アイツが居たんです……。俺はもう少しで、アイツを……‼」
押し殺していた感情の中に、隠しきれない恐怖があった。
友人の命を自らの手で――彼の意に、秋昌は視線をずらし奥歯を噛む。
「君やエミに黙っていたのは、私に覚悟が無かったからだ……。私とて彼を止めた。しかし結局彼は自分の道を選び貫き通した。彼の決意に“水を刺す覚悟”が、私には無かった……」
「っう⁉」
怒りに、暁は秋昌の襟首を掴む。
「無責任だと思うかね⁉︎ 私も、不甲斐ないと感じている! だがどうにも……私には彼を引き止める言葉が見つからなかったのだ……。彼は、君やエミと同じだ」
「俺と、アイツが……!」
「エミが他者を必死に救おうとしている。君はそんな娘を、一人にさせまいとこの道に飛び込んだ……。彼とて同じだ。家族を救う過程で君たちの事情を知って、今は君たちを救うために身を乗り出している」
「援は……――あんな姿になってまで俺たちのことを?」
これまで、ブラックドームの被災が起こった時から、援とは一歩引いた距離を保っていた。
彼の境遇。自分の失意。あらゆる要因が重荷になって、互いの溝は深くなっていた。
分からなかった。どうやって彼に関わればいいのかを――。
自分は自分を保つのに必死だった。なのに彼は昔と変わらず、気丈な精神を保っている。
だから暁は畏れた。
彼に“きっかけ”が渡ることを――彼の本質を知っていたからこそ彼を巻き込んではならない、と。
しかし現実は、得てして彼に選択を委ねてしまった。
「君たちがどういう考えを持って、彼を遠ざけていたかは朧げながらも理解している。しかし結果的に彼は、この道を進んでしまったことに、何一つ後悔を示していなかった」
「何が、言いたいんですか?」
「彼はもう昔とは違う。“守られるだけの弱い立場”ではない、私はそう確信した。君の目にはどう映っているんだ、暁君」
「彼は今でも、守ってやらねばならない“立場”か?」――行き詰まる彼に、秋昌は迫る。




