プロローグ2
監視室のモニターに閃光が走った。
それも、ただの銃弾の光ではない。得体の知れないエネルギーの光。
「これ……は⁉」
大田は息を飲む。
モニター越しに起こっている戦闘が、ノイズを交えていても異常だと、体毛を波立たせた。
子供が、年端もいかぬ少年少女が、怪物相手に戦っている。
天井の壁にへばり付き、トカゲのように高速で移動する『それ』を。
銃弾さえ寄せ付けぬ強靭な皮膚を持った『それ』を。
セクターを警護していた、兵士たちをものの30分で壊滅させた『それ』を。
人類未踏の地。ブラックドームから現れた怪物『アッシュ』を、謎の光線が打ち抜き、光を纏った刃物の切っ先が、容易に相手の身体を切り裂いていた。
「あの動き。それにあの装備。アレはまさか……」
「大田司令官、これを見て下さい!」
オペレーターの一人が、モニター横に波線に揺れるグラフを表示する。
「『ネクタル因子』の干渉力場が、彼らが戦っている区画だけが、異様な数値を弾き出しています!」
「もはや疑う余地は無い」
映ずる現状と、グラフの指し示す数値。
そして戦ってくれている、年端もいかない子供たちに、大田はようやくある真意に思い至る。
「ネクタル因子の濃い居場所で、普通の人間は活動できない。しかし彼らは、到底人間には不可能な戦闘を可能とし、あまつさえ我々の知らない未知の武器を手にしている」
「そ、それがなんの意味を」
「つまるところ彼らは、『同じ』なのだ。ネクタル因子を扱う怪物――アッシュとな」
画面越しに悲鳴が轟いた。
人間とも、普通の生物とも違う――この世の全てに憎悪を振り撒くような、悪魔の奇声。
「アッシュの殲滅を確認。討伐に成功した模様です……」
「まさかここまで技量があるとは……」
「しかしこれは朗報なのでは? 今までアッシュに対処できた部隊は少ない! しかし今宵我々は、その切り札と結果を手に取れた。今後も軍が尽力を尽くせばいずれ!」
『いずれ我々は強力な軍備を手に入れられるだろう』――と。
しかし大田の渋顔に、意見は途端に引っ込んだ。
「我々軍は、確かに有効打を手にしたかもしれん。しかしそれは同時に、『業』だ」
「業って、それは一体どういう」
「いつの世とて、人は人権のためにと強力な兵器を造る。この場合の兵器とは『彼ら』そのもの。つまり『フローラチルドレン』とは、ブラックドームから流れた物質によって、体を蝕まれ、その耐性を獲得してしまった者たちのことだ」
「それってつまりは――あの子たちは、ブラックドームの被災者、ということですか?」
「恐らく……。そして、ブラックドームの被災者で、五体満足に歩ける人間のほとんどは限られている。当時の事件で10歳にも満たない子供たちだ」
モニターに移る彼らは、倒れて尚、怪物に銃弾を一発二発と打ち込んでいく。
機械的な動作に画面越しでは感情一つ伺えず。彼らは勝利の余韻さえ無く次の現場へ向かう。
「もし今回の件で上が味を占めたのなら、彼らのような子供が増えていくぞ。我々は、あのような年齢の子供たちを、怪物退治に向かわせることになる」
「それは、ですが‼」
悲痛にも見解を絞り出そうとした矢先、通信室に緊急の回線が警告と同時に響いた。
オペレーターはすぐに持ち場に戻り。
「第五セクターからの緊急報告です! そんな、まさか⁉」
危機を脱した彼らに、次に待ちわびたのは、更なる被害の淵。
「アッシュによってセクターの防衛網を突破された模様! 現在その個体は、市街地等に向けて姿を眩ましたとのこと‼」
「そんな馬鹿な‼」
ブラックドーム。そこから生まれた怪物。
それらはまるで人の安寧を嫌うように、飲み込まんと迫っていた。




