【vol.3】いいよ、慣れてるから。
恋をしている事に気付くのは、実に簡単だ。
気付くと自然に、彼女のことを考えているから。
いいよ……慣れてるから。
そう、思い起こせば初めて会った時もその台詞だった。
バイトの研修で一緒になり、駅までの帰り道で少しだけ話したのだ。
「落ち着いてますね。」
そう言ってくる彼女に、
「……慣れてるからね。」
そう返した俺。
きっと、これが始まりだった。
1、そんなに困ってないから
理由もなく会いたくなり、いつの間にか彼女の事を考えていて、何でもないことを話したくなる。
アホらしいほど乙女チックな自分に気付いた時にはもう遅かった。
……俺の恋が始まる時は、いつも妄想からだ。
*
二人で会う事を避け、みんなで会おうとする彼女。
そんな彼女に俺は言うのだ。
「何?もしかしてオマエ警戒してんの?……安心しろよ、俺そんなに困ってないから。」
「何それ~、ひどい~。」
彼女は少しふくれながらも、うちに遊びに来る。
最初はそんな気無かったのに。
流されるままに、二人は関係を持つ。
裸のまま、俺はベッドで煙草をふかしながら嘆き、その横で彼女は無邪気に笑うのだ。
「あ~ぁ。俺そんなに困ってたんだなぁ……。」
「あははっ。」
……もう、手遅れだ。
2、告白の言葉は
「俺と付き合えよ。」
「俺と付き合えば?」
「俺と付き合わない?」
「俺と付き合う気ない?」
「俺が拾ってやるよ。」
考えすぎだろ。
3、デートの誘い
「やっぱやめた。」
「え、何でよ?」
「何で彼女でもない奴と行かなきゃいけねーんだって気持ちになったから。」
「じゃあ彼女にしてよ。」
「おう、ならOK。」
世の中そううまくいくはずがない。
4、歴史は繰り返す
どうしてこうなったんだろうか。
俺の頭に、あの時が甦る。
好きな女が他の男と目の前でイチャイチャしている。
それを俺はやたら冷めた目で観察している。
むしろ開き直って、チューでもしないかとか思いながら。
……
俺の横で俺の惚れかけてる女と他の男が寝ている。
俺の家の俺の部屋で。
何故か俺が畳の上だ。
もう開き直って、(こんなおいしい話、ネタにするしかないな。)とか考えている。
……そうとでも思わないとやってられない。
なんでだ?アイツがあの男と飲みたいと言ったから、優しい俺はわざわざ代わりに誘ってやって。
そんで俺は帰ろうとしたのに、お互いに俺がいないと話せないよ~。とか言って俺を呼んで。
行きたくなかったのに俺は断り切れずに行ってしまい、盛り上がっているその場を見てやっぱ帰ればよかったと思って。
そうだ。帰る時だ。
全然その気無さそうな他の男に向かって、俺がやや下心を込めて「俺がこいつ送ってくから、帰ってもいいよ。」
って言ったんだ。女の方は結構その気だったのに。
そしたら、他の男は何故か「いいよ送ってくよ。」と送ってくれて。
気が利かない奴だ、と思った。
そんでうちに来て、また何故か「折角来たから上がってこうかな。」だと?
本当に気が利かない奴だ。
それだけならまだいい。
俺がトイレに行って戻ってみると、俺の布団の上で、二人が一緒に寝てやがる。
……帰れよ、お前ら。
気を利かせてこっそり扉を閉める俺に向かって、「おいおい、突っ込んでよ。」だと!?
お前は別のもんでも突っ込んでろよ!
仕方なく俺が唯一の心の安息、パソコンをやろうとしてると、からんでくる他二人。
……分かったよ。俺が寝ないとお前らも寝そうに無いな。
この時、この中で一番眠かったのは俺だろう。
「分かった、寝ようぜ。」
そして上へと続く。
女が真ん中だ。
男が二人外を向いて寝ると、奴は「やだ、二人とも外向かれたら淋しいじゃん。」
そう抜かしたので、俺が「分かったよしょうがねぇな~。」と真ん中を向いたら、
『やだ、ガン見しないでよ~!』
……帰れ。
その後、二人はホテルに行くか、とか相談しながら結局行かなくて、俺の眠りを十分妨げてくれたのでした。
俺が唯一出来た復讐は、「だったらお前ら最初からうち来るなよ。」
と言う事だけでした。
次の日、お互いに別に付き合わないみたいな事を言ってた奴らは、俺が帰省してる間に見事に付き合い始めたのでした。
人間って、何考えてるのか全く分かりません。
でも別に、いいよ。「まあ、慣れてるからな。俺。」
5、生まれて一番ムードのない……
ああ~っ、やっぱり黙ってられない俺。
電話で彼氏の不満を言うアイツに、つい言ってしまう。
「俺、お前に惚れてたんだよ?」
生まれて一番ムードの無い告白をしてしまった。
アイツは何て言うかと思いきや。
「ウソ!ホントに!?……ゴメンね。」
……ははは、気付けよ。まぁいいさ。
「いいよ。俺慣れてるから。」
そんでこの恋は終わり。
それがいい。
6、シンデレラ
その時、夢に命が吹き込まれるのを見た。
その余りの楽しい時間に、彼女は彼の事を忘れてしまうんだ。
そして帰り際、君はごね始める。
僕は今日だけと割り切っていたのに。
「いいかい?シンデレラ。君はもう夢から覚めなければいけない。現実に戻る時間なんだ。」
「ほら、電車が来たよ。」
「嫌、私はシンデレラじゃないもの。夢からなんて覚めたくない。」
早く夢から覚めろ、俺。
きっと彼女は打算で恋をしていたのだと思う。
それ故、俺は思った。
『惚れていなかったら付き合いたくないな。』
そう思ったのは初めてだった。




