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短編集  作者: 安楽樹
【どこにでもある恋の話】
39/42

【vol.3】いいよ、慣れてるから。

恋をしている事に気付くのは、実に簡単だ。

気付くと自然に、彼女のことを考えているから。


いいよ……慣れてるから。


そう、思い起こせば初めて会った時もその台詞だった。

バイトの研修で一緒になり、駅までの帰り道で少しだけ話したのだ。

「落ち着いてますね。」

そう言ってくる彼女に、

「……慣れてるからね。」

そう返した俺。

きっと、これが始まりだった。



1、そんなに困ってないから


理由もなく会いたくなり、いつの間にか彼女の事を考えていて、何でもないことを話したくなる。

アホらしいほど乙女チックな自分に気付いた時にはもう遅かった。

……俺の恋が始まる時は、いつも妄想からだ。



二人で会う事を避け、みんなで会おうとする彼女。

そんな彼女に俺は言うのだ。


「何?もしかしてオマエ警戒してんの?……安心しろよ、俺そんなに困ってないから。」

「何それ~、ひどい~。」


彼女は少しふくれながらも、うちに遊びに来る。

最初はそんな気無かったのに。

流されるままに、二人は関係を持つ。

裸のまま、俺はベッドで煙草をふかしながら嘆き、その横で彼女は無邪気に笑うのだ。


「あ~ぁ。俺そんなに困ってたんだなぁ……。」

「あははっ。」


……もう、手遅れだ。



2、告白の言葉は


「俺と付き合えよ。」

「俺と付き合えば?」

「俺と付き合わない?」

「俺と付き合う気ない?」

「俺が拾ってやるよ。」


考えすぎだろ。



3、デートの誘い


「やっぱやめた。」

「え、何でよ?」

「何で彼女でもない奴と行かなきゃいけねーんだって気持ちになったから。」

「じゃあ彼女にしてよ。」

「おう、ならOK。」


世の中そううまくいくはずがない。



4、歴史は繰り返す


どうしてこうなったんだろうか。


俺の頭に、あの時が甦る。

好きな女が他の男と目の前でイチャイチャしている。

それを俺はやたら冷めた目で観察している。

むしろ開き直って、チューでもしないかとか思いながら。


……


俺の横で俺の惚れかけてる女と他の男が寝ている。

俺の家の俺の部屋で。

何故か俺が畳の上だ。

もう開き直って、(こんなおいしい話、ネタにするしかないな。)とか考えている。

……そうとでも思わないとやってられない。


なんでだ?アイツがあの男と飲みたいと言ったから、優しい俺はわざわざ代わりに誘ってやって。

そんで俺は帰ろうとしたのに、お互いに俺がいないと話せないよ~。とか言って俺を呼んで。

行きたくなかったのに俺は断り切れずに行ってしまい、盛り上がっているその場を見てやっぱ帰ればよかったと思って。


そうだ。帰る時だ。


全然その気無さそうな他の男に向かって、俺がやや下心を込めて「俺がこいつ送ってくから、帰ってもいいよ。」

って言ったんだ。女の方は結構その気だったのに。

そしたら、他の男は何故か「いいよ送ってくよ。」と送ってくれて。

気が利かない奴だ、と思った。

そんでうちに来て、また何故か「折角来たから上がってこうかな。」だと?

本当に気が利かない奴だ。

それだけならまだいい。

俺がトイレに行って戻ってみると、俺の布団の上で、二人が一緒に寝てやがる。


……帰れよ、お前ら。


気を利かせてこっそり扉を閉める俺に向かって、「おいおい、突っ込んでよ。」だと!?

お前は別のもんでも突っ込んでろよ!

仕方なく俺が唯一の心の安息、パソコンをやろうとしてると、からんでくる他二人。

……分かったよ。俺が寝ないとお前らも寝そうに無いな。

この時、この中で一番眠かったのは俺だろう。

「分かった、寝ようぜ。」


そして上へと続く。

女が真ん中だ。

男が二人外を向いて寝ると、奴は「やだ、二人とも外向かれたら淋しいじゃん。」

そう抜かしたので、俺が「分かったよしょうがねぇな~。」と真ん中を向いたら、


『やだ、ガン見しないでよ~!』


……帰れ。


その後、二人はホテルに行くか、とか相談しながら結局行かなくて、俺の眠りを十分妨げてくれたのでした。

俺が唯一出来た復讐は、「だったらお前ら最初からうち来るなよ。」

と言う事だけでした。


次の日、お互いに別に付き合わないみたいな事を言ってた奴らは、俺が帰省してる間に見事に付き合い始めたのでした。

人間って、何考えてるのか全く分かりません。


でも別に、いいよ。「まあ、慣れてるからな。俺。」



5、生まれて一番ムードのない……


ああ~っ、やっぱり黙ってられない俺。

電話で彼氏の不満を言うアイツに、つい言ってしまう。


「俺、お前に惚れてたんだよ?」


生まれて一番ムードの無い告白をしてしまった。

アイツは何て言うかと思いきや。


「ウソ!ホントに!?……ゴメンね。」


……ははは、気付けよ。まぁいいさ。


「いいよ。俺慣れてるから。」


そんでこの恋は終わり。

それがいい。



6、シンデレラ


その時、夢に命が吹き込まれるのを見た。


その余りの楽しい時間に、彼女は彼の事を忘れてしまうんだ。

そして帰り際、君はごね始める。

僕は今日だけと割り切っていたのに。


「いいかい?シンデレラ。君はもう夢から覚めなければいけない。現実に戻る時間なんだ。」

「ほら、電車が来たよ。」

「嫌、私はシンデレラじゃないもの。夢からなんて覚めたくない。」


早く夢から覚めろ、俺。




きっと彼女は打算で恋をしていたのだと思う。

それ故、俺は思った。

『惚れていなかったら付き合いたくないな。』


そう思ったのは初めてだった。

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