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短編集  作者: 安楽樹
【どこにでもある恋の話】
27/42

【vol.2】1.酔っ払い、来襲

簡単には忘れられない誰かと出会ったことを、俺は嬉しく思うし、だからこそとても寂しかったりする。この気持ちは、とてもいとおしい寂しさだ。


登場人物紹介/


マリちゃん/酔っ払い。3匹の小型犬を飼って愛している。感情的。毎日飲まずにはいられない。


マーティ/一匹目の犬。ミニチュアダックスフント。人間だったらマリちゃんの旦那。

アニー/二匹目の犬。ミニチュアダックスフント。

プッチー/三匹目の犬。チワワ……だったような気が……。


俺/俺。


好き……。


彼女は、呼吸をするようにキスをする。

二人で、会話をするようにセックスをした。

まるで恋人というよりは、夫婦とか、家族とか、そういった関係のような。

これは俺が今までに会った女の子よりも、ほんの少しだけ寂しがり屋で、ほんの少しだけキスが好きな女の子の話だ。

5/8 酔っ払い、来襲


そう、気付いた時にはもう遅かったのだ。


はい、そうです。

その日は休みで、日中はずっと絵を描いていました。

イラストレーターの使い方が分からずに、ベクトル画像にずっと苦戦していました。

ヘルプを見たんですが、専門用語の連発に頭が耐えられなくなり、気が付くと私は寝ていました。

ですが6時ごろに起きた後は、少しずつ要領をつかみ始めて、じっと書きつづけていたんですよ?本当です。

ええ、それで晩御飯もない事が分かり、下にあったものを少しつまんで、また夜中まで描いていました。5時間ほどもかけてようやく完成に近づき、後少しだ!と実感が湧いてきた時の事です。

……メールが、来たんです。

内容を見て、私は驚きました。『今から飲みに行こうよ』という内容だったからです。

もう11時過ぎなんですよ?しかも私は何の外出の用意もしていません。

正直、私は少し迷いました。……ですが、ここで断ったら今までの私に対して申し訳がありません。自分に自分から「そんな奴に育てた覚えはない」と言われてしまいそうです。

意を決して、私はシャワーを浴びる事にしました。

その時、未完成のベクトル画像を保存したのを覚えています。


素早くシャワーを浴びた後。

電話をかけてくるように連絡しておいたので、電話がかかってきたんです。私は電話を取りました。そして少し話した後、すぐに分かりました。

「こいつ、めちゃ酔ってる。」

期待よりも不安の方が広がる中、迎えに行くことになりました。彼女の家までは車で30分ぐらいでした。私はとてもお腹が減っていたので、近くのミニストップへ行って、飲む前に何か食べるものを買おうかと思っていました。しかし少し待っていると彼女がやってきたので、これからの予定次第にすることにしたんです。

彼女は来るなり、大音量で話し始めました。私の酔っ払いセンサーが反応します。あっという間にレッドゾーン突入でした。ミニストップにはアルコールは無かったので、お菓子を買ってその店を後にしました。そこから少し行った先のローソンでマドンナという白ワインとチューハイを1本ずつ買い、また車を走らせます。


どこで飲もうかという話になったので、車に乗っている私も飲める場所を提案しました。そう、私の家です。彼女の家で飼っているという3匹の犬を見たくもありましたが、何やら事情があるようなので行けませんでした。それから私は車を反転させ、自宅へと向かったのです。

家に着きました。

もうここ最近で、女性を連れ込むのには慣れていたので何とも思いませんでした。

先に彼女に降りてもらおうとしたら、彼女は落ちました。……ええ、落ちたんです。ガタガシャ、とか音がして、彼女は視界から消えました。

……マズイ、これはかなり限界です。私の酔っ払いセンサーは振り切れました。

私は慌てて彼女を助け起こした後、手早く車を駐車しました。

先ほどの騒ぎで近くの犬が目覚め、オンオン吠えていました。時刻は既にもう夜12時を回っています。とりあえず早いとこ屋内に連れ込みました。

私の部屋へ案内し、簡単にスペースを作った後、私はグラスを取りに下へ降りていきました。

それは、ほんの少しの間だったんです。

正確に時間を測ったとしても、3分ぐらいだったと思います。

……部屋に戻ってみると、何故か彼女はティッシュで床を拭きながら、「ゴメン、ほんとゴメン!」と繰り返すのです。

絨毯にこぼれたチューハイを見て、私は改めて酔っ払いの恐ろしさを知りました。


ではここで、彼女について分かった事を書きます。

酔っ払うと、彼女はよく笑うようになります。記憶障害にもなるようです。行動は危なっかしくなりますが、それ以外には特にありませんでした。

そして、4人兄弟の末っ子でした。かなり可愛がられて甘やかされて育ったようです。お兄ちゃんの存在は特別だと言われ、北海道にいる私の妹にメールを打たされました。

それから、昔は悪だったようです。本人は『普通』だと言っていましたが。

少なくとも私の中では、中学からタバコとシンナーやって高校を辞めて17から10年間男と付き合ってて、その間に彼氏の家族と共に4年同棲して結婚して1年で離婚するような人は、普通とは呼びませんでした。

あと、胸はありませんでした。

本人は中学からのタバコとシンナーのせいで成長が止まったと言っていましたが。

そしてどうやら、昔うちの父親の工場からシンナーを盗んだのは彼女の一味のようでした。

世間って狭いと思いました。

家族の間ではよくケンカをするようです。今日も姉ちゃんとケンカをして、ずっと飲んでいたそうです。

それからしばらくは、下ネタ中心とした世間話が続きました。

彼女はかなり突っ走っていて、ベッドに寝転んだ無防備な姿勢だったんですが、ソファに座った私はその微妙な距離をずっと縮められずにいたんです。

そして、ジュースみたいなカルピスのチューハイを空けてしまい、マドンナに取りかかりました。マドンナは少し苦くはありましたが、確かに飲みやすかったです。

3時も過ぎて、私は段々とまわってほろよってきました。彼女は最初から酔っ払いでした。

彼女が「寝ようか。」と言うので、寝る事にしました。

私がトイレに行って戻ってみると、既に彼女は布団に潜り込んでおり、その横に私もゴソゴソと入りこみました。

電気を消して、それからどう持っていこうか考えながら、しばらくそのまま話していました。

ふと横を向いてみると、彼女もこっちを向いたので、そのまま顔を近づけてキスをしました。

それから何度もキスをしましたが、彼女が眠っているのを横で見ている時には、なんとなく出来ませんでした。


そこそこ飲んでいたこともあって、二人ともすぐに寝てしまいました。

しかし腕枕をしていた私は、相手が動いた拍子に起きてしまったんです。元々、誰かが隣りにいるとよく眠れない性質なんです。

夕方に一度寝ていたので、どんどん目が冴えてきて眠れなくなってしまいました。私は何だかトイレに行きたくなってきましたが、腕が挟まれてて身動きがとれません。

仕方なく、何とか寝ようと努力する事にしました。

と思ったら、彼女は鼻が詰っていたらしく、今度は寝息がうるさくなってきます。耳の真横でいびきを立てられては、さすがに寝れません。「死んだように寝てるよね。」と言われる私を見習って欲しいものです。次第に行き詰まってきました。意識していると、左手も限界が近づいてきます。私はただひたすらじっと機会を待っていました。

そして、彼女が少し身動きした瞬間!それに合わせて、何とか左手を引き抜く事に成功しました。彼女も起きてはいないようです。

ふぅ。安心した私は左手をさすりながら、『大丈夫か左手君~。』などと心の会話をしていました。さて、ではトイレに行こうかと思っていたその時!

彼女は「ぅ~ん。」と寝返りをうったあと、何とこっちに抱きついてきたのです!!!

し、しまった!?展開がベタかっ!?

……一瞬の油断が命取りです。私は完全に束縛されてしまいました。外は日が昇ってきています。くもりとはいえ、かなり明るいです。ここぞとばかりに、家の犬とオウムと外では車がオーケストラを開始するんです。寝られなさ過ぎでした。


どうにか危機を脱出して、次の日。

目覚めた瞬間から、彼女は普通テンションでした。しかも、ゴソゴソと動き過ぎです。折角丁度ウトウトしてきたのに、私はまたも寝られなくなりました。

そして今度は音楽が欲しいと言い出し、曲をかけたと思ったらTVつけていい?と聞いてきました。……私は音楽を消してTVを点けました。TVでは奥様向けの番組がやっており、ズッキーニの特集をしていました。興味無かった私は、何とか寝ようと努力していました。で、また二人とも寝ました。

そして当然この日もキスしまくりです。

私も彼女もキス魔だったので、隙あらばしょっちゅうしてました。もし彼女から何か言われたら、「だってまだまだ若いから。」といいわけまで用意していました。

そんな事を二度三度繰り返していると、昼を回って夕方に近くなってきました。よく考えると、いや考えなくても、昨日の昼過ぎから何も食べていない私ははらぺこです。

お腹が空きました。

わざわざ改行して書くほどでもありませんが。

まあそうなので、適当にイチャイチャしながらもそろそろ飯食いたいぞ、と主張してみました。彼女は放っておくと、このまま居座りそうでした。

などとそんな理由をつけなくても、実はこの日夜から別の女性と飲みに行くから、というのが本音でした。

もちろんそんなこと彼女には言えません。

だってその女性は彼女と同じ職場だったので。つまりは私も同じなのですが。

私はそそくさと支度をして、彼女を送っていったのです。

そんな彼女は今年29歳でした。


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