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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第四章

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第十八話 西中の原北部からの脱出④

 ロビンソンさんの仕入れた情報では、オークとガーゴイルは空と地上に分かれて攻めて来るらしい。

 ガーゴイルを墜落させれば一石二鳥だったが、そう甘くはなかった。


「出撃だな。まずはガーゴイルを石に戻してやろう!」


 若返ったパウルさんが張り切っている。あと何日もつのか知らないが、健康なことは良いことだ。

 

「じゃあ、ベアトリクス。後はよろしくね」

「四人共頑張ってね」


 発進し、木の上に浮かび上がる。

 今のところガーゴイルはまだ見えない。

 一気に北に向かって加速する。


 西の空をみると、まもなく夕日に変わるのだろう。お日様が大分低い位置にいる。太陽に向かって逃げる作戦は使えない。


「何か黒いのが飛んでるよぅ。あれじゃないかなぁ」


 流石は猟師ボニー。目が良い。早くも見つけた。

 私達より少し東にいる。


「ライト!」


 味方がいる所には煙が上がっている。そちらの方向に向けて、光を照射した。点けたり消したりしていたら、雷が一つ打ち上った。ベアトリクスだろう。


「パウルさん。味方と連絡付きました」

「よし。ならば突っ込むぞ!」


 一旦上昇し、上空での戦闘になる。

 オークの矢が届かない所にいないと流れ矢が怖い。


「ボニー。頼んだぞ。お前の矢が一番効果的だからな」

「はい。お師匠様。がんばりまあす」


 ボニーは聖水入りの矢筒を持っている。当たれば一撃だ。矢筒も二つある。全部で二十四本だ。


「敵もこちらに気付いたようですぅ。こっちに向かって飛んできますぅ」

「まずは正面からぶちかますか。ベイオウルフ頼んだぞ」

「はい」


 ベイオウルフは丸太といってもいいくらいの太さの木の槍を持ち込んでいる。防御専門だと思っていたのだが突貫要員だった。


 言ってる間にも、一匹正面から来た。

 こちらも真っ直ぐに突っ込む。


「うわーーーーーー!」


 怖いのを我慢して、皆で大声をあげる。

 どんどん近づいてきた敵は、ぶつかる直前でヘタレたのか急停止した。


「うわーーーーーー!」


 こっちは停止なんて考えていない。体当たりのブラッディ・パウルが操縦している。そのまま突っ込んだ。


 ドゴオ!


 鈍い音と共に、ガーゴイルの顔にベイオウルフがディフェンドで固くした木の槍があたり、のけぞった所にお椀で体当たりする。


 ゲヘエ!


 なにやら変な声をあげたガーゴイルは、そのまま墜落して行った。


 どうやら群れの真っただ中に突っ込んだ。そのまま進むと、もう一匹正面にいた。


「うわーーーーーー!」


 またも大声をあげて襲い掛かる。今度の奴は根性があったようで、まともに頭からお椀にぶつかってきた。 


 首がとれた状態で落ちて行く。


「後ろから来ますよ」


 敵の中心に突っ込んで、そのまま群れの真ん中を反対側に抜けた。相手は全部後ろになった。 

 いや、わざとかも知れない。


「ボニー。じっくりと引き付けて狙え!」

「はい。わかりましたあ」


 大きく右回りに旋回するように動くと、ガーゴイルの群れも旋回して来る。何匹かが小さく旋回しているので、このままでは右と後ろの二方向から攻撃される。


 ボニーは後方。私は左右の担当だ。矢と違って魔法は風に流れない。

 右から近づいてきた。正面はベイオウルフに譲ったが、今度は私だ。


「ホーリー!」


 手が届くほどの距離で頭を狙う。額に当たって貫通する。気を失ったのか……。真っ直ぐに落ちて行った。


「ホーリー!」


 後続の一体の片翼を動かなくさせてやる。くるくる回りながら墜落していくと、流石にその後の連中は距離を置いた。

 その間にも、ボニーが至近距離で矢を放っている。

 そちらはそちらで、石を穿つがごとく、ゴツゴツと眉間や肩に派手な穴を空けていた。


 都合六匹堕としたところで、距離を置いて追跡されるような感じになった。そのまま、味方が狼煙をあげている方へ誘導する。

 何匹かが、下のほうへ降りて行った。きっとオークに知らせに行ったんだろう。思うつぼだ。


 そのまま高度を下げつつ狼煙に向かって引き連れていると、通り過ぎた所から、急に白い光が打ち上がった。

 マルセロさんだ。

 居場所を気付かれないように最後尾を狙っている。

 やられた相手は音もなく落ちていく。


 次いで急上昇すると、ガーゴイルに向かって、色んな魔法が打ち上ってきた。ベアトリクス達だろう。

 衛兵隊の魔法兵もいるから、派手に連発している。

 ガーゴイルが、パッ、と空中で四方に散った。


「掴まれ!」


 お椀が急停止した。


「グエエ」


 手加減無しだ。ひっくり返ってしまった。チュルリの籠を置いてきて良かった。


「うわああ」


 今度は後ろに向かって急発進した。もう一回ひっくり返る。

 ベイオウルフに助けてもらって起き上がる。


「パウルさん。もう少し優しくやってください!」

「すまん。すまん。しかし、言ってる場合じゃないぞ。今のうちに落としておけ!」


 ボニーは既に乱射している。


「ええい! ホーリー! ホーリー! ホーリー!」


 やけになって三つ放ったら、上手いことに二つ当たった。

 相手は大分混乱したようだが、立て直してきた。

 混戦になった。


 とにかく体当たりされないように上から狙おうとする。

 近づかないようにベイオウルフが槍で突っついているのを、お椀の底にしゃがんで魔法を放ち、矢を放つ。

 矢はつがえる時に間が空く。その間はホーリーで埋めた。


 パウルさんが上手い具合に誘導し、マルセロさんのホーリー・ランスも打ち上り始めた。

 さらに二匹が堕ちていったところで、相手は撤退した。


「よく頑張ったな。数えとったが十三落としたぞ」

「三分の一以上ですね」

「うむ。まずはこんなものだろう。一旦帰還するぞ」




 二回目の出撃は薄暮攻撃になった。既に陽は沈みつつあり、辺りは薄暗い。森の中は随分と見通しが悪い。

 一緒に出撃するのは、マルセロさんとベアトリクスだ。


 相手が上から来るのは分かっている。あえて木の上すれすれを飛ぶ。

 案の定、上空に集まって来た。

 そこを、ライトで目くらましをかけ、二人の魔法で狙い撃ちにした。限られた角度に向かって立て続けに魔法を放つので当たりやすい。しかもマルセロさんがいる。ホーリー・ランスを一発放つ度に、遠距離でも確実に一匹堕とした。

 二回目の戦果は十五匹で、一回目と併せて二十八匹と、ほとんどを削ることができた。


「よし。これで敵は歩く以外に攻めては来れん。第一段階はクリアだな」


 夜間の空中戦は流石に危ない。三度目が無くてほっとした。




 第二段階と第三段階では、ロビンソンさん以外にマルセロ商会は役目が無い。そのロビンソンさんも梟を放った後は、帰って来るのを待つだけなので、渓流の南に作った急造陣地で晩御飯になった。


 陣地は、渡河点に指定した場所から森の中を南に入った所で、北に向かってすそ野を広げた尾根の斜面に作っている。

 例によって木を切って穴を掘って土塁を積み上げた。陣地の下は木を伐りはらって篝火を焚いているので、ある程度は見通しが効く。


 いつもはリュドミラが亀の甲羅のように背負っている鍋を、今回はボニーが背負ってきている。

 オーウェン印の干し肉鍋にキノコをたっぷり入れた。

 衛兵隊も同じものを食べているので、陣地全体に鍋の香りが広がった。




「ここからは、撤退と撃退ですね」

「うむ。上手く行けば良いが」


 マルセロさんが蜂蜜酒を薄めたのを詰めた水筒を、パウルさんに勧めている。


 パウルさんが飲んでいるのを見ていると、デューネを思い出してしまった。若返ったパウルさんが、何日で元に戻るかを当てっこしていたのだ。私は四日、デューネは三日、ベアトリクスは二日、だった。


「今のところは元気みたいね」


 同じことを考えていたのか、ベアトリクスがヒソヒソと囁いてくる。


「帰ってからでしょ。流石に戦闘中は気を抜かないと思うわよ」

「明日の夕方で一日経過よね」

「そうよ。だから、あんたは後一日半しかないわよ」

「今夜は多分徹夜よね。勝って帰るとして、勝負は明日の夜か。昼間からお酒飲んでくれるかな」


 こちらから誘うのはご法度だ。公平を期すために、誘われても今回は断ることにしている。


「失敗したかな。今夜戦闘になるとは思ってもいなかったわ」


 実は三人で賭けをしている。

 来週の日曜日、デューネのフワフワで子供達に遊ばせて一儲け……もちろん実際には親からお金をとるのだが……しようと、持ちかけたベアトリクスの企みだ。


 ベアトリクスが勝てば売り上げの半分はベアトリクスのものに。デューネが勝てば全額デューネのものに。私が勝てばフワフワは無料で、ベアトリクスが街道クッキー詰め合わせをデューネに買ってあげることになっている。


「何の話してるのぉ」


 ボニーが首を突っ込んで来た。規約がある。内緒にはできない。


「いいなぁ。私も参加したかったなぁ」

「何言ってんのよ。危うく死ぬとこだったのよ」

「そうじゃなくてぇ。お肌のお手入れのほう」


 そう言えば、ボニーは未経験だったな。


「今度頼んでみたら? デューネ優しいからやってくれるわよ」

「いいのかなぁ?」

「良いに決まってんじゃない。その代わり、フワフワの客寄せ手伝うのよ」

「うん。わかったぁ」




 ベアトリクスの出してくれた水でお椀と鍋を洗っていると、伝令が走って来た。


「予定通り誘引に成功。前進陣地は撤退しました。損害はありません」


 ロビンソンさんの偵察結果から、相手の戦力は分かっている。一匹も逃げていないようなので、オークが三十匹にガーゴイルが二匹だろう。


「橋は残しておいたな」

「はい。そのままにして第二陣地に移動しました」


 第一陣地は渓流のすぐ北に作った。穴を掘って土塁を積んだだけで、十人位が守っているはずだ。オークの姿が見えたら悲鳴をあげて撤退するようにパウルさんが演技指導をしていた。


 パウルさんが切り倒した二本の木を、渓流を渡れるように倒して臨時の橋にしておいた。オークはそれを渡って崖を登り終えたようだ。


「オークの半数が川を渡りました!」

「良し! 第二陣で軽~く、一当てして来い。弓矢を放つだけだぞ」


 ハンスさんの指示が出た。第二、第三段階が上手くいけば最終段階だ。


 森の奥から喚声が聞こえて来る。人間とは思えない叫び声だ。オークが突撃したのだろう。


 間もなく、半笑いの衛兵隊が悲鳴を上げながら逃げて来た。


「何じゃ、あいらは。笑っておるじゃないか。もっとしっかり悲壮感を出す様にせんといかん。後でハンスに文句を言ってやる!」


 演技指導の魔法使いが怒っているが、無理もない。衛兵隊は劇団に給料を貰っているわけではない。


「まあまあ、監督。そう言わずに。後ろは向いていませんから」


 半笑いではあるが、ごく自然に足がもつれて転んだふりができている。愛弟子のロビンソンさんが宥めるように熱演と言っていいだろう。


「ああ! いかんいかん。転んだ以上は、額から血を流さんと真実味が出んだろうが!」


 無茶苦茶なことを言い始めた。


「まあまあ、監督。ブラッディを名乗れるのは監督だけですから」

「おっ? そうか? なら仕方ないな」


 何故そこで胸を張る。訳が分からないぞ。




 そうこうしている内に前衛は皆逃げて来た。


「連中、置いてきた食料を漁るのに夢中だぜ。きっと腹が減ってんだな、あれは」


 置いてきた食料とは、第二陣地でこさえておいた干し肉鍋だろう。わざわざ陣地の真ン中で焚火をし、衛兵隊が背負ってきた特大の鍋幾つかに人間の分量だが三十人分くらい仕込んでおいた。


 オークも出撃してからは碌に食べてないはずだ。陣地で晩御飯が食べられるなら、食いついてくるに違いない。

 もちろん、大食いであろうオーク全員分にはならないだろう。その代わり、木に吊るしたハトやウサギに渓流で獲れた魚を含めて、大量の食糧を袋に詰めて置いてきた。

 上手くいけば、二週間の予定が半分の日程で済む。惜しくはない。 




 しばし様子を見て、連中が食べ終わるのを待つ・


「来ました。やたら気楽そうにやってきます!」


 最後の斥候が陣地に掛け込んでくる。笑顔ということは、作戦がはまったか。


「一斉に、篝火を焚け!」


 ハンスさんが大声を上げると、最終陣地だけではなく、背後の山のあちこちで火が焚かれる。

 篝火はどんどん増えていって、後ろを振り返ったら尾根の半分に篝火が焚かれ、かなりの味方が待機しているように見える。十人の篝火担当はかなり頑張って走ったに違いない。


「ようし、一番解放!」


 ハンスさんの合言葉に、あちこちから解除された魔法がオーク目掛けて飛んで行った。マルセロさんの魔法陣だ。衛兵隊の魔法兵にマルセロ商会を含めて、十人以上の魔法使いが仕込んでおいた。

 土、雷、氷、全部初級魔法なのだが、その分数が多い。まともに当たらないだろうが、それでも良い。


「ライト!」


 オークの足が止まった所に、正面から目一杯で光を放つ。

 幅広く照らしたから、光量は弱いが森の闇に紛れているつもりの奴らが丸見えだ。さぞや肝を潰しただろう。案の定、目を覆って唸りながら立ち尽くしている。


 マルセロさんがホーリー・ランスを放ち、ボニーの持ってきた聖水の矢を五人の衛兵隊が狙いすまして放つと、敵の前衛がバタバタ倒れた。


「二番解放!」


 合図と共に魔法の第二波がオークに向かう。

 オークの群れはそのまま食料の入った袋を背負って逃げ始めた。


「いくぞ!」


 パウルさんの掛け声と共に、私とボニーとマルセロさんがお椀に乗り込む。

 追撃だ。


 逃げる敵を上から照らしながら後を追う。

 最後尾の奴から順にボニーとマルセロさんが聖水の矢とホーリー・ランスでポツリ、ポツリと少しずつ狙いを外して追い上げていく。


「ワハハハハ。お前達は皆ここで死ぬのだあ!」


 悪の魔法使いも熱演だ。


 遂に渓流の向こうまで追い込むと、お椀を解体したパウルさんがトルネード・ウィンドウで橋をバラバラにしてしまった。

 その頃には後続の衛兵隊も追いついてきて、渓流を挟んで双方にらみ合いになった。


 戦力的には向こうが上だが、ライトを上空に浮かべて両岸を照らしている。オークも恐れているのか仕掛ける気配がない。


 ハンスさんがわざとらしくオークの背負った食料を指差し、皆で一生懸命悔しがった。

 オーク共は、わざとらしく見せびらかしてゲタゲタ笑った。槍を振りかざして挑発している奴もいる。


 よし、これで上手くいった。


「頃合いじゃの」


 パウルさんの言葉にハンスさんが頷くと、皆で後ろを振り返りつつ陣地に帰る。




「オークが撤収します!」


 見張りに残しておいた兵士の声が聞こえると、思わずその場にへなへなとしゃがみ込んでしまった。

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