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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第四章

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第十八話 西中の原北部からの脱出③

 ガーゴイルに追われていた理由を話すと、運んであげるから寝てなさい、と言われた。

 水のベッドとでも言うのだろうか、いつぞやのフワフワよりも柔らかい、フヨンフヨンした水の塊を作ってくれた。それが川の流れ具合に関係なく、ゆっくりと渓流を流れて行く。


 バフン! とした感触が心地よい。


「助かったわ。ありがとう」

「ウフフ。いいのよ。よくここまで我慢したわね」

「渓流まで来たら、何とかしてくれると思ってたから」

「正解ね。ここの水たちは、いつも感謝の気持ちを忘れない人間の猟師が好きみたいよ。それに比べてさっきの連中は不愛想だから嫌いだ、って言っているわ」


 そう言えば、パウルさんも、アンガスさんも、渓流を渡るときにはお酒を流してお祈りしていたな。


「儂の方からも猟師達や町の連中に言っておくよ。今まで以上に山や森を流れる水に感謝しろとな」

「最近クッキーをお供え物にしてくれているのは、パウルさんね」

「いや、あれは、ほら、ロビンソンに頼んでだな……」


 真っ赤な顔で、しどろもどろになっている。

 デューネには頭が上がらないようだ。


「いいのよ。三人共ゆっくり寝てなさい。味方のいる場所が近くなったら起こしたげる」


 頭を撫でられているうちに眠くなってきた。

 おやすみなさい、の挨拶もそぞろに、そのまま眠ってしまった。




 目を覚ますと、水のベッドは河原に乗り上げていた。

 パウルさんが腰まで水に浸かって魚を獲っている。


「よ、はっ! ようし。よっしゃ、よっしゃ」


 気のせいか、異様に生き生きしている。


「デューネ、おはよう」

「もう、夕方近いけどね。良く休めた?」

「うん。ありがとう。なんか、凄いすっきりした気分よ。もしかして、なにかやってくれたの?」


 デューネは身体の悪い物を取り除いてくれる。


「少しだけね。疲れていたようだったからね」

「ありがとう!」


 抱き着いて行くと頭を撫でてくれた。


「それがね。ジャンヌとベアトリクスはいいのだけどね。パウルさんがね、だいぶ身体に悪いのが溜まっていたから、ちょっと気合い入れて手直ししたのよ。そしたら、ああなっちゃって……」


「おう、ジャンヌ。起きたか。いやー! 若返った気分だ。ほら、四匹獲ったから一人一匹あるぞ。早うベアトリクスを起こさんか。腹が減っては戦もできんでなあ。 ワハハハ。 いやー、健康とはいいもんだなあ」


 明るいのはいつものことだが、身体の動きが何か違う。キレがあると言うか、滑らかだ。口調まで微妙に変わっている。


「大丈夫かな? あんなんでいい?」


 デューネが随分と心配している。


「多分、町に戻って普段の生活送るようになったら元に戻るんじゃないかな」

「普段どんな生活送ってんの? あの人?」

「よく分かんないけど、ああいう元気な人がデューネに手直しされるまでのパウルさんになるような生活じゃないかな?」

「不摂生の賜物ね」

「元に戻ったら、日頃の不摂生のせいだ! って言ってやればいいのよ」

「あはは。そうするわ。ありがとう、ジャンヌ」


 キュッて、抱きしめてくれた。


「じゃあ、ベアトリクス起こそうか。ご飯食べましょ」

「そうね。そうしようか」


 二人してベアトリクスの方へ行くと、大口を開けて寝ている。


「この娘はこの娘で、たいした度胸ね」

「いつもこうなの。心臓に毛が生えているみたいよ」


「アウェイク!」


 ビクンと目を覚ます。


「おはようベアトリクス」

「あんた、また魔法使ったでしょ?」

「パウルさんが魚焼きたいんだって」

「火打石くらい持ってんでしょうが」

「そう言わずに一緒に食べよう」

「はいはい」


 デューネが、ちょいちょい、と突っついてくる。


「ベアトリクスはほとんど何もしなくても良かったのよ。どういう生活送ってるの?」

「この娘は、ひたすら寝てるのよ。だからじゃないかな」

「ふーん。やっぱり、睡眠かあ」


 ペタペタと自分の肌を触っている。

 一番綺麗だと思うけどね。




 塩を揉み込んだ魚を火で炙る。

 香ばしい臭いがしてきて、お昼ご飯を食べていなかったことを思い出した。


「はい。街道クッキー。一人一個よ」

「ありがとう!」


 デューネが目を輝かしている。本当に好きなんだな。


 デューネが街道クッキーをパクつく横で、魚を炙りながら作戦会議をする。



「これからどうするの?」

「うむ。ハンス達と合流して、オーク共が渓流を越えて来るのを阻止せんといかんな」

「そこは譲れないのね」

「そうじゃ。儂ら人間は普段は渓流の北へは行かん。魔物達も南には来ん。お互いに雌雄を決する日が来るまでは不干渉が基本だ。」

「今回はどうしたんでしょうか?」

「今回は人間が先に侵入したんだ。原因は儂らにあるだろう。連中は連中で護っておるものがあるんだろうな」

「ゴブリンの時は問題無いの?」

「あの時は、一応はオークの敗残兵対ゴブリンだからな。元々住み着いとった連中じゃなかったろうし、問題は無かったんじゃないか。それにあの辺りからもう少し東に行くと南北に流れる渓流があってな。中の原猟兵隊の山砦の傍を流れとった奴だ。そこから東の原猟兵隊の山砦までは一応は人間の領域になる。問題は中の原から西の北部領域だ」


 一触即発の相互不干渉か。しかも、今回の争いの原因は人間にあるらしい。


「じゃあ、渓流の北で戦って勝っても恨みを買うだけですよね」

「そうなるな」

「一旦、渡らせて撃退すれば、双方痛み分けになりませんか。ここは喧嘩両成敗ということで」

「面白いことを言うの」


 そうなのだろうか? 両成敗は基本だと思っていたが……。


「作戦としてはどうなの?」

「やれんことはないだろう。情報収集と作戦能力なら魔物には負けん。ただし、川を越された後に防衛拠点がないといかん」

「作りましょう!」


 パウルさんがいる。堀と土塁なら東の原でも作った。加えて、お椀と魔法陣の罠とロビンソンさんの偵察能力があれば……。


「よし。ハンスに提案してみよう」


 方針が決まった。上手くいけば、しばらくは魔物が南に来ることはないだろう。


「あんたの話聞いてると、魔物と演習かなんかをしてる気分になってくるわね」

「どういうこと?」

「魔物が不倶戴天の敵じゃなくて、たまたま今回対戦することになった演習の相手のように思えて来るのよ」


 よく分からない。魔物とて同じ生き物だ。魔物には魔物の言い分があるだろう。


「やっぱり、ジャンヌは面白いわね」


 ウフフ、とデューネが頭を撫でてくれた。




 中立のデューネとはここで別れた。私は逃げようと思えば逃げられるからだ。


「じゃあ、町に帰ったら呼んでね」

「うん。それとね。今度来るときは、この間の服を着て来てね」

「これじゃ駄目?」

「えっと。人間の男には刺激が強すぎるっていうか・・・…その普段着じゃないのよ。お泊りする時の夜着にするのは問題ないから持ってきて。今度、水色の普段着も買ってあげるね」

「分かったわ。ジャンヌがそう言うなら仕方ないわね」

「じゃあね。色々ありがとう」

「ウフフ。またね、ジャンヌ」


 デューネが合言葉の「またね、ジャンヌ」を唱えると、抱き着いていた腕の中から、指輪の中に消えていった。


「あの娘変わったわね」

「そう?」

「なんか柔らくなったって言うか……」

「もう友達だからじゃろう。以前会った時は、精霊と人間だったからな。今はそういうのはもう関係ないじゃろう?」


 確かにそうだ。友達の一人だな。


「さて、我らも急ぐか。決戦の時は近いぞ!」


 そうだ。ゆっくりしている場合ではない。やることは一杯ある。




 魔力が回復したパウルさんが、お椀を全開にするまでもまく、衛兵隊に合流できた。デューネがすぐ近くまで運んできてくれたからだ。


 渓流の南の森の中で、すぐにでも動けるように待機していたマルセロ商会の面々も一緒にいた。皆無事だ。


「ご無事で何よりでした」


 マルセロさんがニコニコと出迎えてくれた。


「ワハハ、心配を掛けたな。すまんかった」


 ロビンソンさんに会うと、チュルリが飛んで来て肩に止まった。耳元でチュルチュルと鳴いている。


「随分懐いたようだね。いっそのこと、中の原に連れて帰ってもいいんじゃないかな」

「でも、可哀そうじゃないですか? いきなり遠くに連れてったりしたら」

「大丈夫だと思うよ。この種類の鳥は、中の原でも良く見る奴だ。町でも見かけたことがあるから、町の北の山にもお仲間が沢山いるんじゃないかな」

「そうなんですか」


 ものは試しに籠を見せると、自分から入ってきた。


「ほらね。ジャンヌの傍がいいんだよ」


 ウフフ。じゃあ、一緒に帰る?

 チュルチュルと鳴いている。


 芋虫をあげていると、ベイオウルフとボニーもやって来た。


「二人共大丈夫だったかい?」

「実はね……」


 四人で木の陰に集まって、デューネの話をした。


「そうか。でもデューネがいなかったらかなり危なかったんじゃないのか?」

「まあね。正直ジャンヌがいないとヤバかったわ。でも結果オーライってとこね」

「デューネ。青のヒラヒラ着てたんだぁ。綺麗だったろうなぁ」


 ボニーは刺繍が青のように青色が好きだ。でも青い服はあまり持っていない。猟師だからヒラヒラも着ない。


「中の原に帰ったら、デューネに青い普段着買ってあげることになったのよ。一緒に買いに行かない?」

「いいねぇ。青い服かぁ。似合うだろなぁ」

「あんたも買えばいいじゃない。ベアトリクスとメアリー誘ってさ。選んでもらおうよ」

「私も行くの?」

「当たり前でしょ。私は神官の服しか着ないからお洒落なんて分かんないもの。あんたとメアリーがいたら大丈夫でしょ」


 二人は服のセンスもいい。それにメアリーはヒラヒラが好きだ。


「そうだねぇ。一着くらいあってもいいよねぇ」


 デューネのような長身ではないが、ボニーもスタイルは良い方だ。きっと、似合うのが見つかるはずだ。


 買い物の約束をしていると、パウルさんが声をかけてきた。マルセロさんやロビンソンさんも一緒だ。



「いいか? ハンス副隊長と話をするからお前達も参加せい」

「あ、はい」




 パウルさんに呼ばれていくと、ハンスさんが、ウンウンと頷きながら迎えてくれた。


「無事で良かった。民間人の戦死者を出したかと思ってひやひやしたぞ」

「縁起でもないことをいうな。で、どうなっとる」

「ロビンソンの偵察じゃあ、オークが三十ほどガーゴイルに掴まって山を越えたらしい。まもなく来るかもしれん」

「この辺りだけか?」

「そう願いたいね。マルセロ商会を通じて中の原には伝達済みだ。我らは我らで渓流を越えさせないようにせんといかん」


 予想通りの展開だ。渓流を挟んでのにらみ合いになったら、長期戦になる。


「ジャンヌ。説明してやれ」

「あっ、はい」


 あれやこれやと、説明する。


「問題が一つある」

「なんじゃ?」

「陣地はどうせ作らんといかん。しかし、渓流をみすみす相手に渡して奪還できるか? 第一、相手がどこから渡って来るかもわからんぞ。空から来るかも知れん」

「そこをなんとかするのが作戦じゃ。いいか……」


 パウルさんのいつもよりキレのある身振り手振りの熱演が始まった。

 ハンスさんは熱演に引きずられないように黙って地面を見つめて聞いていたが、幾つか質問をし、幾つか修正をした後で、最終的にはOKになった。


「よし。決まったぞ。ロビンソンは偵察。マルセロとベアトリクスは地上で迎撃戦だ。儂とジャンヌとボニーは空中戦だ。上空班はベイオウルフを借りるぞ。では早速陣地を作ろうか」


 なんだか良く分からないが、どうやらお椀に乗るようだ。ボニーは聖水入りの矢筒を持っているから、対ガーゴイルの中心だろう。ベイオウルフは防御だな。

 さて、私は一体、何をするのだろうか?

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