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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第四章

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第十話 アンダイン

 話を聞いて分かったのだが、ここは彼女の家らしい。残念ながら女神様の遺跡ではなかった。

 水と一緒になって私達の様子を見ていたら、私が石を投げたり、大声を出したりしたものだから、怒って出て来たようだ。


 すみませんと頭を下げると、機嫌を直してくれた。


 折角持ってきたのだからと、お供え物を差し出す。


「また、これ? 人間って、いつも同じもの寄越してくるわね。もう飽きちゃったわ」


 言いつつも、教会で包んでくれたワインをぐびぐび飲んでいる。一緒に入っていた干しブドウ入りのパンを齧りながら、他に無いの? と催促までしてきた。


 お供え物は教会で売っていて、他の物で代用してはいけない。専売にしたほうがお金になるからだろう。何百回か何千回か知らないけども、ひたすら同じものを捧げてきたはずだ。


 ならば、とパウルさんを横目で見ると、異心伝心頷いている。私達には切り札がある。

 街道クッキー詰め合わせデラックスを差し出す。


「なによそれ? 寄越しなさいよ」


 ひったくると、まず一つ口に入れる。


 満面の笑みだ。

 よっしゃ! 思わずパウルさんとガッツポーズをする。ゴブリンにも通用した。同じ精霊なら通用すると思ったが、案の定だ。


「あなた、気に入ったわ。顔がアレだけど」


 再びへこまされたパウルさんだが、くじけずに、腹が減ってるなら鍋でも作ろうか、と白い塔を指差した。

 大胆なお誘いに、流石に無理か、と思ったが、あっさりOKが出た。意外と食い意地が張っている。。


 クッキーは二つ、三つ食べただけで、蓋をして大事そうに両手で抱えている。随分気に入ったようだ。

 王都に行く機会があったら、本店に立ち寄ってお礼を言わないといけないな。




 アンダインが右手を上げると、湖の水が盛り上がってきて、四角い形になった。それを渡るらしい。


「あなたが最初よ」


 私が指差された。


「どうしてですか?」

「あなた、このところきれいな水を沢山浴びるか浸かるかして身を清めて来たでしょ?」




 覚えがある。


 水かけ祭りの時は七対数百という大劣勢のなか、結果的に先頭に立って応戦していたので三桁はぶっかけられた。途中で見かねた女性陣が寝返って、オバサン達がロバーツ様の、お姉さん達がグラディス様の元に集まってくれた。応援が無ければ地べたの上で溺れ死んでいたかもしれない。

 東の原の山砦ではエイミー先生が成聖した聖水の樽に落ちてしまい、本当に溺れそうになった。頭から真っ逆さまに落ちたせいで大分聖水を飲んでしまった。


「綺麗に身を清めた者が最初に渡らないと、水が機嫌を損ねちゃうわ」


 なるほど。偶然とは恐ろしいな。


「それにあの子が認めたし」


 指差す先には水に浮かんだ黒子がこちらを見ている。


「白い鳥はどうなったんですか?」

「あれは、あの子の元々の姿よ」

「えっ? どうして、あんな綺麗な格好から、あんな不格好な……」


 思わず口を滑らせてしまったら、グアグア鳴かれた。

 ごめんごめん、と謝る。

 しょっちゅう転んでいたのは慣れない格好をしていたからなのか。


「あははは! あなた面白い娘ね。この子が懐くのも分かるような気がするわ」


「でも、どうしてですか?」

「人間って、見た目で判断するじゃない? 中身なんて見てないのよ。あの子は二つの姿を使い分けて、人間を分析しているのよ」


 なるほど。パウルさんの顔が趣味じゃないと一蹴したのは忘れているようだ。


「何? 何か言った?」

「いえ。何でもありません」


 流石は精霊、鋭いな。




 アンダインは水面から離れて二本足で島を歩いている。

 早く渡って、と言われた。

 水の橋はブヨブヨしていて心許ない感じがしたが、なんとか渡り終えた。

 私が渡れて安心したのか、皆おっかなびっくり渡り始めた。途中でベアトリクスとリュドミラがピョンピョン飛び跳ね始めて、いつまでも止めないので、水をぶっかけられた。

 全く、分かり切っていることじゃないか。


 懲りない魔法使いは、早速交渉を始めている。


「これ面白いわよ。お祭りとかで出したらお金取れるわよ。そうなったら、そのクッキーもっと買ってあげられるわ」

「面白い面白い。もっとやりたい!」


 アンダインは手に持ったクッキーの箱をちらりと見る。


「それ本当?」


 食いついた。


「でも、クランプ・ウォーターなら仲間が使えるし、私達だけでできちゃうからいいか」

「甘いね。クランプ・ウォーターなんかで人間を支えられるわけないじゃない」

「じゃあ、何なの?」

「そう簡単に教えられると思ってるの?」


 ウフフ、と笑っている。


「一人、そうね……子供相手だから小銅貨一枚で時間制にして延べ百人が遊んだとしたら、街道クッキーが五十個買えるわね。お祭りみたいなイベントは年六回以上あるから、毎日一個食べてもまだ余るわよ」

「毎日……」


 前のめりだ。完全に引っ掛かった。流石はベアトリクス。弱点を見抜くのが早い。


「ちょっと待って。後で詳しくその話をしようよ」

「いいわよ。まずはお鍋食べて貰わないとね」


 ほくそ笑んでいる。ペースを掴んだのを確信したのだろう。その証拠に、リュドミラがもう一回やりたいと言うと、しょうがないわね、とやらせていた。




 一七五の会のメンバーでひとしきり飛び跳ねて遊んだ後、白い塔に向かう。


「全く、いつまで飛び跳ねてんのよ。お腹空いちゃったじゃない」

「ごめんごめん。面白くってつい、ね。ところで、これどうやって中に入るの?」


 ベアトリクスが石の壁を触る。コンコンと叩くが固そうだ。


「簡単よ」


 右手で水の橋を指さして、ついっ、と塔の方に向けると、今度は水の階段が出来た。


「凄いわね」


 流石にびっくりしている。


「水の精霊だからね」

「精霊っていうと、ゴブリンの仲間?」

「格が違うわよ。四大精霊って知らないの?」


 やっぱり、そうなんだ。

 水の精霊アンダイン。水属性魔法を司る大精霊だ。


 フフン、とふんぞり返っている。


「となれば、ここでは水の魔法は使えるのか?」


 パウルさんが聞くと、当たり前でしょ、と返ってきた。神聖魔法と水属性魔法は使えるらしい。

 そう言えば、試しに使ったのは風の魔法と火の魔法だったな。


「ウォーター!」


 リュドミラが魔法を唱えると、鍋に水が湧いてきた。


「やったー!」


 大喜びだ。

 彼女は水魔法が使えるようになって畑仕事が捗っている。覚えるまでは魔法を使う作業は畑の石拾いだけだった。

 水魔法が大好きだ、と言うと、見どころあるじゃない、と褒められていた。


 ブヨブヨの階段を四つん這いになって登ると、屋上に着いた。端っこに階段がある。

 そのまま随分と狭い階段を壁にへばりつくように降りて行くと、二階が吹き抜けになった部屋に辿り着いた。階段の無いところに窓があるから十分に明るい。

 部屋の端には大きな水槽がある。地下水道で私達が来た湖にまで繋がっているらしい。


 暖炉があり、鍋が掛かっている。水色の食器台があり、ベッドが一つ、白いテーブルと椅子が一つ。何か台があり、綺麗な水色の玉が乗っていた。私の部屋より充実している。


「普段はここで食事をしてるんですか?」

「そうよ。食材は湖にあるからね」


 水の大精霊が煮炊きするとは想像もしていなかった。意外に堅実に暮らしている。


「お一人なんですか?」

「そうよ。大きくて水の綺麗な湖に一人でいるの。そうやって、大切な水を守っているのよ」


 なるほど。美男子な騎士様に恋慕もするだろう。


 ちら、と見て来るので、慌てて鍋の準備に取り掛かる。

 火は暖炉にある。リュドミラの魔法で鍋に水を入れ、干し肉の欠片と野菜を入れて煮込む。

 私達はお弁当を食べたので、多目の一人前にした。

 肉がグズグズに崩れてきたら出来上がりだ。


 部屋の中に、ほのかに肉の香りが漂ってくる。 

 アンダインがゴクリと唾を飲み込んだ。

 お椀に装って匙と一緒に渡したら、ふんふん、と匂いを嗅いだ後、ほぐれた肉を一口食べる。


「美味しいじゃない!」


 パクパク食べ始めた。

 クマが寄って来た。自信はあった。

 二杯目を食べ終わった頃にはすっかり和んだ雰囲気になった。

 やっぱり美味しい食事に勝るものはないな。




「つまり、あなた達は女神様に会いに来たのね?」

「ここは、女神様がお創りになったと聞きました」

「そうなのかしら。分からないわ。私は生まれた時からここにいるもの」

「いつ頃生まれたんですか?」

「水の精霊はね。湖から生まれてくるの。私が知っている事は、この湖が知っている事。あなた達が言っている事が本当なら、女神様はこの湖そのものを創ったことになるわね」


 壮大過ぎて想像すらできない。


「この塔は生まれた時からあったのか?」


 パウルさんが聞くと、うん、と頷く。

 結界は彼女が作ったらしい。水の精の本能だそうだ。


「つまりじゃ、女神様にお会いできた時は湖ではなかったのではないか。森の中にこの塔を作った後で、結界をお創りになったはずだ。恐らく湖そのものが結界なんだろう。そしてアンダインが生まれた。湖だって自分が生まれる前の事は覚えておらんじゃろう」


 ふーん、と首を傾げている。ゴブリンと同じで信仰とかにはあまり関心がないのだろう。


「ずっと、一人で暮らしているんですか?」


 うん、と頷く。


「寂しくはないのですか」


 ベイオウルフの質問は分からないでもないが、聞くだけ野暮というものだ。


「生まれた時から一人だもの。他の誰かと一緒に暮らすなんて想像もできないわ」


 予想通りの答えが返ってきた。

 皆孤児だから、家族や友達の思い出がある。だから孤児院で暮らすのが寂しいんだ。


「そういうものかなぁ」


 とりわけ家族だけじゃなく知り合いも中の原に居るボニーには、理解できないだろう。

 私にはアンダインが言うことが理解できた。


 私の母は戦争で父を殺され村を焼かれた。一時的な避難場所として使用されていた孤児院に身重のまま逃れてきて、私の命と引き換えに亡くなってしまったらしい。母自身も傷を負っており、私が無事生まれたのが奇跡的なことだったと院長先生に聞かされた。そして、そのまま孤児院で育った。


 私には家族の記憶が無い。当然、家族がいなくて寂しいという感覚もない。院長先生や孤児院の仲間達が家族のようなものだが、時々お母さんやお父さんのことを思い出して泣いている子に寄り添う時も、全てを理解してあげることはできなかった。


「それはそうと、もうそろそろ、さっきの水の魔法教えてよ。お供え物はもっと美味しいものを持ってきてあげるわよ」


 ベアトリクスが交渉を再開した。

 私の手を握ってくれているのは、心の内を察してくれたのだろう。


 フフン、と腕を組んだアンダイン。


「それよりも、私に外の世界を案内しなさい。そうすれば何時でも私の魔法が使えるでしょ?」

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