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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第四章

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アンダイン

 黒子が傍にいたら大丈夫だろう。二人で皆が上陸するのを手伝った。

 ロープは既に引き上げられていたので、船が流れて行かないように固定する本来の役目に使える。

 木に縛り付けるのと、地面に杭を打つのとどっちが良いか黒子に聞くと、木の方が良いらしい。

 大人しくしている木にロープを結びつけ、船を固定していると、リュドミラが傍にいって木に触っている。


「リュドミラ? どうしたの?

「木に虫がついてたから取ってあげてるの」


 取った虫は、そのまま黒子の口の中に放り込んでいる。


 いつの間にか木が何本かリュドミラの回りに集まって来た。虫を取って欲しいようだ。


「ここは小鳥がいないでしょう? だから虫を食べるのがいないんだよ」

「そっか、じゃあ皆で手分けして取ってあげようか」

「うん」


 リュドミラに教えて貰いながら皆で虫取りをすることにした。

 取った虫は、黒子の口に放り込んだり、ロビンソンさんの小袋に入れたりしながら、半時間位かけてとった。


 もう大丈夫だろうと、額の汗を拭いていたら、いつの間にか他の木が距離を詰めてきている。


 ちょっと待て。あんたら、何百、いや何千本いるんだい?


 いくいらなんでも全部は無理だろう、と皆で頭を抱えたのだが……。


「ごめんね。また来るから、その時に順番に取ってあげるね」


 リュドミラが言うと、すごすごと下がって行った。

 流石は農業研究者。大したものだ。




 食べ過ぎたのかゲップをし出した黒子を連れて、探索開始だ。


 湖の中の島は真夏のように一面緑の草原で、植わっている木は島の縁に整列している連中だけだ。それ以外は平坦な地形が広がっている。

 そう大きくはないので、島の中の湖のほとりにはすぐに着いた。


 島の中の湖は池と言ったほうが良い大きさだ。その中の小さな島へは、石を投げたら私でも届くんじゃないか、というくらいの距離しかない。

 島には二階建ての塔のような石造りの建物がある。所々に窓なのか穴が空いたように石が無い場所がある。建物の周囲に生えている木の葉っぱは、黄色や赤の鮮やかな色で、地面にも沢山枯れ落ている。

 地面の草も秋らしく緑色のものはほとんどない。そこの季節は私達の世界と同じだ。


 黒子を水に離すとスイスイと泳いで行ってしまった。

 そのまま対岸の岸辺にある巣の様な所に入って丸くなってしまった。お役御免と言ったところなのか。

 ここから先は案内なしか……。


 正直不安だが仕方ない。ここまで連れて来てもらっただけでもありがたい。

 ありがとう、と言うと、無視された。

 聞こえなかったのかもしれないので、落ちていた小石を拾って、丸くなっている近くの水面に投げてやると、返事をしてきた。最初からそうすれば良いのにね。




 一周したが内側の湖には橋が無い。最後の関門だ。


「うーむ。奴に聞くしか良い方法が浮かばんな」


 パウルさんが黒子を見ている。


 そうしよう。

 おーい! おーい! と呼びながら、ボチャン、ボチャンと石を投げる。

 当りはしなかったが、機嫌を損ねたらしい。盛大に鳴き始めた。


「渡り方教えてよ! また干し肉あげるからあ!」


 羽ばたきながら、ガアガア騒いでいる黒子に懸命に呼びかけていたら、突然その声は聞こえてきた。


「うるさーい!」


 いきなり、湖の水が飛び上がってきて私の頭の上から降り注ぐ。

 またも水浸しだ。しかも大量にふりかかった割には、私しか濡れていない。


 なんなんだ、一体……。

 水かけ祭りの時と言い、陣地で溺れそうになった時と言い、水難の相でも出ているのだろうか……。


 水が飛んできた方向を見ると、人の形をした水の塊が水面に立っていた。




「何なのよ、さっきからうるさいわね!」


 体は水で出来ているせいか透き通っている。

 服なんか着ていないので、身体の線がくっきりと出ている。随分とスタイルが良い。

 年は二十代前半と言ったところか。


「何をじろじろ見てんのよ。何とか言いなさい!」


 いや、あの、何者ですか?


「人の名前が知りたいなら、先に自分が名乗るのが礼儀でしょうが!」


 確かにその通りだ。あんまりにもびっくりして、まじまじと見てしまった。


「アンダインか!」


 我に返ったのか、パウルさんが叫んだ。


 アンダインって言うと、おとぎ話に出てくる……確か四大精霊の一人で、水の精霊……。


「へえ、少しは知ってんじゃない」


 右手で髪……髪の毛の様な水をかきあげる。


 てことはあれか? 若い美男の騎士様を人身御供に差し出さないといけないのか? 


 あの、残念ながら手持ちが無いのですが……。


 水をぶっかけられた。


「人を色魔みたいに言ってんじゃないわよ!」


 失礼なことを言うな! とパウルさんにも怒られた。


「若くはないが美男子ならここにおるだろうが!」


 ポーズを取り始めた。

 度胸だけは認めても良いだろう。


「悪いけど、あんたの顔、趣味じゃないから」


 すごすごと引き下がる。


「で、あなた達何なの?」


 落ち着いてきたので、一人ずつ名前を名乗って挨拶をする。パウルさんがスルーされていたのは気のせいじゃないな。




 白い塔は彼女の家らしい。残念ながら女神様の遺跡ではなかった。

 水と一緒になって私達の様子を見ていたら、私が石を投げたり大声を出したりしたものだから、怒って出て来たようだ。


 すみませんと頭を下げると、機嫌を直してくれた。


 折角持ってきたのだからと、お供え物を差し出す。


「また、これ? 人間って、いつも同じもの寄越してくるわね。もう飽きちゃったわ」


 言いつつも、教会で包んでくれたワインをぐびぐび飲んでいる。一緒に入っていた干しブドウ入りのパンを齧りながら、他に無いの? と催促までしてきた。


 お供え物は教会で売っていて、他の物で代用してはいけない。専売にしたほうがお金になるからだろう。何百回か何千回か知らないけども、ひたすら同じものを捧げてきたはずだ。


 ならば、とパウルさんを横目で見ると、異心伝心頷いている。私達には切り札がある。

 街道クッキー詰め合わせデラックスを差し出す。


「なによそれ? 寄越しなさいよ」


 ひったくると、まず一つ口に入れる。


 満面の笑みだ。

 よっしゃ! 思わずパウルさんとガッツポーズをする。ゴブリンにも通用した。同じ精霊なら通用すると思ったが、案の定だ。


「あなた、気に入ったわ。顔がアレだけど」


 再びへこまされたパウルさんだが、腹が減ってるなら鍋でも作ろうか、と白い塔を指差した。

 大胆なお誘いに流石に無理かと思ったが、あっさりOKが出た。意外と食い意地が張っている。


 クッキーは三つ食べた後、蓋をして大事そうに両手で抱えている。随分気に入ったようだ。

 王都に行く機会があったら、本店に立ち寄ってお礼を言わないといけない。




 アンダインが右手を上げると、水が盛り上がってきて四角い形になった。それを渡るらしい。


「あなたが最初よ」


 私が指差された。


「どうしてですか?」

「あなた、このところきれいな水を沢山浴びるか浸かるかして身を清めて来たでしょ?」


 覚えがある。


 水かけ祭りの時は七対数百という大劣勢のなか、結果的に先頭に立って応戦していたので三桁はぶっかけられた。途中で見かねた女性陣が寝返って、オバサン達がロバーツ様の、お姉さん達がグラディス様の元に集まってくれた。応援が無ければ地べたの上で溺れ死んでいたかもしれない。

 東の原の山砦ではエイミー先生が成聖した聖水の樽に落ちてしまい、本当に溺れそうになった。頭から真っ逆さまに落ちたせいで大分聖水を飲んでしまった。


「綺麗に身を清めた者が最初に渡らないと、水が機嫌を損ねちゃうわ」


 なるほど。偶然とは恐ろしいな。


「それにあの子が認めたし」


 視線の先には水に浮かんだ黒子がこちらを見ている。


「白い鳥はどうなったんですか?」

「あれは、あの子の元々の姿よ」

「えっ? どうして、あんな綺麗な格好から、あんな不格好な……」


 思わず口を滑らせてしまったら、グアグア鳴かれた。

 ごめんごめん、と謝る。

 しょっちゅう転んでいたのは慣れない格好をしていたからなのか。


「あははは! あなた面白い娘ね。この子が懐くのも分かるような気がするわ」


「でも、どうしてですか?」

「人間って、見た目で判断するじゃない? 中身なんて見てないのよ。あの子は二つの姿を使い分けて、人間を分析しているのよ」


 なるほど。パウルさんの顔が趣味じゃないと一蹴したのは忘れているようだ。


「何? 何か言った?」

「いえ。何でもありません」


 流石は精霊、鋭いな。




 水の橋はブヨブヨしていて心許ないが、なんとか渡り終えた。

 アンダインの許可が出て、順番に渡っていたら途中でベアトリクスとリュドミラがピョンピョン飛び跳ね始めた。いつまでも跳んでいる。アンダインが右手を差し出すと慌てて止めた。


「これ面白いわよ。お祭りとかで出したらお金取れるわよ。そうなったら、そのクッキーもっと買ってあげられるわ」

「面白い面白い。もっとやりたい!」


 アンダインは手に持ったクッキーの箱をちらりと見る。


「それ本当?」


 食いついた。


「でも、クランプ・ウォーターなら仲間が使えるし、私達だけでできちゃうからいいか」

「甘いね。クランプ・ウォーターなんかで人間を支えられるわけないじゃない」

「じゃあ、何なの?」

「そう簡単に教えられると思ってるの?」


 ウフフ、と笑っている。


「一人、そうね……子供相手だから小銅貨一枚で時間制にして延べ百人が遊んだとしたら、街道クッキーが五十個買えるわね。お祭りみたいなイベントは年六回以上あるから、上手くやれば毎日一個食べてもまだ余るわよ」

「毎日……」


 前のめりだ。完全に引っ掛かった。流石はベアトリクス。弱点を見抜くのが早い。


「ちょっと待って。後で詳しくその話をしようよ」

「いいわよ。まずはお鍋食べて貰わないとね」


 ほくそ笑んでいる。ペースを掴んだのを確信したのだろう。その証拠に、リュドミラがもう一回やりたいと言うと、しょうがないわね、とやらせていた。




 渡ったは良いが塔には入り口が無い。

 どうするのかと思っていたら、さっき渡った水の塊が跳んで来て階段になった。

 びっくりだ。


 フフン、とふんぞり返っている。


「ここでは水の魔法は使えるのか?」


 パウルさんが聞くと、当たり前でしょ、と返ってきた。因みに、水以外の属性魔法は使えないらしい。

 そう言えば試しに使ったのは風の魔法と火の魔法だったな。


 ブヨブヨの階段を四つん這いになって登ると、屋上に着いた。端っこに階段がある。

 そのまま降りて行くと、二階が吹き抜けになった部屋に辿り着いた。階段の無いところに窓があるから十分に明るい。

 部屋の端には大きな水槽がある。地下水道で私達が来た湖にまで繋がっているらしい。


 暖炉があり、鍋が掛かっている。水色の食器台があり、ベッドが一つ、白いテーブルと椅子が一つ。何か台があり、綺麗な水色の玉が乗っていた。私の部屋より充実している。


「普段はここで食事をしてるんですか?」

「そうよ。食材は湖にあるからね」


 水の大精霊が煮炊きするとは想像もしていなかった。意外に堅実に暮らしている。




 催促されたので、慌てて鍋の準備に取り掛かる。

 火は暖炉にある。リュドミラの魔法で鍋に水を入れ、干し肉の欠片と野菜を入れて煮込む。

 私達はお弁当を食べたので、多目の一人前にした。

 肉がグズグズに崩れてきたら出来上がりだ。


 部屋の中に、ほのかに肉の香りが漂ってくる。 

 アンダインがゴクリと唾を飲み込んだ。

 お椀に装って匙と一緒に渡したら、ふんふん、と匂いを嗅いだ後、ほぐれた肉を一口食べる。


「美味しいじゃない!」


 パクパク食べ始めた。

 食べ終わった頃にはすっかり和んだ雰囲気になった。

 やっぱり美味しい食事に勝るものはないね。




「それはそうと、さっきの水の魔法教えてよ。お供え物はもっと美味しいものを持ってきてあげるわよ」


 ベアトリクスが交渉を再開した。

 フフン、と腕を組んだアンダイン。


「それよりも、私に外の世界を案内しなさい。そうすれば何時でも私の魔法が使えるでしょ?」

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