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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第五部 第二十五章

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第五話 火竜との再会

 氷の島へ行っている間に月をまたいで六月になった。

 お山の南西麓では、何度目かの諸侯会議が行われたはずだ。そのせいか、ノーザン・グラムに辿り着いた時に、エオウィン様から大陸の情勢を聞く事が出来た。


「西リーベルが、昨年分捕られた東部の町を取り返そうと出征したそうです」

「西から仕掛けましたか」

「その様です。しかし、南部の貴族を中心とした軍勢ですね。国王は王宮を離れておらず、本軍も出てはいないとの事」

「東リーベル本軍が対処する余裕が無いと判断したのでしょうね。周辺国の動きはあったのですか?」

「いえ、特に。国境付近に兵は配置しているのでしょうが、本気で攻め込みはしないでしょう。様子見かと。エングリオに至っては招集すらかけていません。東リーベルからの要請が無かったのか、もしくは本軍が西リーベルへ向けて動かない以上は断ったのかも知れません」

「西リーベルの一部貴族が勝手に出撃した可能性はありますか?」

「現状、どの国もその線を探っている様です。西リーベル王は沈黙を保っているのですが、好機と見れば本格的な攻勢を仕掛けるとは思います」


 休戦を破ったのに総大将が沈黙を保つなんて事が出来るのか?」


「休戦はいつ破られても可笑しくは無いのですよ。休戦自体が一日だけの事もあります。今回は、疫病の蔓延による両国の戦闘困難が原因ですから、その状況が緩和されてしまえば、いつでも再開される状況にあったのです」


 と言う事は!


「じゃ、じゃあ、大陸の疫病は収まったのですか?」


 思わずエオウィン様の顔を見る……が、あれ? 首を捻っているな。


「状況は、春先から変わっていない様ですね。私が聞いた話では、夏場……つまり、丁度今くらいから感染者が増えるとの事でしたが、感染者数そのものは増えてはいるのですが、増える割合ですか、そちらの方は、春先と変わらないそうです」


 なるほど。それでは首も捻るだろう。状況としては、大流行しないとは言い切れないと言ったところか。予断を許さない状況であるのは違いない。


「ベクティス伯が絡んだのが大きいですね。現在、我が国とフィニスが西リーベルへ供与している巻物と大樽の魔法陣ですが、全てベクティス島の指定された出島に降ろされます。その後は、伯の港でしっかりと管理されており、魔法水製造後に伯の船で西リーベルへ運搬されます。なにせ、ヴァンパイアの威名は雷霆の如く大陸全土に轟いています。その旗を掲げた船に積まれた荷を不正に扱う者は余程の世間知らずか、馬と鹿の区別もつかぬ愚か者でしょうから」


 ベクティス伯も分っていて、受け渡しの際に転売禁止を申し渡し、違反した者は伯爵の名誉を傷つけた者として相応に取り扱うとの書面を出しているらしい。大陸でも自在に魔法が使えるヴァンパイアに狙われて無事な者はいないだろう。受け取った者は、皆が大人しく送り先に届けているそうな。流石である。いつぞやの大同団結会議以来、荷受人は貴族だが、管理者は現地の教会になっている。その事も相まって、魔法水の供与が始まった頃に比べると民衆向けに使用される量が格段に増えた。疫病患者の温床になる貧乏人の居住区で使われているのであれば、大流行も防げるに違いない。


「それと、今回出征した西リーベル軍は、南部の大貴族との事です。南部にまでは広がっていませんから問題は無いと判断したのでしょうね」


 東リーベル王自らによる包囲戦の時に、近くまで行って眺めていた貴族が指揮官らしい。奪い返した土地の何割かが貰えるんじゃないかと、噂されているそうな。まあ、人間は利で動く生き物だからして、利で釣って働かせるのは現実的で良い方法なのだろう。


 ともあれ、現状、白い島の各国は様子見を決め込んでいる様で、その点は良かった。東にしろ西にしろ、軍事同盟なんか結んで巻き込まれたくはないもんね。




 無事にカエルの卵をノーザン・グラムに引き渡せた。ただし、普通に育てては大きくならない。卵は運搬用に使用した水槽ごと隔離施設の方に運ばれていった。今後、エレノア様が副魔王に聞いた内容に基づいて、リッチーに飼育マニュアルを作って貰うらしい。ベヒモスやリンドブルムの様なBランクを作るわけじゃない。普通の森の中の魔力量で良いはずだから、何とでもなるだろう。


「後は、サソリですね」


 サソリと言うと、とげのある尻尾が背中側に反りかえった奴だ。カエルに丸のみされるまでは暫定王者だった。あれは確か、火竜の棲む火口の周辺にいた。随分と見た目はいかつい感じだが、大声王子ことエドワード様の雄叫びにビビッて逃げ出すのを見た。


「魔王の洞窟三層に棲む魔物が一向に減りません。私達が全滅させたアリもいつの間にか復活していて、それどころかハチまで湧いている様です」


 魔王を討伐して以来、訓練を兼ねて一層から順に完全攻略を目指していたのだが、三層だけは相手が相手だけに後回しになっていたらしい。戦争があったり、大陸の戦争に備えて待機していたりと、十分な兵力を出せなかった時もある。特に先導役の降下猟兵がそっちに取られたせいもあって、最近は手をつけていないらしい。生い茂っていた黒い木を全部プロミネンスで燃やせばいいんじゃないかと思ったが、もの凄く広いとはいえ、洞窟内で大火事になったら、空気が薄くなって二度と立ち入れなくなるそうな。そうなると、調査自体が出来無くなる。地道にムシを退治しつつ、ウインド・カッター辺りで木を小さく切って、外に運び出すしかないそうだ。


「魔王の洞窟に棲む魔物が外部から送られて来ているとすると、サソリがいる所との連携があるはずです」


 エレノア様が言うには、蠍は本来あったかい地方の生き物で、白い島にはいない。恐らく、大陸から持って来たのをどこかでサソリにして増やしている。つまり、今のところ唯一発見例がある火竜の棲む火口の周辺だ。


「幸いな事に、大陸の情勢がそう切迫したものではありません。今の内に、フィニスの協力を得て、あの火口周辺の森を捜索するべきです」


 あそこには、他で見られない生き物として、ケルベロス、オルトロスにグリフォンもいた。尤も、魔獣の類は、最大の魔境と呼ばれる深い森がメディオランドの北の方、旧セプタンアクウィラ領との境目にあって、そこに山ほどいるそうな。多分、そこも繋がっている可能性がある。尤も、フィニスに至っては、集落が無い所は全部魔境と言って良いくらいに強力な魔獣が多く、果たしてどこまで探索すれば良いのか分からない。後、人型の魔物は、未だ攻略出来ていない魔境に沢山いるから、結局は上位の魔族を一旦根絶やしにするしかないのだろう。


「でも、あんな広い場所で魔法陣なんか見つけられますか?」

「それは、流石に無理と言うものです」

「じゃ、じゃあ、どうするんですか?」

「魔族をおびき出します」

「そんな事が出来るんですか?」

「どうでしょうか。五分五分位かと思うのですが」

「五分五分……一体、なにをするんですか?」

「それは、現地へ行ってのお楽しみですね」


 現地に行けば分るんだったら、今教えて貰ってもいいと思うけどなあ。




 一旦中の原に帰り、打ち上げになった。

 今回は、ヴァイオレットもお疲れ様を言われる側だからなのか上機嫌だ。グローリーやゴブリン、ちびセレーナを、はしゃぎながら何度も脇腹の足で高い高いしてあげている。

 議論の練習も無い様で、山賊達も普通にサラマンダーとお酒を飲んでいる。ノームに捕まっているのは、相変わらずアレックスとエルフの王子だ。ただ、二人共早めに酔い潰す積りなのか仕切りにお酒を勧めている。


「レナータ、色々無理を言って申し訳ありませんでした。今後ともよろしくお願いします」


 エレノア様は、早速レナータにお礼を言っている。

 レナータには、分身の木を特別に使わせて貰った。


「構わないさ。こういう事もあるだろうって思って残して来たからね」


 セレーナが何か言いたそうにしているが、思いとどまった様だ。少なくとも、人間が継続的に使う事にはしていない。その点は評価してくれているのだろう。それと、魔境関連は、エレノア様が事前に話を通しているらしい。きちんと約束を守っているので、満足している様だ。


「ジャンヌのお陰で、私の森も大分形になって来たからね。まあ、森と言うよりは若い林と言った方が良いけどさ。でも、冬の間は獣人まで来てくれるようになって、人手が増えたから、どんどん整備出来る様になったんだよ」


 出稼ぎの獣人の手当てはエルフが支払っている。エルフはその分、魔獣の角や毛皮の工芸品やら絹織物やらを作っている。一冬かけて一人一品作るらしいが、工事現場のオッサンの記憶が帰って来て以来と言うもの技術レベルも一気に引きあがった。一品がまさに絶品で好事家に金貨で何十枚とかの単位で売れているそうだ。獣人の出稼ぎ代くらいは、簡単に賄えるだろう。引き換えに、里では男女の別なくオッサン化が進んでいて随分とにぎやかになったそうだ。


「角無しが増えてドングリ拾って貯めているから、兎や栗鼠も増えて来た。豚と一緒に暮らしてるのはご愛敬だけどさ。それでも、霧を作って自分で森を護れる様になった。あの位、お安い御用だよ」

「凄いじゃない!」


 魔物化した森では上手くできなかった。


「有難うね。お陰で、思っていたより早く回復が進んでるよ」


 抱きしめてくれた。


「姉様。でしたら、もう少しペースアップ出来るのではないですか?」

「出来るかねえ」

「照らす本数を増やすの? 私は問題無いけど、一遍にやったら、雨が降った時に表面の土が流れたりすんだよね?」


 上級ホーリーで強化したライトで黒い木を照らしている。黒い木は裂けて倒れてしまうがひこばえを出す。ひこばえはセレーナが力を与えて一年木にし、それを植えて若木の林を作る。


 林は木の成長に応じて間隔をあけ、空いた場所に灌木を植え下草を育てる。その辺の加減をエルフがしている。獣人達の役割は主に力仕事だ。ひこばえを摘んだり、積んだ後の切り株や裂けた木自体を風の魔法で砕いて土と混ぜたり、それを袋詰めしたり、一年木を運んで植えたり、魔法で出した水を植えた若木の根元に撒いたりと、やる事は多い。これから夏に向かうが、鹿や猪がいないから下草刈りをしないといけない。ただ、人間との和解が成立した分、境界線を警備する必要がなかった。その分の空いた手を回してくれるらしい。無論、給料はエルフが支払う。


「新しい森が広くなっただろう? その分、円周が長くなったじゃない」

「そっか、同時に幾つもの場所で出来るんだ」


 一辺に地面を露出しない様に、黒い木の一群と若い木の一群が順番になった渦巻きを描くように作業を進めて来た。その渦巻きが十分な大きさになったのだ。夏場は、エルフも工芸よりも森の方を優先する様で人手もある。

 加減して照らす本数を制限している。一日で千本だ。二日連続でやれば倍に出来る。


 ホーリー担当のマルセロさん、それと二人に手当を出している王宮代表のエレノア様に相談したらあっさりOKが出た。条件が付いたが、二日連続にする事だった。出稼ぎの獣人にしても、こちらとしてもその方が良い。そうしないと遠征に出られなくなる。




「ところで、ジャンヌは次にどこに行くんだい?」


 最近はレナータに良く聞かれる。


「フィニスよ」

「また北に行くんだね」

「うん。火竜がいる火山に行くのよ」

「じゃあ、サラマンダーと宴会だね」

「そうね」


 そう言えば、グウィン様が火竜と会う時はサラマンダーが通訳だったな。




 その火竜と再会したのは三日後だ。今回もロビンソンさんがいる。それとグウィン様とシアーニャも一緒だ。つまり、ロビンソンさんの存在は、フィニスとプライモルディアにも解禁される。


 ところで、何故シアーニャがいるのか? 

 それは、エレノア様が考えた魔族を呼び出す作戦その一らしい。何をするのかは、まだ教えて貰っていない。




「よう、呼んでくれて、ありがとうよう」


 サラマンダーも呼び出した。

 火竜もグオングオンと喜んでいる。火竜はお気に入りの白銀の槍を手にしている。グウィン様の話では、毎日素振りをしているらしく、かなり上達したそうだ。


「おお! 火竜ではないか。なかなか気が利くな」


 ノームも呼んだ。のは理由がある。


「何じゃ、お主達も来ておったのか」

「はい。先日、地竜にも会いました」


 ノームの言葉に返事をしたのは竜人の族長だ。副族長と一緒に来た。既に、ヘンリー一行の計らいで地竜に面会している。気難しいので、緩衝材としてノームを呼んだ。内緒だけど。


「ジャンヌらと初めて会った時に比べると、随分と柔らかくなったの」

「左様ですな。とりあえず、セルトリアの今の世代は信用して良いかと」


 族長の言葉を聞いて、ヘンリー様とエレノア様がニコニコとお辞儀した。




 初見同士、初めましての挨拶をする。グウィン様はグウィン様でノームと竜人に驚き、シアーニャはシアーニャで、火竜とノームと竜人の出現に、やや呆然となっていた。ロビンソンさんが何事にも動じないのは流石だな。人生経験の違いなのだろう。


 挨拶が終わると、フィニスの上物で乾杯だ。普段納めているのとは別の扱いとの事で、火竜も専用の盥サイズのお椀を右手に持って、胡坐を掻いて寛いでいる。お気に入りの槍は専用の鞘を差して、これまた専用の槍置きに立て掛けている。


「火竜が、これほどまでに人間と誼を通じているとは……。我らは盲目であったな」


 竜人二人が嘆息している。今後、水竜や飛竜とも会って貰う予定なのだ。そっちの方がより人間と友好的に暮らしている。果たして、どんな感想を持つんだろうな。


「しかし、こうして揃ったとなると、魔族が警戒しはせぬか?」


 ノームがニヤつきながら言ってきた。


 確かに、普通に考えたら、魔族にとっては不利だろう。四大精霊の内の二大と火竜と竜人が人間と一緒に、火山の火口付近といっただだっ広い場所で宴会をしているのだ。


 しかし、フィニスの竜と人間の絡みは今に始まった事では無い。火竜は最近とは言え、他は……飛竜は距離があったのが最近一緒に猟を始めたのか。水竜も一緒に追い込み漁を始めたのは最近だっけか。引き籠りの地竜は、いつの間にか例のラビリンツが降下猟兵の訓練場になったらしいし……。もしかして、ヤバいのか?


「その点はご安心下さい。ドラゴンや獣人には徹底的に中立を維持して頂きます。仮に不届きな人間がいたとして、そ奴が例え冗談でも魔王軍と共に戦おうなどと発言した時は、冗談が上手いと笑い飛ばして貰う事になっています」


 エレノア様が胸を張っているが、言ってる事は微妙な気もする。でも、まあ、ノームや竜人が一緒になって頷いているからいいのかな。

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