表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第五部 第二十四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

595/852

第十一話 ナオネント公国へ④

 夜空に星が瞬いている。月は新月に近い。ほぼ真っ暗闇の中、屋根の上を移動する。先導はハーミット様だ。斜めになっているから、足を滑らせて転がり落ちないように四つん這いになって這うように進む。天窓が有る所まで行くと、出っ張った窓枠に身を隠し、そのまま仰向けになった。




 ハロルド様とハーミット様が部屋を出て行った後、ほどなくして、ヘンリー様達の部屋の北側の窓の外にロープが下がって来た。大部屋らしく窓は二つあるのだが、その内西側の方だ。東側の窓は全開にして、老夫婦が椅子に座った大声王子と共に北の空を眺めながらこの先一週間の天気をやたらと大きな声で予想しあっている。窓辺にカンテラを置いてあるし、天井にはホタルをくっつけて光らせた。照らす範囲と出力を絞ったから眩しいと言う程では無いが、外から見たら随分と明るいに違いない。その光で誤魔化す様に暗い方の窓を開ける。こちらは真っ暗だ。普通に考えたら同じ部屋の窓の明るさがこうも違うのは可笑しいのだろうが、こっちが逃げ出すまでの間誤魔化せれば良い。時折大声王子が声を上げる。見張りがそちらに気を取られて見たら最後、暫く暗闇は見にくいだろう。

 ロープは先が輪になっているから、頭を入れて脇の下にロープを通し、そのまま上に引き上げて貰った。




 無事に二人共屋根の上に登り、楽に過ごせる場所に来れた。屋根裏の飾り窓の上だ。良く分からないが見張りの死角になるらしい。下の老夫婦と大声王子も、お天気の話を止めた様だ。そろそろ寝ようかと声がして窓を閉める音がしたので、ホタルを解除した。


(これからどうするのですか?)


 ソート・コミュニケーションをかけているから、声を出さずに会話が出来る。黒紫を着込んで顔にネズミ退治用の布を巻いているから見つかりにくいだろう。因みにシアーニャの黒紫は、エレノア様のやつだ。


(寝静まったのを確認して、見張っとるやつが動くはずだ。その後は、恐らく人数を掛けて襲撃して来る)


 あそことあそこだ、と街角を指差す。正直言って見えないが暗がりに人がいるらしい。


(物乞いがおったろう? あ奴らだ)


 確かにいた。この三日間、シアーニャと二人して朝と夕にパンを差し入れた。ハロルド様が言うには、町の物乞いはほぼ斥候かその下請けと見て間違い無いらしい。いつも同じ場所にいても、そして時折場所を移動しても、更には不意にいなくなっても、誰も怪しまない。もし、本物の物乞いだった場合は、誰の依頼でも名前も聞かずに受けるので、依頼主が掴みにくいそうだ。


 しかしだ。襲撃と言っても、実はナオネント公が派遣した護衛がいる。宿の玄関正面には二名、一階に二名、二階に二名だ。この六名の騎士がプライモルディアの王女ミアーナの護衛を務めている。六名の騎士は、昼間は周囲に存在を誇示するかのように玄関前にいた。国境だけに他にも人数が配置されているのは明白だ。騎士が護衛していると分っているのに、襲撃なんて簡単に出来るものでは無い。


(それがおるのよ。しかも、誘拐専門じゃ)


 傭兵らしい。人数を掛けて要人を襲撃、誘拐し、身代金を貰うのを生業としている物騒な連中だそうな。


(自分で計画してやる場合もあれば、誰かに雇われてやる場合もある。物騒極まりない連中じゃ。白い島では目立たんが、大陸では良くある話だ)


 ヘンリー一行の推測では、ターゲットは私で、誘拐目的ではないか、との事。そう言えば、テレジア様が誘拐されかかっている。あれは雇われてやったのでは無く、報奨金と捕まえた後で引き渡す予定だった西リーベル軍内での良い地位を貰おうと画策した事が分っている。


(で、今回の黒幕は分らないわけですね)

(うむ。おるかおらんかも分からん)


 到着して以来夜ごと探索した結果、どうやら狙われているらしい、とまでしか分からなかった様だ。実質二晩しかなかった。無理だろう。


(元英雄と今の英雄のお二人がお調べになって分らなかったのであれば、致し方ありませんね)


 シアーニャだ。ハーミット様の正体がヒューズ様である事を知っていた。

 私の驚きが伝わった様で、ニコリとした。


(メアリーに聞いたのよ。現役の英雄が護衛につくはずだって。ヒューズ様以外には考えられなかったもの。でも、ご安心ください。この事は誰にも言いません。父にも黙っておきますから)


 ヒューズ様は、ハーミット様の顔のままで、人差し指を口に当てて微笑んだ。メアリーがばらしたのは、怒っていない様だ。次にこういう機会があったら、名前と顔と声が変わるのかも知れないな。


(お二人で分からなかったのであれば、私達の番ね。ジャンヌ、最強の斥候二人の力を借りましょうよ)

(そうね。それがいいわ)


 最強の斥候とは決まっている。私にとってはフィオナで、シアーニャにとっては湿地の巫女だ。基本、フィオナは魔王関連でしか遠征には参加しない。普段は国境の女王の下で修業を積んでいる。今回は特別にエレノア様が女王と話を付けてきてくれた。女王が言うには、相手が魔王以外の魔族を含む魔物や精霊であれば遠征不可だが、人間の場合は相手によっては良いらしい。今回は、宗教の違う排他主義者が出て来る可能性があった。つまり、相手は人間になる。何故、魔族が駄目で人間なら良いのかは分からない。


 呼び出すには声を掛けないといけないので、口元を両手で覆って襟元の水晶に話かけた。するっとフィオナが出て来た。人差し指を口に当てると、そのまま合体してくれた。湿地の巫女も同様だ。ただし、二人共手だけ出して、湿地の巫女は私に、フィオナはシアーニャに触れている。こうすれば、四人で意思疎通が出来る。ハロルド様は除け者だが、まあ我慢して貰おう。


 そのハロルド様は怪訝な顔をしている。ああ、見えないのか。




(今の仕草はなんじゃ?)

(仲間の幽霊を呼び出しました。見えませんか?)


 湿地の巫女がミアーナの胸から顔を出してハロルド様を見ている。何の反応も無いので、身をせり出して目の前に顔を突き出した。


(幽霊じゃと?)

(はい。目の前にいます)


 フーム。仕方無いな。私の指に付けている金の指輪を湿地の巫女にはめる事にした。メアリーに貰った幽霊がハッキリ見えるようになる指輪だ。無論、フィオナの物だ。この指輪は魔道具になるので、水晶に入る時は指輪を外している。なので、遠征に参加する時は、私がつけている。出て来た時にフィオナに付けて貰うのだ。


(驚かないで下さいね)


 湿地の巫女も指輪の事を知っているので、右手を差しだしてきた。普段から見えている私には全然変化が無いが、ハロルド様にも見えるようになるだろう。仲良くなれば指輪は要らないのだが、時間が無い。


(!)


 目の前に出現した格好になったせいか、ぐいんっとのけ反った。目をまん丸にしている。


(うふふ、初めまして)

(は、初めまして。レグネンテスより参ったハロルドと申します)


 何せ巫女だ。差し出された手を恐る恐る取ると、指輪にくちづけした。湿地の巫女は、キチンと触れるように配慮したな。一回くらいスカしても良かったのにな。湿地の巫女はハーミット様とも初見だから、同様に挨拶をした。


 次いで、フィオナの番だ。湿地の巫女はシアーニャに合体して貰い、フィオナに指輪をはめた。


(フィオナはご存じでしたよね)

(初見じゃ。何故儂が知っとるんじゃ)


 ああ、最初から説明しないといけないのか。


 こうだこうだと説明する。


(フィオナは、魔王討伐部隊にも参加したんですよ。ちゃんと勲章も貰ってます)

(あの時も、今の様にくっついておったのか?)

(いえ、普段は石とかに憑ついてます。今はこの水晶ですね。ヘンリー様やエレノア様は、現役の頃から知っていた様ですよ。今は、故あって私の守護霊をやってくれています。ハロルド様はお二人から聞いていませんでしたか?)

(幽霊の知り合いなんぞ、聞いた事もないわ。いや、湿地の巫女は聞いたな。確かシアーニャ様の守護霊だったか)

(あら? 私の事をご存じなのね。嬉しいわ)

(改めて、よろしくお願いする)

(ええ、よろしくね)


 フィオナの方は、ハーミット様とは無論知り合いなのだが、ハロルド様はフィオナが魔王討伐部隊に参加した事も知らなかった。老夫婦が黙っていたに違いない。ああ、プライス様もだな。


(あの者達の性の悪さよ……)


 愚痴っているが、まあいいじゃ無いか。フィオナは基本、魔王関連でしか参加しないのだ。今回は、エレノア様の声掛かりで、特別に参加して貰った。それだけ、危ないと思っていたのだろう。無論、この事をヘンリー一行は知っているし、シアーニャ、ハリス様やハーミット様も知っている。湿地の巫女についても同様だ。つまり、ハロルド様だけが今回も除け者だ。


(全くもって、あの者達の性の悪さと言ったら……)


 まあ、敵を欺くには味方からと言うし、後で一杯奢って貰うしか無いな。




(なんかあったの?)


 湿地の巫女は何故か嬉しそうだ。

 これこれと説明する。


(ふーん。誘拐ねえ。性質が悪いわね)

(左様、こうして様子を観つつ、躱すのが良かろうと思っております)


 ハロルド様は、お仲間以外の神職……特に女性には人が変わった様に紳士的な口調になる。


(で、私達が偵察すれば良いのね)

(よろしくお願い出来ますかな)

(いいわよ)


 これで、確定した。



 簡単に打ち合わせをした後、フィオナと湿地の巫女が出発した。町自体は中の原より狭いので大丈夫だろう。ただし、道に迷ってはいけないので、町から出ない事を条件にした。

 二人が消えると同時にハーミット様も姿を消した。


 幽霊二人が向かった先は、見張っている物乞いの所だ。ハロルド様的には、まずは黒幕を確認したいらしい。そろそろ、ハリス様が私達の部屋の灯りを消す頃だ。消えたら何か動きがあるだろう。




 予想通り物乞いが動いた。夜目の効くハロルド様が教えてくれた。動いたのは、裏口を見張っている物乞いらしい。大胆にも裏口に近づいて来て、傍らに置いてあった重そうな樽を三つ扉の前に積み上げて中から開かない様にした後、どこかに行ったそうな。玄関の方は、居座ったままだ。シアーニャと私は、物乞いがいる事自体見えなかったので、何もせずに裏口側の屋根に寝転がって星空を眺めていた。


(黒幕の所に行くんですか?)

(いや、そうでは無いな。自国でやるなら兎も角も、今回はセルトーニュもナオネントも国としては絡んでおらんじゃろう。こういった場合は、地元の顔役の仕切りになるから、そやつらに連絡するはずじゃ)

(地元の顔役って事は、この町の人ですよね? 傭兵がやる誘拐なんかに協力なんてするんですか?)

(ああ、金さえ渡せば何でもする。どうせ、物乞いは依頼主や目的は知らされとらんしな。単に、ジャンヌを見張るよう頼まれておるだけよ)


 なるほどね。仮に見張りを捕まえてもバレないわけだ。


(では、顔役は知っているのでしょうか?)


 今度はシアーニャが聞いた。


(恐らくはな。単に見張るだけでは金にならんからな。例えば他国の傭兵団がジャンヌを攫うとすれば、越境を手引きする者や拠点になる場所、食い物の提供や宿への道案内、色々と金になる仕事が増えるじゃろ?)


 増えるも何も、全部犯罪じゃないか。


(どの国にも、そう言った連中はいるぞ。ああ、セルトリアはちと違うな)

(セルトリアは、他の国と比べてどう違うんですか?)

(あの国は、今の国王と王弟が裏社会を完全に掌握しとるからな。顔役は皆国王の舎弟だ。多少の路上犯罪に噛んでおっても目を瞑っとる様だし、大きな土木工事は大体顔役に仕切らせて儲けさせとる。だが、その代わりに他国の非合法の連中には徹底的に敵対させとるな。言うなれば裏社会の自警団じゃ)


 セルトリアは、他国の斥候が活動しにくい国らしい。規格外だけの事はある。まあ、猟師……つまり斥候が作った国だから、国王様自身がセルトリアの顔役なんだろうな。




 セルトリアの内情は兎も角も、不穏な輩に目を付けられた事は確からしい。今の所、宿を砦に迎え撃つ方針らしいが、どこかに逃げた方が良いのでは無いか?

 シアーニャを見ると、静かに考えている。慎重なシアーニャの事だ。きっと私と同じ考えに違いない。


(ハロルド様、ここにじっとしているのもアレなので、三人が帰って来たら移動しませんか?)


 例えば教会だ。幾ら何でも教会を襲撃したりはしないだろう。


(何を言うか、連中にとっては異教徒の教会だぞ。何の遠慮もするものか。大体だな、大陸にあるとある町の大司教なんざ、一度同じ宗教の傭兵に誘拐されとる。教会がどえらい額の身代金をふんだくられとるんだぞ。手加減なんかされるものか)

(は、背教者じゃないですか)


 なんて事だ、我ながら良く声を出さなかったものだ。


(ああ、背教者じゃから破門になった)

(当然です)

(しかし、本人は平気じゃ。余計言う事を聞かんようになって手が付けられんようになったらしいぞ)


 そこまで徹底されるとどうしようもないな。不信心とかいうレベルの話では無くなってしまう。一般人扱いするほうが間違いだ。


(シアーニャ様は、どの様なお考えですかな?)

(いっその事、こちらから打って出ましょう)

「はあ?」


 いかん。思わず声を出してしまった。




 ハロルド様に口と頭を押さえつけられ、身を低くした。と言うか、させられた。

 暫し、息を殺して様子を伺っていたが、裏口の物乞いがいなくなった分大丈夫だったようだ。


(す、すみません)

(まあ、良いわ。儂も声を上げそうになったしな)


 そりゃあ、そうだろう。シアーニャは、一体何を言い出したのか?


(シアーニャ様、ヘンリー一行の真似は感心しませんな)


 全くその通りだ。


(冗談ではありません。彼我の戦力を考えた上での発言です)


 戦力と言っても、幽霊二体に、ヘンリー様御一行に、後は神官だ。相手は何人いるか分からない。


(幽霊二名に、元英雄が三人、現役の英雄が一人いらっしゃいます。戦力的には、まず、白銀の武器を持つ戦士が三名です。エドワードだってロバーツ様に引けは取りませんよ。それに、白銀の武器を持つ斥候が三名、超上級魔法使いが二名、上級魔法使いが二名です。それに幽霊二人が加わります)


 シアーニャが言うには、エレノア様がいる以上、相手の属性魔法は完全に抑え込める。一方こちらは幽霊の術法に加えて、ウィルソンさんが中級並みの属性魔法を使う。私が中級並みのライトの壁を使えば矢も通さない。上級以上の神聖魔法使いが三人もいるから回復も出来る。


 ふむ、とハロルド様と目を合わせた。


(相手は魔法が使えない鉄の装備の傭兵です。百人いようが二百人いようが、必ず勝てます。ここに留まって騒ぎになれば、場合によっては開戦のきっかけになりかねません。敵は人気の無い所に潜んでいるでしょう。先手を打ち、闇夜に乗じて襲撃しましょう)

(ははっ!)


 王女の威に打たれた様にハロルド様が頭を垂れた時点で、積極攻勢が決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ