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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第ニ章

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Backyard of 野良神官 その2

本編前日譚その2です。

 自分の部屋がある三階から一階へ行くために階段を降りる。


 ジェニファー先生に呼び出されたからだ。

 呼び出されたと言っても、別に怒られるようなことはしていない。

 孤児院卒業を控えて、その後のことについて、お話をするからだ。

 もっとも、今までに卒業した先輩方から大体のことを聞いているので、内容は把握している。先生方もそのことを知っているのだが、立場上説明しなければならないのだろう。


 ジェニファー先生の部屋は、階段のすぐ近くにある。深夜、孤児院生が階段を降りてこようとしたら、いつの間にか階下に立っているらしい。どんなに足音を消しても見つかる。卒業するまでに一度でも良いから突破したいと無数の挑戦者が挑んでいるが、未だかつて成し遂げた者はいない。

 ジェニファーの壁と呼ばれて、ある意味尊敬を集めていた。


 部屋に入ると、いつもの様に笑顔で迎えてくれた。

 先生達の部屋の大きさは私達と変わらない。一人で使っているだけだ。

 四角い石を積み上げた壁。南には窓がある。

 ベッドと机と椅子と物入れと。調度も変わらない。

 机の上には肖像画が二つあり、その内の一つには綺麗な服を着た三人の子供が描かれている。

 男の子二人と、女の子一人だ。

 子供の頃の今の国王様、姉君と弟君だそうだ。

 王都にいた時に記念に買ったらしい。


「さて、ジャンヌ。あなたも間もなく卒業を控えているのだから、その後のことについて、お話をしておかなければなりませんわ」


 孤児院には規則があり、十五歳になれば出ていかなければならない。

 半年間は敷地内居ても良い。食堂も浴室も無い別の棟の部屋に移って、出ていく日までの準備をする。

 その棟に移った者は門限や消灯が緩くなる、しかし、衣食にかかるお金は自分で稼がなくてはならないし、お風呂も町の公共浴場で入浴しなければいけない。


「教えて貰いたいのだけども、卒業したらどうする積りなの?」


 いきなり、そっちに話がきたか。

 今まで、先に卒業する予定のベアトリクスやベイオウルフの二人から、それとなく伝えて貰ってはいた。

 しかし、内容が内容なだけに、先生方に反対されるかもしれない。


 顔色を伺いながら、おずおずと切り出した。


「仲間たちと一緒に魔物退治屋をやろうかと思っています」


 叱られるのかとおもったが、意外にもニコニコしている。


「仲間というのは、一七五の会ね?」

「そうです」

「魔物退治と言っても、どこでやるの?」


 ベイオウルフに説明されたことを伝える。


「ネズミ退治だけでやっていけるの?」


 確かに、皮算用でもネズミ退治だけでは食べるのが精一杯だ。

 しかし、それならば、国教教会所属の神官と何ら変わりはない。

 私は、ネズミ退治で実績と信頼を積んで、それ以外の場所でも魔物退治をしながら討伐報酬を稼ぐつもりでいると、懸命に伝えた。


「お金を稼いでどうするの?」


 首を傾げられた。それはそうだろう。

 私の仕事は神官見習い、いわゆる侍祭というやつだ。

 この間、神官になるための資格試験に合格した。実務経験としての神官補佐業務も十分に積んできた私は、成人すれば神官になることが出来る。


 神官を志す者は普通なら国教の神官になる。所属は教会になり、衣食住の全ては所属する教会が面倒を見てくれる。

 もちろん、清貧を信条とする神官職である以上、贅沢など考えてはいけない。

 お金を稼ぐために神官になる者はいない。


 止むを得まい。


 仲間と交わした約束について話すことにした。

 今度こそ反対されるかと思ったがそうでもなかった。


「素晴らしい考えですわ」


 褒められた。


「でも、難しいかもしれないわ」


 分かってはいる。


「他の七人は、それぞれ仕事に就くのでしょう?」


 心配そうだ。

 収入の目途が立っていないのは、私だけだったりする。


 孤児院の子達はよく働く。教会の敷地には、菜園があって野菜は自給自足している。家畜も飼っているからミルクや卵、鶏肉くらいは十分手に入った。


 社会見学と称して色々な職場へ出かけて行った。気に入った職種を早めに見つけ、十三歳になったら見習いとしての手当てが出る程度に働くのだ。半日勉強し半日見習い仕事をする。成人したら見習い先に就職するのは織り込み済みだ。

 院長先生が考え出した方法だ。おかげで、この町の孤児院を出た子がいきなり路頭に迷うことはほぼない。


 ジェニファー先生は少し考えていたが、得心したようだ。


「つまり、教会所属の神官になったらお金を稼げないと言う訳ね」

「そうなんです」


 教会所属の神官になったら、生活が保障される代わりに教会に籠りきりになる。

 もちろん、国教の神官には教会から月々の手当が出る。

 もっとも、神官職の手当ては安いうえに、貰った手当の大半を教会や孤児院に喜捨するから、個人の手元にはほとんど残らない。かといって、私だけが喜捨せずにお金を貯め込むのは少々はばかりがある。


「分かりました。良いでしょう。頑張りなさい」

「ありがとうございます」


 良かった。認めて貰えた。

 つまり、私達の夢は実現可能って事だ。早速、皆に言ってあげよう。


「あ、そうそう、院長先生には、黙っておいた方が良いですわ」


 急にジェニファー先生が真面目な顔になった。


「あなた達の夢を院長先生が知ったら、きっと自分も参加させろと言い出しますわ。そうなったら、話が大事になってしまうでしょ」


 確かにその通りだ。院長先生が本気になったら国全体を巻き込みかねない。


「だからね、院長先生のお耳に入れないためにも、口外しない方が良いですわ。所属神官にならない理由は……そうですね、世の中を勉強したいとでも言っておけば良いですわ」


 人差し指を一本立てて、口元に持ってくる。


 目が笑っていない。誰にも言わない方が良いのだな。

 理由は良く分からないが、かと言って言いふらすようなものでもない。

 ここは素直に、皆にも伝えておきますと言っておく。


「ところで、ジャンヌから預かったお金があるのだけど」


 その通りだ。私は十歳で待祭になった。侍祭にも手当が出る。先生達が喜捨しているので私もそうしようとしたが、院長先生に止められた。そこまで考えなくても良いのだそうだ。なので、そのほとんどを貯金した。塵も積もるもので金貨十枚にもなった。


「魔物退治でお金を稼ぐことが出来なかったら、そのお金で生活しなければならないかもしれませんね。なので、お返しします。もし、そのお金が全部無くなったら、私の所に言ってきなさい。院長先生にお願いして、教会所属の手続きを取って貰いますわ」


 なるほど、失敗前提か。

 しかし、路頭に迷う前に救済してくれるのは優しさなのだろう。


「だから後のことは心配せずに、思い切って頑張りなさい。私はあなたを応援します」


 いいですね、とニコニコ笑っている。


 泣きそうになった。


 我ながらわがままを言っていると思う。

 神官を志すために待祭になったのは自分の意思だ。その後、神官になるための教育や手間暇を先生達は随分と掛けてくれた。全ては教会に所属し、女神様に帰依し、布教を行うためだ。


 それなのに、普通なら教会所属にならないと言っているのを反対するどころか、失敗した場合の逃げ道まで考えたうえで、応援してくれる。


 有難うございます、そう言うのが精一杯だった。


 俯いたままで、退室しようとすると、もう一つあると言う。


「何でしょうか」

「当面の目標ってご存じですね」


 何とかわかる。第一段階といったところだろう。


「当面の目標として。八人で住める家を手に入れることをお勧めしますわ」

「家ですか?」

「そう、古くても借り物でも良いから、八人で暮らせる家です。理由は実現した時に分かりますわ」

「分かりました。皆に言っておきます」

「はい。では退室してよろしいですわ」

「ありがとうございました」


 家を手に入れる……。

 理由は、実現すれば分かると言っていた……。


 とりあえず、皆に伝えておかないといけないな。


 私はジェニファー先生の部屋を出ると、袖の先で顔をゴシゴシこすりながら、階段を上った

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