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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第ニ章

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聖なる光

 私は院長先生と一緒に臨時病院となった大広間の奥の部屋にいる。院長先生があえて前線に出ないのは、何か理由があるのだろう。


 しかし流石だ。

 使っている魔法は私でも使えるヒールなのだが、もやもやとした白い光が怪我人の全身を包んだかと思ったら、体中のあちこちの傷が同時にふさがって出血が止まった。私がやると手のひらサイズのもやもやで、治療できる範囲も手のひらサイズだ。


「司教様、ありがとうございました! 前線に戻ります」


 全身の傷がふさがったおかげで痛みが大幅に軽減したのだろう、元に戻ったと思ったのかやにわに立ち上がる。

 が、案の定ふらふらした。


「こら! あんたは血を流しすぎたんだから急な動きは命取りよ。前線に出ても足手まといになるだけだから、臨時の衛生兵になって負傷した人をここまで運んで来なさい!」


 叱りながら錫杖の先っぽで太ももを突っついた。ツボに入ったのか悶絶している。

 院長先生、相手は怪我人です。もう少し優しく!


 身の程を知ったのか、振り上げられた錫杖に恐れをなしたのか。大人しくなって院長先生に突っつかれた方の足をやや引きずりながら、マックバーンさん達の方へ歩いていった。




 少したって、その元負傷者が一人の衛兵を背負ってきた。頭から血を流している。恐らく気を失っているのだろう。息はあるが動かない。


「司教様のおっしゃりとおりに後送を担当します。どうか、こいつの様子も診てやって下さい」


 すっかり従順になっている。


 院長先生が頷くのを見て取ると、負傷者を下ろして今度は走っていった。




 負傷者は血を流してはいるが、頭の骨とかは大丈夫そうだ。怪我の場所も頭だけらしい。

 院長先生が再びヒールを唱える。今度は色の濃いモヤモヤだ。大きさも手のひらサイズで、怪我にかざした手のひらに収束している感じだ。使い分けている。

 モヤモヤが治まった頃には、やはり傷口がふさがっていて出血も止まった。

 水をつけたタオルで血を拭う。気絶しているせいかビクとも動かないが、息が落ち着いてきたので大丈夫だろう。


 このまま寝かせておけというので、お母さんゴブリンに任せることにした。




 その後も、石が当たっただの、矢が刺さっただの、槍が刺さっただのと負傷者が次々に運ばれて来る。

 比較的軽い場合は私が、そうではない場合は院長先生が、ヒールを使い回復させていった。

 後送担当の太ももを突っつかれた臨時衛生兵は、とにかく怪我をしたものを順繰りに引っ張ってくる。程度が軽いうちに回復させて、直ぐに前線に復帰させた。そのほうが戦える人数を減らさなくて良い。なにせ院長先生がいる。回転が速い。


 遂に一匹のゴブリンまでやってきた。足を引きずっている。血が出ていないが足が変な角度に曲がっている。折れているかもしれない。


 魔物にヒールは使えない。かと言って薬草では回復しない。どうするのか?

 怪我したところを触っているなと思っていたら、いきなり足を両手で持って捻り上げた。


「ぎえーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 激痛に耐えかねて口から泡を吹いて気絶してしまった。

 ゴブリン達は皆のけぞって院長先生を見ている。

 院長先生は転がっていた木の棒を足首に添えて、手拭でぐるぐる巻きにした。しばらくはそのままにしなければならないのだろうが、恐らく大丈夫なのだろう。

 お母さんたちが院長先生に頭を下げていたので伝わってはいるようだ。もっとも子供達はかなり怯えているが。




 そんな風に野戦病院としての務めを果たしていると、マックバーンさんがやってきた。


「カトリーヌ司教。最後の局面になりました。お願いします」


 神妙な顔付きをしている。

 マックバーンさんは、ちらとゴブリン達を見ると何も言わずにそのまま入り口の方へ戻っていった。


「ジャンヌ。ついて来なさい」


 院長先生は立ち上がると、錫杖を手にマックバーンさんの後を追って広間の方に歩いて行く。

 後を追って振り返ると、お母さん達や子供達が不安そうに部屋の入り口に集まっている。


「大丈夫だよ」


 ニッコリ笑ったが、笑い返してくれる子供はいなかった。




 大広間には、マルセロさんとエミリー先生を除く皆が集まっていた。

 治療途中の負傷者を除き、人間が十四人、ゴブリンが九匹、狼が七匹だ。

 ロビンソンさんを中心に、狼はその両横に、人間が壁際に一塊に、そして長老を中心としたゴブリンは私達の前にやや距離を置いて立った。


 恐らくパウルさんが土の魔法を使ったのだろう。大広間の入り口は、お腹の高さほどの土の壁が出来ていて、さらに私達の前にも同じ高さの壁が出来ている。最後の防壁だ。


 ロビンソンさんが長老に向かって何か指示を出した。

 ベイオウルフに聞くと、降伏を申し入れる交渉をするそうだ。

 聞く耳を疑ったが、作戦だと言う。どうやら敵のボスを引きずり出すために騙すらしい。幸いなことにゴブリンがいる。通訳には事欠かない。




 どうなるのかと思って見ていたら、長老が通路に向かって何やら叫んだ。

 通路の方からも叫び声が聞こえてきた。

 その声を聞いた長老がロビンソンさんに向かって何かを言っている。

 通路の奥を指差した後で、指で二の数字を作り、最後に自分の足元を指さした。

 ロビンソンさんが頷くと、長老は再び通路に向かって叫び声を上げた。




 様子を見ていると、二匹の魔物がやってきた。槍を持った大柄な豚顔と、角を生やした毛むくじゃらが一匹だ。

 長老が何かを言うと、魔物はゲタゲタと笑ってゆっくりと首を振った。交渉は決裂したのか…………。


「ホーリー!」


 院長先生がつかつかと前に進み出て魔法を唱えると、突き出した錫杖の先端から放たれた白い光が毛むくじゃらの胸を貫いた。ピクリとも動かない。もう一匹の豚顔は驚愕している。


 畳みかけるように長老が何かを叫ぶと、豚顔は慌てて仲間の方へ逃げて行った。

 伝説の武器じゃあるまいし、手に持った道具の先から魔法を放つなんて聞いたことが無い。魔物でなくとも驚くぞ。




 ベイオウルフに聞くと、毛むくじゃらはオーガで魔法防御に長けているらしい。パウルさんの魔法の威力を半分以下にしてしまったのも毛むくじゃらだ。それを初級一発でやっつけてしまった。


 人間側はボスを連れて来なければ徹底抗戦すると脅しを掛けたのだが、実に効果的な院長先生の魔法だったわけだ。生半可な魔法防御なんか院長先生の敵ではなかった。


 しかし、錫杖を通したホーリーであれだけの力があるなんて、全くもって私と院長先生のレベルの差は埋めがたい。私はネズミ一匹がやっとなのに。




 脅しの効果はあったようで、ぞろぞろとオーク達が入って来た。

 ざっとみたところ、四十匹程度か。

 仮に全てのオークが集まったとしたら、今までの戦闘で二十匹以上を倒していた事になる。


 最後に入ってきた奴は、鉄製の楯と槍を持ち鎧を着ている。おまけに羽飾りの付いた兜まで被っている。

 ボスに違いない。味方の後ろに隠れている。情けない奴だ。


 ボスが何かを叫ぶと、長老が院長先生の錫杖を指さし、次いでボスを指さした。

 オーガを一撃で倒した魔法の錫杖を渡せとでも言っているのか。魔法が錫杖から出たと思っているらしい。


 その後もやり取りがあり、結局院長先生が錫杖をオーク共に向かって投げて渡した。

 交渉成立か?


 投げつけられたオーク達は悲鳴を上げて逃げ惑っている。自分達が渡せと言ったくせに情けない奴らだ。自分より弱い者を相手にした時にしか、いきがれないのだろう


 なにせ白銀製の錫杖だ。魔物は手を出せない。

 しかし、ボスは小手までつけていた。鋼の小手で掴むのであれば白銀の破魔の効果は魔物の身体にも影響しない。上手く使いこなせば、ボスの他の魔物へ与える恐怖は計り知れない。その証拠に、ボスが恐る恐る小手で掴んだ錫杖を振り回すと、他のオーク達は恐れて後ずさりしていた。

 これでボスも安心したのか、ニヤニヤ笑うと院長先生に向かって歩き出した。


「ホーリー・オーバーフロー!」


 そこに、両手を頭の上に突き出した院長先生のホーリーの上級魔法が炸裂した。

 なんと、上級魔法を無詠唱で唱えた。両手だから目一杯だ。


 両手から放たれた聖なる光が大広間全体に広がる。

 その場にいる全ての者の身体を貫いて隅々にまで及んだ。これほどの大技になると、神聖魔法なのに体を何かに貫かれるような感覚がある。


 しかし、これでは…………ゴブリン達が…………。




 光がおさまった後、オーク達は皆なぎ倒されたように倒れている。全滅だ。

 人間は無論平気だ。狼達はびっくりして腰が抜けたのか、泡を食って立ち上がれないでいる。


 しかし、ゴブリン達が皆倒れていた。

 後ろを振り返ると、お母さん達も子供達も倒れている。

 ドサッと音がした方を見ると、ベアトリクスが尻もちをついて真っ青な顔で院長先生を見ていた。院長先生は錫杖を取り返してゴブリンの死体を検分している。


 ……まさか、院長先生が騙し討ちなんて……ゴブリン達が全滅……。


「裏切ったな!」


 ロビンソンさんが大声で叫んでいる……。

 その声を聞きながら、私の意識は遠くなった…………。 

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― 新着の感想 ―
[一言] 一個前のお話と内容が同じです。
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