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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第ニ章

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猟師の父娘

 正直言って今回は一匹が限界だった。


 パウルさんが言うには、逃げたイノシシの後を追うと残り全部を相手にしないといけない、とのことなので諦めた。七匹全部なんてとても戦えない。


 まあ、時間も無いし。報酬が安いとはいえ肉や牙を売ったら銀貨十枚にはなるのだから、これ以上の深追いは無用……よね?


 ベアトリクスと二人で懸命に言い繕っていたら、パウルさんも撤収に同意してくれた。


 イノシシは、パウルさんが血抜きをした後、ベアトリクスが氷の魔法をかけて軽く凍らた。

 マルセロさんに貰ったテレポートの巻物でマルセロ商会の倉庫に送り届けたら、森の幸亭のご主人に連絡して引き取ってもらう手はずになっている。




「で、結局一匹か」


 衛兵隊の詰所でハンスさんに証拠の牙一対を見せて成果を主張する。

 ベアトリクスがかいつまんで事の次第を説明した。


「つまり、パウルが足止めしている間に、お前達三人で倒したわけだな。やるじゃないか」


 褒められた。

 パウルさんがいなければ退治出来なかったし、七匹取り逃がした。あまり自慢できる結果ではないが、褒められるとやっぱり嬉しい。ベアトリクスとベイオウルフの三人で、顔を見合わせながら口元をニマニマとさせてしまう。


「問題は残りの七匹だが、今年は被害の通報が出てないから急がなくてもいいぞ。無理せずやってくれ」


 既に麦の収穫は大半が無事終わったらしい。被害が出ていないということは、今年はイノシシが食べるものが森の中で足りているのだろう。

 私達の実力ではまとめて倒すのは難しいので、ジワジワと減らしていかなければならない。もちろん、パウルさんが本当の本気を出せば、まとめて倒せるのかもしれないが、ありがたい事に私達の技術指導の立場に徹してくれている。


 ところで、とハンスさんが話題を変えた。




「蜘蛛は多かったか?」


 一応、蜘蛛の巣を見つけた時に数だけは地図の余白に記録しておいた。


「特に増えたようには思えなかったぞ」


 パウルさんが答えてくれる。流石は猟師だ。長い事現役から退いていたとはいえ、森のことはしっかりと覚えている。


「なんかあるの?」

「いや、増えて無ければいいんだ」

「どうして気にするの」


 ベアトリクスが食いついた。こうなると納得がいくまで終わらないだろう。

 やれやれと、ハンスさんがため息をつきながらも、説明してくれた。




 魔物にはネズミやイノシシといった魔獣型の他にも色々あって、今回問題になっているのは虫型のクモらしい。そのクモの魔物が出現したらしいのだ。

 らしい、と言うのは、ハッキリしていないのだそうだ。


 パウルさんの話では、虫型の魔物は人間とは関りがない場所に棲んでいるのだが、ときたま人の目に触れるところに出没するらしい。捕食対象に家畜や人間も含まれるので要注意だ。前触れとして、周辺で同種の普通の虫が増えるのだが、それはつまり同じ生存圏のライバルとして追われるからだ。

 何せ沢山卵を産む。一遍に孵化して周囲に散らばった後、鳥とか他の生き物に食べられて徐々に数を減らしながら大きくなる。共食いや他の魔獣を含めた縄張り争いに勝ったものだけが巨大な巣をつくる。


 最近、どうも森の蜘蛛が増えたとの情報が中の原地区の猟師から寄せられているらしく、この辺りでも増えているなら危険なので、衛兵隊としては早めに手を打ちたいそうだ。


「どこらへんで増えているんだ?」


 パウルさんが聞くと、東の方らしい、と答えが返ってきた。

 東と言うと、レヴァントが墓場から蘇ってきた村が幾つかあったはずだ。もう既に浄化されてはいるが、動く死体の次はクモか。つくづく運が無いな。


「ま、今のところは不確かな情報だ。なんとも言えんな」


 気に掛けておくよ、とパウルさんが言い、ベアトリクスも納得したようで、この場ではこれ以上この話は進まなかった。




 晩御飯は森の幸亭でイノシシ肉の串焼きだ。

 魔獣の肉は普通の動物の肉よりも美味しい。ただ、値段が高いので普段は食べられない。

 森の幸亭では、魔物を獲った者はそれを食材にした最初の一皿が半額になる。猟師仲間との約束らしく、一皿でお腹いっぱいになる私達にとっては至極都合が良かった。

 

 無事に一匹退治してきた私達に他のお客さんが祝杯をあげてくれた。

 なんでも、イノシシを退治して初めて猟師として一人前として認めて貰えるそうだ。

 

 そう言えば衛兵隊が同じような事を言っていた気がするな。新米の目標になっているようだが、それはイノシシにとって名誉なことなのだろうか?




 乾杯してくれた人の中に見知った顔がいる。町役場の受付のハンナさんだ。

 パウルさんと同じような毛皮を羽織ったオッサンと一緒に食事をしている。奇妙な取り合わせだ、と思っていたらパウルさんの知り合いらしい。


「やあ、アンガス。来ていたのか」

「パウルこそ何年ぶりだ? 話には聞いていたが、本当に猟師に復帰したんだな」

「技術顧問と言え。実際に退治をするのはこの三人だ。ああ、ハンナはその辺の事情は知っているな」

「こんばんは。パウルさん。一七五の会の皆さん」


 ハンナさんが受付嬢らしく上品な仕草で挨拶をする。私達にとってはお馴染みさんで、アドルフさんに会いに行った時、取り次いでくれるだけでなく、いつも飲み物やお菓子を出してくれる。

 美人と言うほどではないが、可愛らしい感じの顔立ちのうえに誰に対しても愛想良く接してくれる。町の男性諸氏の間で評判の娘だ。


 挨拶を返すと、アンガスと呼ばれたオッサンが目を丸くしている。


「聞いたか、パウル。皆さん、ときたもんだ! 随分と上品になったじゃないか」

「ああ、お前の娘とは思えんな」


 娘!


 今度はこちらが目をまるくした。


「一七五の会の皆さんにはご紹介がまだでしたね。遅ればせながら、私の父のアンガスです。二つ隣の村で猟師を生業としております」


 挨拶をしたのだが、アンガスさんは目を丸くしたままだ。


「聞いたかパウル」


 娘さんを指さしている。


「やめてよ、父ちゃん。町役場じゃこれくらいの言葉遣いは当たり前なんだよう」


 慌てたように、バタバタと手を振っている。

 あまり上品ではない。その辺の町娘だ。


「おお、戻ってきたな。やっぱり俺の娘だった」


 ハンナさんは受付嬢なので言葉遣いが上品で丁寧だ。普段とのあまりの違いにびっくりしたようだ。父親たるもの、たまには娘の働きぶりを見ておいた方が良いのかも知れない。


「いい加減にしておけ。上品な方が良いに決まっている。いつまでも田舎娘扱いしていると、嫁の貰い手が減っても知らんぞ」

「もう、パウルさんまで。いい加減にして下さい」


 怒ったように言うハンナさんを尻目に、オッサン達は大笑いしている。要するにからかっていたのだろう。難儀なオッサン達だ。




「ところで、どうしてこの町にいる。もう、報奨金は貰ったのだろう?」

「まあな。俺は町長と一緒に戦ったから結構な額だったぞ」


 アドルフさんと一緒に町の外で戦った人達は金貨一枚を、特に三人の猟師は二枚を報酬に貰ったと聞いた。


「そうなんですよ。私も皆さんも一緒に戦ったのに銀貨一枚ですからね。報酬に文句はありませんが、晩御飯くらい奢って貰っても良いと思いませんか?」


 ハンナさんがニコニコ笑っている。

 それはそうだ。ましてや親子ならなおさらだ、って、戦った? レヴァントと? 受付のお姉さんが?


「どこで戦ってたの?」


 ベアトリクスも意外だったのだろう。早速突っ込んでいる。


「孤児院の裏です。聖水に浸した鏃を弓で射て、レヴァナントを浄化してたんですよ」


 弓で矢を射る仕草をしてウィンクした。


 驚いた。確かに彼女も自警団の一員になるのだろうが、てっきり避難所で子供やお年寄りの面倒を見ていると思っていた。まさか戦闘要員だったとは。


 七体倒しました、と嬉しそうにしている。


「さすがは俺の娘だ」


 毛皮を羽織ったごつい顔のアンガスさんも相好を崩している。

 なるほど、つまるところは猟師の娘ということか。


「アンガスさんは町長を助けたのよね? どんな風に戦ったの?」


 ベアトリクスが聞くと、弓だよ、とアンガスさんは弓で矢を射る仕草をしてウィンクした。

 顔はごついが意外とお茶目だ。


「町長が苦戦してたんでな。銀貨を貼り付けた特製の鏃で追っ払ってやったのよ」


 なんだそれは? 銀貨貼り付けたら魔物が倒せるの?


 聞くと強い魔物に対抗するための猟師の奥の手らしい。銀や白銀の鏃なら効果が高いのだろうが高価なので銀貨で代用するのだそうだ。回収すればまた銀貨として使える。


「イノシシも倒せますか?」


 弓矢を使えるベイオウルフが勢い込んで聞いた。銀貨を貼った鏃で倒せるのであれば、イノシシが沢山いてもなんとかなるかもしれない。


「正確に眉間に当てる腕があれば一射で倒せるな」


 ベイオウルフが慌てて手を振っている。無理みたいだ。練習しとこうね。


「ハンナ。お前が倒した一番の大物はなんだっけ?」


 アンガスさんが娘に話を振る。この感じ、きっと娘の自慢話だ。

 弓矢が得意らしいので、イノシシを倒したのかもしれない。


「クマですね。父に町の北にある湖の向こうまで連れていってもらった時です。でも二射必要でしたね」

「クマ!」


 私達三人は思わず声をあげてしまった。


「そんな、大したことないですよ。たまたま上手くいっただけですから。それに腕利きの猟師なら一射のところを二射かかっていますからね」


 手を振りながら、慌てたように言い繕うハンナさん。


 いや、それ謙遜になってないからね。クマなんてとてもかなわないから、こっちは。


「腕の良い猟師にかかったらクマでもそんなもんだ。討伐報酬が安い理由が分かったか?」


 パウルさんに言われて納得出来た。ベアトリクスがため息をついている。


「討伐報酬で稼ぐなら魔獣は難しいな。もっとえげつないのを狙いな」


 アンガスさんが笑いながら言うと、ハンナさんが、もう、と止めに入る。


「皆さんは魔物退治を始めたばかりですから。魔法も使えるのですし、すぐにクマくらい倒せるようになりますよ」


 クマくらいと言われてしまった。歴然たる差を感じてしまう。


「ちなみに、えげつないのってどういうやつですか?」


 参考までに聞いておく。


「この間町長を襲ったやつなら結構な金になるかもしれないな。追っ払ったら金貨一枚になった」


 いや無理だから。アドルフさんが殺されかけた相手でしょ。無茶苦茶言わないで。


「もう、いいかげんにしてよ。すみません、おわびに今日は父が皆さんに奢りますから。そうそう、何か飲み物があった方がいいですよね。輸入物のワインとか」

「ナイス! さすが人気受付嬢! 町民に受けがいいのも頷けるわね」


 速攻でフォローするベアトリクスと、早速にウェイトレスさんを呼ぶハンナさん。


「弓のアンガスと言われる男も娘には形無しだな」


 口をあんぐりと開けているアンガスさんを見て、パウルさんが笑いながら言った。

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