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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第四部 第十四章

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第八話 ゴーレム

 翌朝、プライモルディア王国軍魔法兵団の駐屯地に行って、お椀の使い方についての説明が行われることになった。元々の予定では、私は不参加だったのだが、遺跡で見つけたパペットの実験をやると言うので見に行く事にした。実験では禁呪を使わずに、石を使ったストーン・ゴーレムを動かすのだそうだ。


 魔法陣は、昨日の午後にエレノア様が解析していて、再現できる所まできたらしい。

 既にプライモルディア軍には雛形があるのだが、実践が狙いだ。使う魔法は上級と中級の組み合わせなのだが、超上級魔法使いがいないと実質発動出来ないらしく、何十年かぶりにゴーレムを動かす事になるのだそうだ。


「本来は、我が国の秘術であって門外不出なのだ。だが、大魔法使いエレノアに知られてしまった以上は隠しておいても仕方が無い。それに現状使えぬ秘術の代わりに飛行術を教えて貰えるのであれば、安いものだ」


 軍権を一手に握っているエドワード王太子様が青白い顔で言う。二日酔いでフラフラしているのだが、手に持った白銀の槍を杖代わりにして頑張っている。視線の先ではエレノア様がウィルソンさんと一緒になって、四人の兵士にお椀の講義をしている。




「エドワード。大丈夫?」


 シアーニャが心配している。彼女にとってエドワード王太子は従弟になる。


「大丈夫だよ。シアーニャ。叔父上から指揮官を授かった王国軍総司令官としては、他国からの来賓のある訓練を、二日酔いなんぞで休んでいるわけにはいかん」

「いつ返上して貰っても良いぞ。代わりに王位を継いで貰うが」


 国王様も大概だ。


「とんでもない」


 今にも吐きそうな顔で首を振る。見ていられないので、目一杯のリフレッシュを掛けてあげた。頭痛は残るが吐き気は収まるだろう。


「申し訳ない。ジャンヌ神官。お陰で大分楽になった」


 相手が粘れる様にゆっくりと飲むデューネとフィオナに勝とうと頑張っていたのだ。立って歩いている方が可笑しい。

 その証拠に、つきあわされたベイオウルフと樽酒のオッサンはお休みだ。王女三人は、野鼠に憑依したキーラと一緒になって王宮の庭園で遊んでいる。


「まさか、水の精霊や幽霊とは思いもしなかった。聞けば、あのロバーツ殿も負けたとか」


 確か、デューネには三連敗中だ。


「つまり、ロバーツ殿は負けた後、二回も挑まれたのか?」


 まあ、そうなる。ただし、三回目は樽酒のオッサン達の応援やハンデ付きだ。


「ハンデ付きで二十人以上の漢を酔い潰した後、子牛の丸焼きを食っていたのか?」


 とても及ばん、と首を振っている。


「上には上がいる。そなたの父も祖父も相当酒が強かったが、二人共あのカトリーヌ様には何度挑んでも勝てなんだ」


 流石は破戒のカトリーヌ。こんな所でも話題になっている。




「そう言えば、ジャンヌ神官は、カトリーヌ様の指導を受けたとか」


 殺伐とした話に嫌気が差したのか、シアーニャが話題を変えてきた。


「はい。孤児院出身ですので」


 そうでしたね、と返してきた。

 シアーニャは、近々孤児対策を担当するらしい。


「マグダレナ様のお話では、その孤児院では孤児の自立を促すような教育をなさっているとか」

「はい。子供の頃から、色々な職種を体験します。気に入った職が見つかれば見習いとして働き、卒業後に職探しをしなくても就職出来る様にしています」

「わが国も農奴を解放した。その様な対応も必要になるであろうな」


 国王様だ。今までは農奴の孤児は大陸へ奴隷として売られていたそうだ。今は皆自由農民だ。身分が解放されても貧しさや待遇が変わらなければ意味が無い。教会とも協力し、国策として孤児院を運営していく予定らしい。


「陛下。それならば、孤児達に読み書きや計算を教えるだけでなく、魔法を覚える様に教育してはいかがでしょうか? セルトリアに教本を譲って貰いましょう。教育方法を工夫して、せめて初級魔法でも良いから覚える子がいれば、身を立てる道も選択しやすいかと」


 シアーニャだ。今回は疫病対策が主になるが、会合では孤児対策も話し合われた。教本の事は、マグダレナ様とハリス様からカドガン様に提案されていた。


「ふむ。シアーニャの思う通りにすれば良い。経費が必要な場合は、皆と図ってからになるが、出来るだけの事をしよう」

「有難うございます」


 シアーニャがこちらを見てニッコリした。




 四人の選抜兵は、高速化も含めて皆飛べるようになった。

 その場で、回復したエドワード王太子様から勲章を授けられ、新しい領地の下賜と近衛兵への異動が伝達された。兵達は皆喜び、改めて王家に忠誠を誓っていた。


 ゴーレムの発動実験も上手く行った。無論、禁呪を使うフレッシュ・ゴーレムでは無く、石を使ったストーン・ゴーレムだ。

 エレノア様が大きな板に描いた魔法陣の上に、幾つもの石を頭と手足のある石の人形の様な積み方で置く。胴体部に開けた穴に、核になる魔石を詰め込む。


 次いで詠唱に入る。木の板の魔法陣と核の魔法陣が光を放ち、ゴーレムがブルブルと震え出す。


「ハーデンド・ストーン! クランプ・ストーン! ストーン・ピラー!」


 中級、中級、上級と立て続けに種類の違う三つの魔法を無詠唱で放った。確かに、超上級魔法使いでなければ出来ない。


「目覚めよ! ストーン・ゴーレム!」


 エレノア様が、発声すると、二つの魔法陣から放たれた光がゴーレムを包み込み、ゴーレムが唸り声の様な音を立てた。


 発動した!

 両手を上げて唸っている。


「待機せよ! 正面十歩の距離に近づく者を排除せよ!」


 ゴーレムは再度唸り声を上げると、両手を下ろし動きを止めた。


「この状態でなら、ずっと放置していても魔法陣が崩れなければ待機しているはずです。指示を出した十歩の距離に近づく者がいれば、攻撃を加えます」


 魔法兵の部隊長さんがエレノア様に説明している。使い方自体は知っている様だ。


「あれの真骨頂は、崖に土で塗りこめたサンド・ゴーレムだ。行軍中の敵が至近距離に近づいたらいきなり側面から襲い掛かるからな」


 それは怖い。襲われる方は堪らんだろう。


「わが国に土の魔法を使う超上級魔法使いがいれば、エレノア様に教えて頂いた姿を隠す飛行術で上空に待機し、行軍中の敵を幾つものゴーレムで一斉に襲う事が出来る。ま、今のところはさながら、空に浮かんだパイ、と言ったところで、使い物にはならないがな」


 国境の街道が、尾根を切り通しただけの崖に囲まれているのはそう言う事だったのだ。有事になったら、義勇軍でも応募すれば良いかも知れない。




 お昼ご飯は、姿を隠した中型お椀での移動になり、意外にも初の飛行体験に大はしゃぎしている王族と一緒になって王都周辺の遊覧飛行をした後で、王宮に帰った。

 昼食は、キーラの分まで用意されていた。お土産用にと、樽に入ったチーズもあった。その分、三人の王女を除く王族と、カドガン様は出席しなかった。


「王女様方のお付きとして来ていらっしゃるのだから、同席されても結構だそうです」


 場を仕切るのは、シアーニャだ。表向き、カドガン様の名代だそうだが、きっと、この場を提供するように提案してくれたのだろう。

 夕べは大精霊の登場にオドオドしていたキーラだったが、野鼠の格好で半日遊んでお腹が空いていたようで、香菜を入れたスープで茹でて真っ赤になった大海老の尻尾を一口食べて、しばし目を瞑って堪能した後は、美味しい、美味しい、と出された物をパクついていた。


「何かさあ、いいのかなあ。私がこんな扱いうけてさ」


 ひとしきり食べて満足したのか、ワインを飲みながらキーラが言う。


「これも契約のうちですよ。ジャンヌ神官と契約を結んだのですから、我が国に滞在中の生活は我が国で保証します」

「うふ。有難う」


 シアーニャが返すと、お腹いっぱいになったキーラがすこぶるつきの笑顔でお礼を言う。 

 ほうっ、と使用人の方がため息をついた後、シアーニャに睨まれ、気まずそうに頭を下げて一歩下がった。流石はメアリー二世だ。




 皿が下げられ、飲み物を頂いていると、エドワード王太子様が入って来た。

 皆で立ち上がる。シアーニャも皆を見て慌てて立ち上がった。

 そのままで良い、と手で制される。本人も座ったので、皆で座った。


「エドワード。どうしたの?」


 シアーニャが聞く。


「いや、皆さんに少し相談があってな」

「相談?」


 一国の王太子の相談に乗れるような事なんてあるのだろうか?


「皆さんは、魔王討伐戦や先の戦役に参加したと聞いている」


 王女三人は違うが、まあそうだ。


「しかし、俺は成人前だったし、我が国は戦わずして何故か勝ってしまった。軍司令官としての自分の力量が分らんのだ」


 なるほど。王太子とて総司令官をやるのは相応に重圧があるのだろう。祖父が英雄で、父は英雄ヘンリーと互角の腕前でエングリオ軍を追い払った。ガタイは凄いが、まだ十五歳でしかない。しかも、実戦の経験が無い。


「で、でも、ご立派だと思います。王太子として振る舞っていらっしゃる」


 ミアーナだ。ある意味、一番共感できる立場にある。しかも第一王位継承権者にも関わらず女子の店の店長を目指している。


「皆さんは、魔物退治の経験も多いと聞いた。可能であれば、是非一度、相応の相手の討伐に参加させて頂きたい」


 ふむ。悪くはないだろう。


「相応の相手と言うのは、どの様な?」


 メアリーが聞いた。交渉は任せておいた方が良い。


「ジャンヌ神官はドラゴン・キラーと聞いた。例えばドラゴンの討伐などはいかがか?」

「無理です」


 申し訳ないが即答だ。私がその称号を名乗るのはおこがましいのだ。それに、ドラゴンは討伐する様な相手では無い。


「ドラゴン・キラーなの?」


 キーラ、怖がらなくていいからね。




「中々面白いお話をなさっていますね」


 今度はヘンリー様とエレノア様が入って来た。マグダレナ様もいる。

 皆が立ち上がったので、慌てて立つ。普段、お二人に対して、そう言う風に接していないので、ここが王宮であることを忘れていた。素早く立ち上がったキーラがニンマリしている。

 お三方はそのまま椅子に座って、皆に着席を勧めた。


「これは、皆様。軍司令官たる私が、神官に魔物退治の相談をするなど、お恥ずかしい所をお見せしました」

「気になさる事はありません。相手が神官であれ、例え子供であれ、必要であれば話を聞けば良いのです。なんら恥じ入る事はありません」


 戦術のエレノアがフォローする。


「お気遣いに感謝します」

「ところで、貴殿は先ほど、ドラゴンを討伐したいとおっしゃった。何か心当たりがあるのですか?」


 いかん。実際にプライモルディアにいるのであれば、見に行く積りだ。


「何と申し上げて良いのか……。海に住む大ヘビです。ドラゴンの一種と言う者もいます」

「さては、オルフェーシュチですね。しかし、あれは普段は海の深い所……島の北側にいます。大陸に近く水深の浅いこの辺りでは姿を見せないはず」

「それが、三、四年ほど前から、我が国の南の海上において、交易船での目撃例が頻発しておりまして、漁船が襲われ幾人かの死亡報告を含め、被害報告が上がっております。現在、真偽のほどを確かめるために情報を集めている最中です」

「このこと国王陛下は?」

「私に一任下さっております」

「ヘンリー、どうしましょうか?」

「是非、協力させて頂こう」


 ヘンリー様が対外交渉全権委任の巻物を出して、簡単に決めてしまった。




 オルフェ―シュチとは、何なのか?

 エドワード王太子様が言うには、海に住む大ヘビらしいが……。


「ホーリーで追い払えるそうです。恐らくは魔物でしょう」


 魔物退治あればやらんでもない。こう見えても、本職だ。

 メアリーに目配せする。交渉は任せた方が良い。


「討伐ランクはいかほどでしょう」

「魔法を使うそうです。そして海での戦いになりますから、Cランクが打倒でしょう」


 エレノア様だ。

 空飛ぶヘビのワイアームと同等か。以前は十人以上で倒したはずだ。今はその時より強くなったから、少しはマシかも知れない。


「実入りについては、いかほどの値打ちが?」


 メアリーがエドワード王太子様に聞くと、分からない、と返ってきた。倒した記録が無いらしい。不利と見ると、すぐに海に潜ってしまって逃げられるのだそうだ。


「折半で良いでしょう。ヘビであれば皮や牙が良い値で売れます。希少な物であれば猶の事」

「いや、全てそちらに差し上げます。その代わり、作戦の立案から討伐するまで、全てそちらで実施して貰いたいのです。無論、私は立ち会いますので、戦士が必要な折は何なりと指示をお出し下さい」


 この言葉が決め手となって、一七五の会でも引き受ける事になった。


 引き受けると言っても、本当にいるかどうか分からないのに、いつまでも滞在している訳には行かない。精霊達の情報も聞いておきたい。特にアレックスだ。それに、もう十一月の半ば近い。ヘンリー様達は年末年始に王宮に居なければならない。十二月から二月にかけては、ウミヘビも冬眠するのか目撃情報が無いらしい。三月に改めて来る事になった。




 盛大なお見送りを受けて出港する。沖に出ると同時に中型お椀に乗り換えて、途中休憩しながら中の原の農場まで帰ってきた。


 キーラを皆に紹介すると、ヴィオレットが随分と喜んでくれた。キーラもアラクネの優しさは知っていた様で、二人して抱き合っていた。

 セレーナ、レナータ、ちびセレーナ、フローラを始めとするアルラウネ、そしてゴブリンも低級魔族が森に住む事を知っていた。ボニーが山の主の話をしていた様に、セルトリアにもぼちぼちいるらしい。


「基本的に群れて住む連中じゃ無いから、放っとけばいいよ。こう見えて、結構縄張り争い激しいし」


 ヴァイオレットが言うと、キーラがとぼけている。ジッと見ていると、ペロっと舌を出した。


 次いで、ミアーナを紹介する。山賊共は皆知っていた様で、自己紹介のためにマグダレナ様とミアーナが立つと同時に、起立した。


「座って貰って結構です。この農場では人間社会における地位は関係ないはずですから」


 マグダレナ様の言葉に、拍手が起きた。




 乾杯をして、ひとしきり飲み食いした後は、作戦会議だ。


「いつぞやの訓練と同じです。公式な討伐依頼になりますから、一七五の会でも可能な限り参加して下さい」


 冬の間は、ベアトリクスがレグネンテスの村から離れる。加えて、晩餐会シーズンの年末年始を外せば、メアリーも参加出来るだろう。


「ミアーナ、どうですか? アイラ殿やサクスブルグ殿はいらっしゃいませんが、見学だけでもしませんか?」


 マグダレナ様に聞かれたミアーナが頷いて、ベイオウルフの参加も決まった。


 不参加を表明したのはリュドミラとマチルダだ。


「行ってもいいが、海の上だろ? 地べた踏みしめて殴れない様な戦いは遠慮しとくよ。それに義手や義足の注文も多くてね」


 相変わらずだが、それもマチルダらしい。お店もあるし、残って貰う事にした。

 リュドミラは無論無理だ。平坦地全体を見回らないといけないし、農場の四号店の面倒を見ないといけない。

 結局、六人が参加可能になった。


「早くて三月です。冬の間の狩りやネズミ退治は、お願いしますね」


 マルセロさんがニコニコと承諾して、再度のプライモルディア行きが決まった。

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