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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第四部 第十四章

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第六話 何人をも退ける壁➂

 斥候に放ったフィオナが帰って来た。


「一直線の通路よ。百歩位かな。すり抜けられない壁があったわ。魔物もいなかった。いたのは鼠くらい」


 特に問題は無いようだ。

 魔族の女の子に見送られて出口の扉を出ると、頑張ってね、と言いながら石の扉を閉めた。


 ミアーナがファイアー・ボールを奥に飛ばすと、鼠が一斉に逃げて行った。

 ネズミでは無いと言う事は、目標の壁までは安全だろう。


「ボニー、待って。玉の準備をするから」

「うん。分かったあ」


 フィオナには水晶に戻って貰う。

 玉を取り出し、網の袋に入れる。首から下げるのだ。背後は無理だが落としにくい。


 まずは、攻撃用のホーリーだ。瞬発力が要求されるので、エレノア様に持って貰う事にした。初級ライトの玉は、点けっぱなしにして後衛のメアリーが持つ。ホタルと併用して、遠距離、近距離まんべんなく照らす。万一、後ろから襲われても、振り向くだけで牽制になる。残りの二つは布にくるんだまま、物入袋に入れてサクスブルグとミアーナに持って貰う。玉を入れて来た樽は袋に戻して扉の脇へ置いておく。これでベイオウルフが身軽になった。

 カンテラの蝋燭を見ると、中に入って一時間近く経っている。今から初級ホタルを使えば、三つ目の目盛りまではもつだろう。


 ホタルを手に持ったボニーが、壁、床、天井に罠があるかどうかを子細に確認しながら歩いている。その先では光に追われた鼠が、鳴きながら逃げて行く。途中、所々に小さな穴が空いているのは鼠が作ったのだろう。左に一回、右に一回曲がる。その先を真っ直ぐ進むと、あっさり壁に辿り着いた。


 ここからが勝負だ。今までの情報からすると、ここには黒石があるはずだ。にも拘わらず、壁を築き、そう強くないとはいえ魔族まで用意している。この先にも必ず何かある。


 魔物の襲撃に備えて、配置を変える。前衛に剣のベイオウルフと槍のヴィル。二番手に両手剣のマグダレナ様と弓のボニー。三列目にアイラとシアーニャ。シアーニャは壁の解除と共にホーリーを乱射した後、マジック・リフレクションを展開する。次いで王女が二人。最後衛がエレノア様、メアリーに私だ。

 ミアーナのファイアー・ボールを壁際に落として、ホタルを消す。


「行きますよ。ライト!」


 皆が片膝をついている中、私だけが立ち上がって上級で唱えた。

 光に照らされた壁は下から消え始める。


「シアーニャ!」

「はい!」


 極太のホーリー・ランスを四発連続で放つ。光が直線的に進み、壁の向こう側に消えて行った。


 くぐもった様な唸り声が聞こえて来る。


「手ごたえがありました!」


 やっぱり、いた!


 壁が完全に消えると奥に真っ直ぐ通路が伸びているのが見えた。広範囲に照らしているから奥まで届かない。かなり深い様だ。

 様子を伺っていると、突然、強烈な腐臭が漂って来た。


「こ、これは……」


 レヴァナントか? いや、お山で見たオーク・レヴァナントの群れやドラゴン・レヴァンナントの比では無い! 前衛の四人がせき込み始めた。王女ニ人が両手で顔を抑え蹲った。集中が落ちて、ミアーナのファイアー・ボールが消えた。


 いかん、無防備過ぎる。


「フェイヴァラル・ウインド!」


 エレノア様が風を起こして、一旦、腐臭を退けた。


「発動せよ! ホーリー!」


 次いで、玉に込めたホーリー・オーバー・フローを解除した。

 周囲が白い光に包まれる。


「皆、絶対に立ってはいけません! 壁際に寄って! メアリー! グレイシエイトの用意を! 私がプロミネンスを放ったらすぐに放って下さい! シアーニャ! ピュリフィケイションを三発放って下さい! ジャンヌ! 皆にレジストを!」


 指示を出したエレノア様は両手を上げて大きく広げると、プロミネンスの詠唱に入った。メアリーもグレイシエイトの詠唱を開始する。


 エレノア様の手の中に赤い炎の玉が出来上がる。詠唱と共に、赤からオレンジ色に変わっていった。少しずつ前に進み前衛の前に出る。

 シアーニャがピュリフィケイションを連発すると、奥からうめき声が聞こえて来た。

 サクスブルグとミアーナは蹲って両手で顔を抑えたままだ。アイラがしゃがんだままにじり寄って二人を庇う。


「準備出来ました!」


 メアリーのグレイシエイトが完成した。


 壁を照らすライトを解除し、レジストを皆に掛ける。


 赤い光が四方を照らす。


「プロミネンス!」


 発動した。オレンジ色の特大の火球が通路の奥に飛んでいく。


「メアリー!」

「はい! グレイシエイト!」


 メアリーがグレイシエイトを放ち、氷が大きくなり始めた。


 前衛二人が楯を構え、マグダレナ様とアイラが二人の王女を後方に避難させる。ボニーが後方の警戒についた。


 エレノア様が再びフェイヴァラル・ウインドを唱えて熱風がこちらに来るのを防ぐ。

 通路一杯にまで成長したと思った氷の表面が光っている。溶けているのだ。


「アイス・キューブ!」


 メアリーが氷の塊で解けたグレイシエイトの穴を塞いだところで、壁が復活し、一旦退避する事にした。




 プロミネンスと同時に、コキュートスが使えれば良かったのだが、時間が無かった。詠唱し直さなければならないからだ。

 ライトを解除したから今や壁は塞がっているのだが、今度開けた時が怖い。ある程度冷やした方が良い。玉が放つ初級ライトに照らされた壁に変化は見受けられないが、中がどうなっているかは、分からない。


 念のために、シアーニャがアンチ・ポイズンを、私がアンチ・セプシスを皆に掛けた。


「大丈夫でしたか?」


 初の実戦になる二人にとっては厳しい経験になった。いきなり、あの強烈な腐臭だ。言い表すに適当な言葉が見当たらない。


「大丈夫です。余りの匂いに息を止めていたので窒息しそうになりました」


 サクスブルグだ。両手で顔を抑えていたのは鼻を塞いでいたのだろう。


「私もです。一体、何が起きたのですか?」


 ミアーナも元気そうだ。


「まさか、臭いで攻撃して来る魔物が居るとは思っていませんでした」

「酷いですよね」


 二人して気付けのワインを飲んで、びっくりした、と言っている。

 なるほど。余りにも臭くて恐怖を感じる暇も無かったか。臭いで攻撃して来る魔物は、多分いないな。

 安心したのか、二人を避難させたアイラとマグダレナ様が、目を合わせて笑った。




 ところで、あの強烈な腐臭の元は何だったのか?


「シアーニャ神官。先ほどの匂いの元ですが、思い当たるふしはありますか?」


 エレノア様が聞く。


「恐らくは、フレッシュ・ゴーレムでは無いかと」

「やはり、そうですか」


 深いため息をつく。


 なんだそれは? どう考えてもフレッシュな臭いでは無かったぞ。


「お義母様、シアーニャ神官。フレッシュ・ゴーレムとは一体何なのでしょうか?」


 マグダレナ様も知らない様だ。


「ゴーレムとは、凡そ人間が考え出した最強の門番です」


 エレノア様が言うには、いわば魔石を核として作られた大きな人形で、魔石に蓄えられた魔力をエネルギーとして動くらしい。材質によって呼び名が変わり、石はストーン・ゴーレム、土はサンド・ゴーレムらしい。


「そして、フレッシュ・ゴーレムは死体の寄せ集めです」


 死体の……悪趣味にも程がある。


「かつて、プライモルディアで使われていた秘術の様なものです」


 ゴーレムは魔法陣の上に置かれているらしい。きっかけとなる出来事があると魔法陣が発動し、ゴーレムは動き始めるのだそうだ。複数の魔法と魔法陣を組み合わせて発動する、院長先生が使った強力な浄化の結界の様なもので、使う魔法は上級と中級の組み合わせなのだが、膨大な魔力を使うためその制御には超上級魔法使いが必要で、現在は使う者もおらず秘術としてしか伝わっていないそうだ。


 ゴーレムは、体が大きく重い。その分動きは遅い。従って、守備専門なのだが、狭い通路に配置すれば強力な番兵に成る。プライモルディアの国境は山地帯の峠しか無い。うってつけだろう。


「無論、倒す事は出来ます。プロミネンスの熱量は鉄や岩をも変形させます。ゴーレムの関節部を変形させてしまえばこちらのものです。フレッシュ・ゴーレムは焼き払えるでしょう」


 なら、問題は無い。


「問題は、フレッシュ・ゴーレムは禁呪なしでは作れない、と言う事です。恐らく、ゴーレムを作る秘術の外に、アンデッドを始めとして幾つかの禁呪が使われたのではないでしょうか。つまり、古の巫女は禁呪を使った」

「古の巫女が……禁呪を?」


 サクスブルグが声を上げた。意外だったのだろう。


 しかし、考えられない事ではない。お山の調査では、魔法は五種類に分類されていた。今で言う、属性魔法、神聖魔法、状態変化や移動系のその他の魔法、初代国王様シリーズ、そして、闇の魔法だ。五人の巫女が、それぞれの魔法の専門家であったとしても不思議ではない。元は皆、女神様に授けられた魔法なのだ。


「エレノア様。禁呪とて、元は女神様に授かったもの。古の巫女が使えても不思議ではありません」


 シアーニャの言う通りだ。古の巫女が生きていたのは五千年以上前だ。対して、南の大教会が滅ぼされたのは、たかだか千年前だ。四千年以上の間は禁呪なんて扱いは無かった。


「勿論そうなのですが、では、何故、ここまで禁呪で守るのでしょうか? 魔族のチャームから始まったとして、禁呪だらけです。狙いは何だと思いますか?」


 それは……分からない。


「もしかして、古の巫女は、ここが女性神官によって攻略される事を望んだ?」


 マグダレナ様が呟くように言った。


「マグダレナは、何故そう思うのですか?」

「まず、男性は立ち入る事が出来ません。そして、フレッシュ・ゴーレム……でしたか? ひたすら守りに長けている、との事。プロミネンスが有効なのは認めますが、なにせこの狭い通路が舞台です。味方の巻き添えを防ぐためには氷の魔法を使わなければなりません。もし、この後、数がいた場合、到底魔力が持たないでしょう。相手が動く死体であれば、やはり神聖魔法が最も有効かと」


 なるほど。納得である。


「でも、何度も出入りを繰り返せば……」


 ここまで言って、自分でも顔色が変わるのが分かった。


 まさか、脱出出来ない?


 慌てて、背後をライトで照らす。

 特に変化は無さそうだ。

 皆に断って、ベイオウルフとボニーを連れて戻ると、魔族の女の子と出会った石の扉がある。念の為、とベイオウルフに開けて貰おうとしたのだが、押しても引いてもびくともしない。


「これ、無かったよねえ」


 ボニーが、ベイオウルフの置いた樽に隠れる様に落ちている巻物を見つけた。広げて見るとテレポートの巻物だった。合言葉は簡単だ。脱出せよ、と書いてあった。通常の巻物よりも長く、魔法陣の下に絵が描いてある。二本の線が平行に並び、一方の端は□、一方は〇が描いてある。書き込みを見ると、□が壁で、丸がゴーレムだ。どうやら、壁とその先の通路の様だ。通路の途中ゴーレムの手前、壁から見て右手には横棒が一本出ていて、その先には〇が書いてある。抜け道とその先に続く部屋かも知れない。


 絵の下に一行古代文字が並んでいる。


 テレポートを使用した者は二度と壁の奥へは入れない


 やられた。脱出出来るが、再挑戦は出来ない様だ。




 皆の元に戻って、巻物を見せる。


「古代文字ですね。全部、読めたのですか?」


 エレノア様に褒めて貰った。色々な人達に教えて貰ってきた効果が出ている。


「しかし、何故再挑戦が出来ないのでしょう?」


 サクスブルグが聞いて来るが、簡単だ。魔族の女の子が入れないからだろう。

 石の扉越しにフィオナを派遣すると、果たしてそうだった。巻物は、私達が出発した後で女の子が転がしたらしい。これも契約の内だそうだ。


 いっその事扉を破壊しようか、との意見も出たが、何分古い遺跡だ。落盤が怖い。それに、この状況でエレノア様が簡単に撤退するわけが無い。


「脱出方法は見つかったのです。きっと、ゴーレムは消し炭でしょう。魔法陣はいつでも使えます。やれるところまでやって見ましょう」


 案の定だ。

 まあ、いいだろう。戦力はある。頑張ってみよう。




 仕切り直しの作戦会議を開く。


「まずは、手堅く行きましょうか。壁はいわば相手の攻勢を防ぐ防塁です。いざとなったら、壁を塞いで防ぎます。ジャンヌは壁の開閉を、ミアーナはフェイヴァラル・ウインドで悪臭対策をして下さい」


 壁を開けて先制攻撃を掛ける。相手が攻めて来れば塞げば良い。武器は、玉に込めたホーリー・オーバー・フローやシアーニャのピュリフィケイションを中心にし、いざとなったらエレノア様のプロミネンスと、メアリーのブリザードに、ホーリーを合わせていく。


 しかし、エレノア様のプロミネンスに加え、メアリーが冷却用のブリザードやグレイシエイトを連発するのは負担が大きい。


 あれ? ちょっと、待てよ。


「あの、確認したいのですが、白銀の武器が一般に出回ったのはいつ頃からですか?」


 エルフは五千年近く前に白銀を掘って武器に加工し、王国を作ろうとした。つまり、周囲の生き物……恐らく、人間よりも優位に立つためだろう。古の巫女はそれ以前に亡くなった。巫女の時代は流通していなかったはずだ。


「恐らくは、三千年ほど前でしょう。この島の最初の白銀の鉱山は、プライモルディアで見つかったのです」


 シアーニャが教えてくれた。


「つまり、ここの遺跡を作った時点では、白銀の武器は想定されていなかった事になりますね。ジャンヌ。良く気付きました。巫女が想定していなかった武器で攻撃出来れば白兵戦では圧倒出来るでしょう」


 またも、エレノア様に褒めて貰った。

 つまり、相手はせいぜい鉄製の武器を想定した守りに過ぎない。こちらの守りは固いのだ。鋼の鎧を貫きレヴァナントを土に返す攻撃力を生かせば良い。

 島の歴史は、中の原の調査で私が皆に読み聞かせたのだ。以来、島全体の時代の流れが把握出来るようになった。


「それと、聖水を作りませんか? 水があれば私とシアーニャが聖水に変えますよ」




 作戦が決まった。


 白銀の武器は揃っている。後は聖水を用意すれば良い。

 ミアーナが悪臭対策としてフェイヴァラル・ウインドを唱える。次いでメアリーがアイス・キューブで四方形の氷の塊を三つ壁の前に作った後で、シャワーで水を撒き、更にフリーズを掛けて凍らせてくっ付ける。氷の壁というか堰が出来たわけだ。エレノア様が熱対策としてウインド・バリアで空気の壁を作る。そして、ホタルを二個出し、壁を照らす。


 壁が下から消えると同時に、水が流れ出て来た。グレイシエイトで作った氷が溶けたのだろう。アイス・キューブの表面が光り始めた。一気に溶けないところを見ると、ある程度冷えた様だ。なにせ、三時間待った。壁が降りたから魔法の効果は無くなったはずだ。その証拠に、氷の堰で食い止められた水は生ぬるい。


 ウインド・バリアを解除し、もう一個のホタルをフェイヴァラル・ウインドの風に乗せる。ミアーナにホタルを操るのは難しいが、風に乗せて飛ばすだけなら問題はない。既にサイトは皆に掛けてある。


 ホタルが飛んで行くと、所々に溶けずに残った氷が見えた。

 メアリーがすかさずフリーズを連発し、氷の堰をもう一個作る。これである程度の量の水が確保出来た。堰に囲まれた水の量は深さでくるぶし程度だが、多すぎると成聖に時間がかかる。そう多く無くても良い。


 白銀の武器を揃えた四人が前進し、その後ろでシアーニャと私が聖水を作る。半時間も掛からないうちに完成した。

 エレノア様とメアリーがクランプ・ウォーターで聖水を宙に浮かばせ大きな二つの水の玉を作った。

 使った魔法はライトを除くと初級と中級だけだ。敵地で補給するのは、何も食料に限ったものでは無い。これで準備は整った。

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