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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第四部 第十四章

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第六話 何人をも退ける壁② 

 プライモルディアに来て五日目になる。

 苔むした祠の前には十人の女性探索隊が勢ぞろいしている。

 黒紫を着たエレノア様を筆頭に、いつぞやの宴会に着て来た黒竜の鎧と名付けたらしいエレノアの鎧の皮鎧版に身を固めたマグダレナ様、エレノアの鎧兜を身につけリンドブルムの楯を持ったベイオウルフにヴィル。交易用にと持って来た黒紫を着込んだ、アイラ、サクスブルグ、ミアーナ。この三人は黒紫の中は三号店の制服を着ている。そして、神官衣のシアーニャ神官。エレノア様、ボニー、メアリーに私はリンドブルムの羽を仕込んだ黒紫だ。勿論、私の持つ水晶には、私と同じ黒紫を着込んだフィオナが待機している。


 壮行式よろしく、国王様ご夫妻とエドワード王太子様ご臨席の元、カドガン様に祈祷して頂く。五人の管理人も一緒だ。


「お手を煩わせる。この様な事になり、面目次第もない」

「エレノア様、マグダレナ様。お手数をお掛けします」


 国王様ご夫妻はお詫びしてくれたが、この場合王族は悪くない。


「いや、我が国も貴国を見習い、戦える女性を養成しておくべきだったのだ」

「それぞれの国の事情と言うものがあります。共存共栄を目指す以上は、互いが出来る事をやれば良いだけの事ではありませんか」

「エレノア殿。お気遣いに感謝する」


 エレノア様の場合は自分が行けるから嬉しいのだ。その証拠にヘンリー様は来ていない。きっと、悔しいのだろう。




「シアーニャ。無理に行かなくても良いのだぞ」


 一方のエドワード王太子様は、シアーニャ神官を見送っている。

 従姉になる。子供の頃は一緒に過ごしたに違いない。心配なのだ。


「有難う。おじい様と一緒に戦ったエレノア様がいらっしゃるし、皆さん歴戦の勇者だから大丈夫よ。男性が参加する時はお願いね」


 若干二名初心者がいるが言ってはいけないのだろう。


「皆さん。島の各国で魔王の復活阻止に向けて活動する調査団に我が国も参加する事になりました。代表はエドワード王太子殿下とシアーニャ神官です。今回参加するシアーニャ神官が我が国の初陣になります。どうかよしなにお願いします」

「ノーザン・ブルグ代表は私と兄のエオウィンですが、我が国も今回が初参加になります。我が国の王族は古代人の末裔ではありませんが、島の安寧を想う気持ちは皆様と同じ。よろしくお願いします」


 カドガン様の言葉にサクスブルグが被せ、皆が拍手する。


「では、途中までご案内しましょう」


 カドガン様が先頭に立つ。五人の貴族が、そして国王様達や私達が続いた。




 祠はいわば小さな教会だ。東側には女神様の石像がある。

 探索に参加する者は、膝まずいて沈黙の誓約を結んだ。


「そこに見える石の扉の先は通路になっていて、背後の山に繋がっています。そして、男性が立ち入る事の出来ない場所があります。その先に問題の壁があるのですが、そこまでは安全です。その先はどうなっているか分かりません」


 大司教様が指し示す先は、大きな鍵をつけた重そうな石の扉で塞がっている。扉下には穴が空いていて、そこから一日一回、パンと肉か干し肉、それに一杯のワインを供物として差し出すらしい。捧げて半時間も立たないうちに無くなるのだそうだ。無論、中には誰もいないはずだ。


 カドガン様が鍵を外した。

 片扉の様で押して開けるらしい。五人の貴族が石の扉を押し開けようとする。重いのかなかなか動かない。


「お、重い……」

「応援の兵士を呼ぼう。とても動かんぞ」


 完全に息が上がってしまった。だから、今まで十人だったんじゃないのか?


「俺に任せろ」


 見かねたのかエドワード王太子様が割って入り、押し始めた。

 腕の筋肉が凄い。私の腰回り位あるんじゃなかろうか?


「ぐううう!」


 着ている服の胸元と腕回りがビリビリと破ける。血管が浮き出した。

 それでも扉は動く気配が無い。


「御助勢します」


 ベイオウルフが右肩を扉にあて、押し始めた。王太子がゴツ過ぎて、ベイオウルフが小柄に見える。


「助かる!」


 二人で押すと、ガコンと音がして徐々に動き始めた。


「二人共、頑張ってー!」


 メアリーが声をあげたのを皮切りに皆で応援していると、ゴロゴロと音がして、遂に開いた。




 完全に押し開くと、二人共汗だくだ。肩で息をしている。


「貴公。名は何と言う」


 エドワード王太子様がベイオウルフに声を掛けた。


「セルトリア王国中央軍兵士ベイオウルフです」

「勇ましい名だな。帰って来たら一杯やろうか」

「喜んで!」


 意気投合したようで互いに肩を叩いて労いあっている。




 さて、扉は開いた。

 ベイオウルフにワインの入った水筒を渡し、二人に回し飲みをして貰う。同時にリカバリーをかける。息が整ったら出発だ。樽酒のオッサンが持って来た荷物をベイオウルフが背負ったのが合図になった。エレノアの鎧を着ていないメンバーに、ディフェンド、シールド、インクリース・ディフェンスを二回ずつかける。これでカタパルトが飛ばした石が当たっても平気だろう。


「では、参りましょうか。ボニー、ホタルを持って先頭に立って下さい。マグダレナ、二番手に」


 エレノア様が指示を出す。何と王妃を二番手にした。


 ホタルを光らせボニーに渡すと、五人の貴族からどよめきが起きる。

 マグダレナ様が続き、ヴィルが入る。ここまでが前衛だ。中央は、エレノア様、サクスブルグ、ミアーナ、私。後衛がシアーニャ、ベイオウルフ、メアリーになった。ホタルは四つ出して、先頭のボニー、エレノア様、私、メアリーが持っている。


「ベイオウルフ。シアーニャを頼む」

「お任せください」


 入口に立つエドワード王太子様に見送られて奥に入って行った。




 通路は人二人が並んで歩ける幅がある。先頭の二人は左右に分担を分けて観察しながら歩いている。高さも十分で、ヴィルが白銀の槍を立てて持っても歩けるくらいだ。

 苔むしてかび臭くて、いつでもネズミが出て来そうな雰囲気がある。ゲジゲジやナメクジもいるかも知れない。ムシ系は数が多いし見た目が悪い。出来れば出てきて欲しくないので、皆に断ってボニーのホタルを目一杯で光らせた。そうしておけば、向こうが勝手に逃げるだろう。


 三十歩ほど歩いたところで、また石の扉がある。


 男は入るべからず


 と彫ってある。古代文字では無い。そう、古くは無いのだろう。


 ベイオウルフとヴィルが押すと、そう苦労も無く開いた。

 中は円形の部屋になっている。女性限定の部屋だろう。入口の反対側に出口がある。

 入って右手に、壁から少し離して大きな長方形の石が置いてある。高さは天井近くまである。照らしてみると石に彫りこんだ女神様の像だった。


「光を消して!」


 石像が喋った!


 マグダレナ様が腰の両手剣を抜いて体の前で構えている。早い!

 ネコの石の効果を利用して、ライトを片手で放つ。

 次いで、ヴィルが左腕にくっ付けた楯を前にして槍を構えるのと、ボニーがホタルを地面に転がして二、三歩ズレる様に位置を変えて弓を構えたのが、ほぼ同時だった。


「どなたですか?」


 エレノア様が聞く。手に持ったホタルを石像に向けている。


「だから、光を消してって言ってるでしょ! 今居る全員を立ち入り禁止にするわよ!」


 どうやら石像の後ろに隠れている様だ。魔物か幽霊か、それともレヴァナントか……。


「正体を明かして下さい。我々も安全を確保しなければなりませんので」


 エレノア様が、少しずつ石像の裏に回り込んで行く。


「ジャンヌ。正体を明かすまでは油断してはいけませんよ。騙そうとしているのかも知れません。石像の反対からも照らして下さい。追い詰めましょう」

「わ、分かったわよ! 分かったから!」

「分かったでは、正体は分かりません」

「言う、言う、言うから! ちょっと止まってってば!」


 あの、エレノア様? ちょっと、やらしくないですか?




 声の主は魔族だった。

 ホタルの代わりの灯りにしたミアーナのファイアー・ボールに照らされた姿は、青紫っぽい顔以外全身に黒い毛が生えていて良く分からないが、胸のふくらみと言葉遣いからして女子の様だ。外見的には十代前半といったところか。目の周りに黒い隈取模様がある。


「ここを監視しているのよ。この部屋から先は男子禁制だからね」


 どうやら、門番らしい。普段は森の中で暮らしているそうだ。アレックスと同じでテレポートで飛んで来るのだろうか?


「どうして、男子禁制なのですか?」

「知らないわよ。ここ作った巫女が男嫌いだったんじゃないの?」


 扉に彫ってある文字も始めから有った訳では無いらしい。男が入れない事を知った人間が彫ったようだ。


 解釈は違うがあり得る話だ。

 宗教が根本的に違う大陸でも、概ね神職につく者は結婚を禁じられている。かく言う私も、還俗しないと結婚出来ない。家庭を持つと、どうしても家族を優先してしまう。神職にある者は平等でなければならないし、日々信仰の対象に仕えなければならない。いわば、修行中の身なのだ。結果的に、異性を特別視して避けるようになる神職もいると聞いた。

 孤児院の運営が教会によって行われている理由もそれだ。子供達だって、育ててくれる人の実子が特別扱いされているのを見たくはないだろうし、その子供だって親がいるなら特別扱いされたいだろう。


「何故、貴女が監視しているのですか?」


 エレノア様の質問は当然だ。魔族というものは、男女の事に関してもずぼらで背教者的だと思っていた。どちらかと言えば、人間に誘いをかけて、節操がないくらい交流を勧めている印象がある……。


「そんなわけないでしょ! 人間が勝手に年中盛っているのを魔族のせいにしないでよ! 繁殖期が決まっている魔族の方がよっぽど節操があるわよ!」


 怒られてしまった。また間違えてしまった。


 では、何故か?


「契約よ、契約。私は、ここ作った巫女との契約に縛られているの。ある条件があって、その条件を満たさなきゃ、ここで男が奥に入らない様に監視してなきゃなんないのよ」


 男がいる場合、出口が開かないそうだ。


「その条件とは?」

「知らないわよ。私がここにいるってことは、未だ満たされてないって事ね。知りたかったら自分で調べたら?」


 それ以外にも色々エレノア様が聞いたのだが、碌な返事が返って来なかった。

 態度が変わったのは、エレノア様がネタ切れになり他の皆も聞く事が無いと言うので、では最後にもう一つ、と私が質問した時だ。


「では最後にもう一つだけ。もし、男の方がこの部屋に入って来たらどうなるのですか?」

「私がチャームで誘惑して殺す」


 なるほど。いっその事ここで倒してしまった方が早いかも知れない。


「ま、待って、待って、待って! そういう契約なの! それに私を殺したって同じよ! きっと、中に入っても殺されるから!」

「誰が殺すのですか?」

「そ、それは……」


 口ごもった。何か言えない理由があるのだろうか?


「まあ、落ち着きましょう。それに折角お会いできたのです。お近づきの印にワインでもどうですか?」


 エレノア様が交渉を開始した。




 皆で丸くなってワインを飲む。お椀はエレノア様とマグダレナ様が持っていた。

 魔族の左手にはエレノア様が座り、右手にはマグダレナ様が座る。流石はセルトリアの王族。肝が据わっている。

 お二人の指示で、魔族を起点に左右に王族、前衛、軽装兵の順に円形に座り、魔族の正面にはシアーニャ神官と私が、王女様達は私達の後ろに座って貰った。


「美味しい! こんな上物初めてだわ!」


 一日に一回捧げられる供物の半分を食べ、半分を餌にして入って来た野鼠を捕まえて食べているそうだ。可哀そうにも程がある。

 街道クッキーをあげると、一口食べて絶賛された。半分齧って大事そうにしまおうとするので、もう一個上げると大喜びで残りを食べた。

 鍋を食べさせてあげたいところだが、時間が無い。帰りに寄れば良いだろう。


「何故、魔族がここにいるのですか?」


 聞くところによると、人間に捕まって殺されそうになったところを、古の巫女に命を救われたらしい。そして、遺跡を守る契約を結んだ。

 まあ、これまでも水竜が守ったり人間が守ったりしていた。魔族が守るのも有りなんだろう。


「魔族といっても下級魔族よ。魔王様や上級魔族の様に復活出来る訳じゃないの」


 上級は強い順に一番から二十番位までいるそうだ。北東の森の六番手は、まあまあ上位になるわけだ。


「魔王軍に所属していないのですか?」

「低級魔族は戦って殺されたら終わりなのよ。参加したくないわ」

「強制では無いのですね?」

「魔王様はお優しいから。強制なんかなされないのよ」

「だから、オークやオーガを使っているんですか?」

「そこら辺は良く分からない。知りたくもないわ。魔王軍の事を人間に喋ったら、死んじゃうもの」


 ミミズ使いも似た様な事を言っていたな。無理強いは良くないだろう。


 質問の矛先を変えて、低級魔族の事を聞いて良いか、と尋ねたら構わないと言ってきた。

 魔王軍関係以外なら問題ないらしい。この際だからと、皆で色々聞いた。


 分かった事は、魔族は普通に森に暮らしていると言う事だ。その割には姿を見せない。


「普段は動物に憑依しているの。魔族は元のままじゃ、太陽の光の下では力を失うから」

「憑依? 姿が変わったりするのですか?」

「違うわ、オークみたいになれないもの。姿は憑依した動物のままだもん」

「オークは姿が変わっているのですか?」

「元はね。今は変わったまんまじゃないの?」

「元は、と言うのは?」

「大昔の生き物の悪霊よ。まだ人間がこんなに増えるもっと前。やつらにとって依り代は何でもいいのよ、生き物であれば」


 その悪霊は特定の場所に集まっていて、近くに居る生き物に憑依するらしい。その結果、身体に大きな霊力が流れ込んで肉体が変貌する。そうやって変貌した生き物は本能のままに争い、より強く生き残りに長けた形のものが生き残る。そうやって淘汰された果てがオーク、オーガやサイクロプスといった人型の魔物だと言うのだ。元が悪霊なら、デューネやメルがこの世に在るべき者では無い、と言うのも頷ける。


「フェンリルみたいなのはどうなんですか?」


 以前、ヴァイオレットが、フェンリルは普通じゃない、みたいな事を言っていた。


「分かんない。オオカミがいるじゃない? ああいった魔獣の強力な奴じゃないかなあ」


 まあ、ドラゴンにも黒竜の様なのが生まれてくるくらいだ。魔物の強化型がいても可笑しくはないだろう。もしかしたら、全部エルフのせいかも知れないし。




「ところで、貴女はこれからも門番をし続けるのですか?」


 分かってはいるが聞いてみる。本人はあまり乗り気ではないはずだ。五千年以上の間、こんな所で野鼠ばかりでは辛かっただろう。何とかならないのだろうか?


「そうね。私は契約に縛られているからね」

「条件を満たせば良いのですよね?」

「まあね。でも、貴女達に分かるかな? 今まで、何組も入っていったけど、誰も分からなかったのよ」


 そこら辺はあてにならない。なんと言っても、何人をも退ける壁があるのだ。壁に阻まれて中に入れない様では話にならない。名前が示す通りなら、誰も突破した事が無いに違いない。


「もし、私達が解決したらどうしますか?」

「考えてなかったわね。外に出たら兎か栗鼠にでも憑依してその日その日を暮らす程度かなあ」

「熊とか狼の方が良くはありませんか?」


 兎なんか簡単に猟師に狩られてしまう。


「私は魔力が弱いの。変身術とチャームは得意だけどね。だから、あまり大きな動物には憑依できないのよ」


 そうか、だから人間に捕まったのだな。

 エレノア様を見ると、沈黙の誓約がありますよ、と言ってくれた。

 ベイオウルフ達も頷いている。やや、苦笑気味なのはお約束だ。


「中に入って色々と調べてみます。条件が分ったら、また来てお話を聞かせて貰っても良いですか?」

「構わないけど。どうしてなの?」

「一度、うちの農場に来ませんか? もし良かったら、一緒に兎や栗鼠の世話をして下さい。住む場所と三度の食事は保証しますよ。もっとも、一食当たりの量は普通の人間と同じですけど。蜂蜜酒でよければ、毎晩一杯くらいは飲めますよ」


 きょとんとしたが、一瞬、口角が上がった。


「好きにすれば?」


 口元は元に戻っている。


「はい。好きにします」


 兎や栗鼠に憑依出来るのなら、生け捕りに出来るだろう。サクスブルグでは無いが、飼育に成功すれば、肉や毛皮が沢山取れるかも知れない。農場の新しい家畜に出来るかも知れないし、危険が少ないから生活困窮者対策になるかも知れない。無論、本人が希望すれば、の話だ。

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