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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第一章

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正門前

 自警団による町の人達の避難誘導が始まったのを確認した私達は、三人で正門へ向かった。二番目の門にたどり着くと、パウルさんが門の前で両手を広げて立って、なにやらブツブツ言っている。アンジェリカさんに聞くと、矢除けの魔法でこの辺りを敵の矢から守っている、と言った。


「レヴァナントが弓矢を使ってるんですか?」


 レヴァナントと言うと、ただひたすらに進んで来て、殴りかかってきたり噛みついてきたりするものだと思っていた。


「良く分からないけど術者によるみたいだよ。今のところ、斧と弓矢で装備したレヴァナントが確認されているそうだ」


 マルセロさんが教えてくれた。振り回して使う斧と違って弓矢は高度な技術が必要だから、恐らく先の戦争で亡くなった兵士のレヴァナントが混ざっているんだろうと言う。

 流石は元死体の研究家だけあって、しっかりと分析されている。


「今は何をやっているんですか?」


 ベイオウルフが気にしているのは衛兵隊だ。衛兵隊は街壁に上に結構な大きさの石や材木を運んでいる。


「矢は風の魔法に軌道を邪魔されるからこちらからも使えないけど、重い石をただ投げ落とすだけなら問題ないから、しばらくはそれで攻撃するみたいだ」


 それを聞いたベイオウルフが、手伝います、と走っていった。


「今は味方が帰って来るまでの間の時間を稼ぐつもりね」


 ベアトリクスが言う味方とは、カトリーヌ司教とアドルフ町長だろう。


「お二人はどうされるんですか」


 今のところ、二人は何もしていないように見える。


「第一の門が突破された場合に備えて、第二の門までどうやって足止めするかを考えているんだ」

「私が土の魔法で落とし穴を掘る事を考えているんだけど、レヴァナントの数が多いからすぐに埋まっちゃうかも知れないのよ」

「レヴァナントはどのくらいいるの?」

「四千くらいらしいわ」


 四千……私とベアトリクスは思わず顔を見合わせた。四千と言うと現在の中の原の住民の数と同じだ。 レヴァナントと普通の人間が一対一で戦ったら負けるだろう。武器が効かないうえに疲労を知らない。ひたすらに襲い掛かってくる。浄化の魔法が使えてようやく勝てるが、浄化の魔法は初級神聖魔法で神官か元神官くらいしか使えない。


「ちょっと、待って下さい。それじゃあ、教会の裏庭はどうなってるんですか?」

「ハンスさんが、大司教様を含めて、五人の神官が守っているから大丈夫だと言っていたが……」

「マルセロ。それは相手の数が分かる前の話よ」

「私達、孤児院に行って来ます」


 私とベアトリクスが走り出そうとすると、ちょっと待て、と声が聞こえた。


「どこへ行く気だ」


 ハンスさんだ。取り急ぎオーウェンさんに言われたことを伝えると、孤児院の様子を見てきます、と走り出そうとした。


「まあ、待て。今しがた、孤児院の子供達の避難が無事終わったと自警団から連絡が入った。衛兵隊を五人つけてあるから、何かあったら伝令が来る。お前達はここにいろ」

「でも、裏庭の方がここより人数が少ないんですよね?」

「心配いらん。教会神官五人に、孤児院の神官が三人いる。マルセロ一人しかいないここよりは安全かも知れんぞ。それに今のお前達が行っても足手まといにしかならん。伝令に徹してくれ」


 ベアトリクスが私の顔を見て頷いてきた。ハンスさんの言葉に納得したようだ。目つきが危ないところをみると、足手まといと言われて頭にきているのだろう。


「じゃあ、何をすればいい?」


 噛みつくように言う。


「第一の門と第二の門の間で足止めをしなきゃならん。とりあえずは、この坂を取っ払って、連中が上がって来ない様にする。お前達は工作所へ行って、取っ払う方法を考える様に伝えてくれ」


 ハンスさんは全く意に介していない。戦場慣れしているせいだろうか。


「分かった。ジャンヌ行くわよ」


 ベアトリクスに引っ張られるようにしてその場を離れた。第一の門の上では矢除けの魔法に守られた衛兵隊が、人の頭より大きい石を門の外へ向かって落としていた。

 町が戦闘体制に入ったのだろう、教会の鐘と衛兵隊の鐘はすでに鳴りやんでいた。




 私達が衛兵隊の工作所へ着くと、親父さんが一人でいた。

 お弟子さんはどうしたのかと聞くと、野暮用だ、と言う。


「あの人一体なんなの? いろんなことに妙に詳しいし、町長もハンスさんも一目置いてるみたいだけど」


 ベアトリクスの言葉を聞いた親父さんに手招きされた。

 近づいて顔を寄せると辺りを伺いながら言う。


「俺の勘じゃ、あいつは多分、特別警護官だ」

「?」

「誰にも言うなよ」


 親父さんは右手の人差し指を立てて口元に当てている。


「あの、なんですかそれ? 特別…なんでしたっけ?」


 ベアトリクスも良く分かっていないようで首を傾げている。


 親父さんは、信じられない、とでも言いたげな顔をすると手をひらひらと動かした。


「なら、いいんだ。忘れてくれ。とりあえず、誰にも言わないでくれ」


 なんのことやらわからないが他人事だからどうでもいいや、と気にしないことにした。

 そんなことよりも伝令として大事な仕事がある。


 ハンスさんの言葉を伝えた。


「坂を取っ払うのか……火薬が使えれば簡単だろうが、儂には加減がわからんのだ」

「とりあえず、たくさん使っちゃえば?」

「阿呆! 二番目の門の下の壁が壊れたらどうなると思っとるんだ」

「どうなるの?」

「あの辺り一帯が糞尿まみれになる」


 おえっ……。吐きそうになった。

 この世の地獄だろう。レヴァナントのほうが臭いと見た目はマシかもしれない。


「なんでそんな所に門があるのよ!」

「最終手段だ」

「?」




 聞くところによると、第一の門が突破された時に第二の門を守るための最終手段らしい。決死隊を募って、門の下の壁を突き壊すと……敵が戦意を喪失して撤退することを期待してのことらしかった

「それって、もしかして元々そういう風に作られていたんですか?」

「みたいだな」


 下水道の設計は、確かパウルさんのお爺さんだっけか。なるほど。


「町長の許可が無いとそんなことは出来ん」

「町長が許可したって、私が許さないわよ!」


 親父さんとベアトリクスが言いあっているのを聞いていると、ふと浮かんだことがある。早速、ベアトリクスと親父さんに話してみた。


「ふーん。面白いな。しかし、その後はどうする?」

「とりあえず、足止めすればいいんですよね? 後の事はまた考えるってことで」

「あんた良くそんな変なことばっか思いつくわね。ある意味感心するわ」


 これは褒められたのだろうか? まあ、褒められたという事にしよう。


 そうこう言っているうちに、お弟子さんが入ってきた。


「おう、野暮用は済んだか?」

「はい、お陰様で、彼女は無事に避難していました」

「あんた、今どんな状態か分かってんの?」

「すみません。でも一応許可はもらいましたよ」


 親父さんを見ると目を逸らされた。


「まあ、いいわ。とりあえず、ハンスさんからの伝言があるの。それとジャンヌから作戦が」


 ベアトリクスと私が説明する。


「それは面白いですね。でも、その後はどうするのですか」

「それは、とりあえず足止めするということで……」


 お弟子さんにも親父さんと同じことを言われたが、やってみよう、と言ってくれた。早速道具を荷車に積み込むと、四人で二番目の門まで走った。




 門に到着すると、相手の矢が尽きたのか、矢除けの魔法は解除されていた。


「来たか。算段は?」


 親父さんが手短に私の思いつきを話すと、パウルさんとアンジェリカさんが加わって、作戦の補強をしてくれた。ハンスさんも賛成してくれた。


「まずは、坂を吹き飛ばします。火薬を仕掛けますから、皆に伝えて下さい」


 お弟子さんの言葉を受け、ハンスさんが外壁を正門の上まで走る。


 正門の上では何人かの衛兵が石を投げ落としていて、他の兵達は石を運んでいた。ベイオウルフを探すと、石を投げ落とす係の様で門の上でブリジットさんに腰を支えられながら石を落としていた。


 マルセロさんに状況を聞くと、レヴァナントが正門の前の床石を剥がし始めたので石を落として妨害しているらしい。正門は鉄板を張って大きな鉄の鋲を打ち込んだ分厚いものだが、下に穴を掘られたらどんなに頑丈でも意味がない。レヴァナントは石が当たっても掘るのを止めないし、後続も沢山いる。そのうちに突破されるだろう、と言った。




 親父さんとお弟子さんは、坂の裏側に入り込んでなにやら作業をしていたが、ほどなく出てきて、物陰に隠れろと言ってきた。ベアトリクスには火をつけて欲しいからと、袖を引っ張っられて門の前まで連れていかれた。


「退避! 退避!」 


 ハンスさんが大声でと叫ぶと外壁にいた者は皆その場の胸壁に隠れた。私はマルセロさんやアンジェリカさんと一緒に門の柱の後ろに隠れることにした。

 ベアトリクスが魔法を唱えてしばらく炎を漂わせていたが、親父さんとお弟子さんと三人で反対側の柱に駆けてきて隠れた。


 しばし、地下道で聞いたバチバチという音がして…………門の向こうで轟音が響いた。 


 飛んだ物が落ちる音がしなくなったので、皆で様子を見に行く。


 坂は跡形もなく、バラバラになった大量の木材が壁際に残っていた。


「木材を移動させる。手伝ってくれ!」


 梯子を掛けて下に降りて行った親父さんが、衛兵隊に向かって大声で叫ぶと衛兵隊が外壁から降りてくる前に、パウルさんが梯子を下りて行った。


「どこに動かせばいい?」

「一番目の門の後ろに集める。油をかけておいて、連中が出てきたら火をつけてやる」

「まあ、任せろ」


 親父さんとパウルさんは梯子を上ってくると二番目の門の縁に移動した。パウルさんが両手を木材にかざす様に広げると詠唱を始め、魔法を放つ。


「トルネード・ウィンド!」


 轟!


 嵐の夜に聞いた時のような音をたてて、風が木材を宙に巻き上げた。

 そのまま、石や砂まで巻き込んで一番目の門まで移動すると、ゆっくりと風は静まった。そこには大量の木材が移動する前よりも砕けた状態で山積みになっている。皆呆気にとられて眺めている。


 上級魔法だ。

 何か使い方が違うような気もするが。


 本来であれば、敵の集団の真ん中で竜巻を発生させて、大勢の兵士を巻き込みながら刃の様な風で切り刻み無力化してしまうのだろう。それをアレンジして、瓦礫の輸送手段として使った。しかも火が付きやすいようにある程度砕くという気配りまで出来ている。


「どうだ儂もなかなかやるだろう?」


 パウルさんがウィンクしてきた。


「確かに凄いわね。あれだけ木材を巻き上げたのに周りには全く被害を与えていない。この完成度の高さは見習うべきだわ」


 ベアトリクス、お願いだからこだわり過ぎて闇落ちしないでね。




「よし。次の作業に移るぞ。降りてこい」


 親父さんの言葉に、我に返った皆が動き始めた。

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