第二十話 夢の始まり
八千文字を越えます。長いです。
フワフワとお椀のコラボは多いに人気を博し、子供達が沢山集まって来た。
無料にしたせいか、孤児院の子達も皆集まったので、お祭りの時に有料にするのが心苦しかったのだが、整理券を配って二回目以降は有料にする事でなんとか折り合いをつけた。
無事にデューネとボニーの服も見つけることが出来た。二人共気に入ったようで、一週間後に幽霊屋敷で開いた一七五の会が全員成人した記念パーティーに二人とも着て参加した。
「鍛冶屋のマチルダってんだ。よろしくな」
最後の一人が来賓に自己紹介をする。
八人目の仲間。マチルダだ。
無類の暑がりで年中肩を切った上着しか着ない。
しかも、赤だけだ。
火花が飛ぶからと、髪を短く切っているので、後ろから見たらとても女とは思えない。もちろん、後ろからだけだ。
修行先の鍛冶屋で、日々ハンマーを振るっていただけあって、肩と腕は筋肉が盛り上がっている。
メアリーは柔らかい感じの色気だが、マチルダは何と言うかバインバインで、それはそれで男共の話題になっていた。
幽霊屋敷に集まってくれたマルセロ商会の面々とデューネを始めアドルフさん達来賓が拍手すると、顔を赤くしてそっぽを向いている。
「噂の狂犬よ。あんまり目を合わせちゃ駄目よ」
「なに言ってやがんだ!」
ニヤニヤ笑っているベアトリクスの紹介に早速噛みついている。
兎に角、喧嘩っ早いのだ。孤児院の男子共が気に食わないことを言うが早いが、文句を言う前に殴りかかっている。ただし女の子を殴った事は一度も無い。
ベイオウルフとヴィルに次ぐ、一七五の会の武闘派だ。しかし、喧嘩は趣味らしく、衛兵隊にならずに鍛冶屋になった。ひたすらに鉄を打つのが好きらしい。
「ブリジットさんとの勝負は、あれからどうなってるんだい?」
「今のところ、十八戦全敗だ。でも、段々姉御の拳を躱せるようになってきた」
そのブリジットさんは、愛弟子のお祝いに駆け付けてくれた。
以前、ベイオウルフに連れられて衛兵隊の体験コースで徒手格闘の初心者訓練を受けて、ブリジットさんに試合を挑み、コテンパンにされた。
その日以来、ブリジットさんを姉御と呼び、体験コース受講と称して月に一回勝負を挑んでいる。それが縁で、衛兵隊工作所に就職が決まった。
ただし、今まで弟子入りしていた鍛冶屋の親父さんに義理を果たしたい、と週に一回は鍛冶屋に顔を出すようだ。
意外と細かな細工物を作るのも上手で、衛兵隊の工作所の二人が褒めていた。その内に、装備美麗化計画に引きずり込まれるだろう。
ちなみに、黒紫の刺繍は、ベアトリクスと同じ赤だ。
「ネズミ退治は行かないの?」
早速、一七五の会の基本的な仕事の話をする。
マチルダは工作所の親父さんの計らいで、魔物退治に参加しても良い事になっている。工作所の人間は衛兵隊と契約しているだけで隊員ではない。他の仕事との掛け持ちは、優先順位さえ間違わなければ問題ないのだそうだ。
「他の手伝いは兎も角も、ネズミ退治だけは勘弁してくれ。何度も言ったようにあれだけは駄目なんだ」
顔をしかめ、手を振って断ってきた。
怖い物知らずの狂犬は鼠が嫌いだ。孤児院に来る前、村を戦争で焼かれて地下倉庫に避難していた時に散々鼠に齧られたらしい。
「大丈夫よ。私も行っていないもの」
「そ、そうか。なら、あたしも行かなくていいな」
メアリーがマチルダの横に座ると、マチルダは救われたような表情をして、私と距離を空ける。
なんだか、私が悪いみたいだ。
「あんたは下水道に入るのが嫌だったんでしょうが。マチルダは鼠恐怖症を克服するチャンスなのよ」
ベアトリクスが割って入るが、嫌だ、と繰り返された。
「仕方ないわね。冬になったら、クマやオオカミが町の近くに出て来るらしいから、その時は手伝うのよ」
「分かってる。ネズミ以外なら任せておけ」
握りこぶしを作ってベアトリクスに見せつける。ネズミなんか殴り倒してしまえるんじゃなかろうか。
「でも、どうやって魔物と戦うの?」
まさか、殴り合いをするつもりではあるまい。
「ハンマーを使う。戦争用のウォー・ハンマーってのがあってな、イノシシくらいは殴り殺せるそうだ」
「あんた、イノシシ殴り殺せるのに、ネズミは駄目なの?」
「ネズミは駄目だ。あいつらは最強最悪の魔物だ」
「そんなこと言って、魔王に怒られても知らないわよ」
ベアトリクスもため息をついているが、仕方ない。ネズミ以外で頑張って貰おう。ヴィルやベイオウルフがいない時に、重い物を持ってくれるだけでも、こちらは助かるのだ。
「ま、なにはともあれ。これで皆が揃った。これからも頑張ろうではないか」
ヴィルが締めて、マチルダはようやくネズミ退治の話から逃れ去る事が出来た。
ブリジットさんは、無謀にもデューネ相手に飲み比べを初めてしまい、院長先生との対戦以来の敗北を喫しつつある。
ハンスさんはアドルフさんと何やら難しい顔をして話をしている。きっと、北部の魔物の事だろう。
ベアトリクスが何回目かの乾杯の音頭をとると、ヘロヘロになったブリジットさん以外の者で乾杯をする。
いつの間にか、お酒のお代わりを給仕する側のオーウェンさんまで乾杯に参加しているのだが、細かい事は気にしなくてもいいのだろう。
やっと始まったのだ。
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孤児院の夜は早い。灯りを節約するためだ。もう間もなく消灯になる。蝋燭を持って戸締りをした後は、子供達は就寝の時間になる。
カトリーヌは自室で、王国軍に依頼された神聖魔法の巻物の数を数えていた。回復魔法、支援魔法、神聖攻撃魔法。それらは全て王国軍に売り渡される。その内の六割を教会に納め、四割が孤児院の維持費として使われている。
扉の外に足音を感じる。尋ね人は予想がついていた。
「入ってもいいわよ」
ノックの音に返事をすると、ジェニファーが書類を手に部屋に入ってきた。
「院長先生。マチルダの退所の書類が出来上がりましたわ」
「ありがとう。机の上に置いておいて。後で見るわ」
巻物が置かれた机の上に書類が置かれる。
カトリーヌの部屋は驚くほど小奇麗にしていて、備品以外は何もない。机、椅子、ベッド、物入それだけだ。後は、女神像が壁に掛けてあるだけで、他の神官の部屋にあるような誰かの似顔絵すら置いていない。
「たまには、きちんと目を通しておいてくださいね」
とはジェニファーは言わない。要は自分がきちんと仕事をしておけば良いと思っている。
綴りの誤りを、目を皿の様にして探す様になったら、カトリーヌがカトリーヌでは無くなってしまう。
中身は既にエイミーに見て貰っている。問題は無いはずだ。
「これで今年の退所予定者は全員無事に退所出来ましたわ」
「そう。今年は八人だっけ?」
「はい。一七五の会の八人です」
「ジャンヌは生活出来ているみたいね」
「今は大丈夫みたいですよ。退所の時に渡したお金も手を付けていないようですわ」
そこでようやく、巻物から目を離してジェニファーの顔を見た。なにか考えている様でやや小首を傾げている。
「じゃあ、大丈夫かな?」
「そうですわね。無事に独り立ち出来た様ですわ」
ようやく、笑みを浮かべると、ジェニファーに椅子をすすめ、自分はベッドに寝転がった。
神官にしては行儀が悪い。
慣れているのか、ジェニファーも気にする様子も無く、勧められるがままに椅子に腰を下ろした。
「どう? あの子達。なんとかなりそう?」
「皆、きちんと仕事をこなしているみたいですから、大丈夫でしょう」
「そうじゃなくて、その後の事よ」
「その後?」
小首を傾げるのがカトリーヌにはわざとらしく思える。
「しらばっくれなくてもいいのよ。あの子達の夢よ、夢。新しい町の創設者になるんでしょ? 実現出来そう?」
「あら、ご存じでしたか」
「立ち聞きしちゃった」
ペロッと子供の様に舌を出す。
「また、そんな事を。お行儀が悪いですわ」
高位の魔法使いであるカトリーヌに嘘は通じない。
かと言って無理に聞き出すことはしなかった。おおらかに全てを受け入れる優しさなのだろう。
「で、ジェニファーから見てどうなの?」
「さあ、どうでしょうか。かなり難しいとは思いますが……」
「この国なら出来ない事はないわよね」
「お金さえあれば、広い土地を買って家を何軒か建てるところまでは出来るでしょうが、そこから町にするとなると……」
町を作ると言っても、人と物が集まらなければ維持できない。第一、そういう場所には既に人が古くから集落をつくり村や町として現在に至っている。森を新しく開拓するには、周辺に棲む数多くの強力な魔物を退治し尽さなければならない。
「あの子達。どのくらいの規模の町を想定してるの?」
「始めのうちは一人一軒の家があれば良いのでしょうが、最終的には中の原位かも知れませんわ」
「中の原? この町の人口を知ってるでしょ? 五千人よ、五千人。リュドミラは兎も角も、他の子達は一人で七百人以上も子供産まないといけないわよ」
「また、そんな事を。ネズミじゃあるまいし産める訳ありませんわ」
また人をからかって、とジェニファーがそっぽを向く。もちろん互いに冗談であることは分かっている。
「町と言っても、五歳の頃にジャンヌとベアトリクスがずっと一緒に暮らそうっていう約束を交わしたのを、律義に守っているだけかもしれないわよ」
「あら、よくご存じですね。その頃から立聞きなさっていたのですか?」
「そうじゃなくて、あの時は心配だったの!」
結局は立聞きしていたじゃないか、ジェニファーは口には出さなかったが軽く肩をすくめて見せた。
「ベアトリクスが孤児院に来て間もない頃よ」
「ジャンヌと掴み合いの大喧嘩をして、院長先生が随分とお叱りになられたのですよね?」
「まあね。ベアトリクスは……ほら、ここに来るまでが色々あったみたいじゃない」
カトリーヌはジェニファーから視線を外して、ため息を一つついた。
「確か、森の中に捨てられていたのでしたか」
ジェニファーも当時の事を思い出して俯いた。
特に戦時中、他国では冬越しのための口減らしに小さい子、特に女の子を捨てる例が後を絶たなかった。
「たまたま、国境警備に出ていた王国軍の兵士が見つけたらしくて、当時前線の視察に出ていたアドルフが保護したのよ」
「ここに来た時は、ほぼ感情を無くしてしまっていましたね」
「見つけた時はガリガリに痩せていて、冬だったのに肌着一枚で倒れていたそうよ。元気になるまでの間、アドルフが前線の駐屯地で付きっきりで面倒を見てくれたおかげで助かったようなものよ。普通に後送されていたら、多分死んでいたわ」
二人は子供達が身寄りを無くし孤児院に来る契機となった出来事を可能な限り調べて記録として残していた。子供達が抱いている孤独や恐れを少しでも取り除くためだ。その分、時として、義憤にかられたり、陰鬱な気分に取り込まれる事もあった。
「だから、ジャンヌに預けたのですね」
「そう。子供同士仲良くしてくれる子がいなきゃ、と思ったのよ」
「それなのに大喧嘩してしまったと」
「結局、そのことで二人は仲良くなったんだけどね」
「院長先生が二人揃ってお叱りになったからですわ」
「だって、喧嘩両成敗だもの」
喧嘩の原因も聞かないくせに。
ウフフ、とジェニファーは口元を綻ばせてしまう。
「ベアトリクスは、親にとって自分が要らない子だったと思い込んでいたのよ。だから、ここで知り合った人間もどうせ自分を見捨てると思っていたみたい」
「それで、ジャンヌがずっと一緒に暮らして行こうって約束したのですね」
「そう。私はあなたを見捨てないからって」
「でも、あの子達が目指しているのは、戦争をしない独立した町ですわ。五歳の頃の約束にしては随分と大きな話になっていませんか?」
「きっと、仲間が増えて一緒に住む家の数も増えたのよ。だから、町を作る話になっちゃったんだわ。で、戦災孤児もいるから、戦争はしない、と。でも、セルトリアを挙げての戦争になったらどうするつもりかしら?」
カトリーヌが眉間に皺を寄せる。戦争は散々に見て来た。セルトリアが望まなくても、エングリオの様な好戦的な隣国が言いがかりをつけてきてまで攻め込んで来る。
「院長先生。私達が中の原で孤児院の経営を始めた頃の事を覚えてらっしゃいます?」
ジェニファーが、カトリーヌの眉間の皺を解すような穏やかな口調で話を変えてきた。
「覚えてるわよ。もう二十年も前になるわね」
急に昔話を振られたカトリーヌは、おや、とばかりにジェニファーを見る。
「あの時。私が言った事も覚えてらっしゃいます?」
ジェニファーはニコニコしている。
「ええ。身寄りの無い子供達が自分で仕事を見つけて自立出来るように育てる孤児院があればいいって」
「院長先生は、じゃあ私と一緒にやりましょう、と言って下さって」
カトリーヌは、ベッドに寝転がったままで天井を見つめた。
「懐かしいわね。二人であなたのお父様、私の仲間でもあるヘンリー先代国王を口説き落として、王都を出たんだっけ?」
ちらりとジェニファーを見る。
「ええ。それから今まで、家畜を飼って、畑を耕して、工作所で物を作って町で売って、私達も巻物や聖水の成聖なんかでお金を稼いで、なんとか自立した経営をやってきましたわ」
「戦争もあったし、大変だったわね」
「あの時、院長先生、いえ、英雄カトリーヌが一緒にやろう、って言ってくれなかったら、これまでの事は何も出来ませんでしたわ」
ジェニファーがカトリーヌに向かって頭を下げた。
何も知らなかった自分を導いてくれた事に対するお礼なのだろう。
「お礼なんていいのよ。で、あの子達とどんな関係があるの?」
「私達の夢の続きですよ」
「続き?」
「ええ。きっと、ジャンヌ達は経済的に独立して、自治権を獲得した町を創って、戦争のない地域を創ろうとしているのですよ」
カトリーヌはベッドから起き上がって、腕を組んだ。
「だとすると、ヴィルヘルミナの入れ知恵ね」
まあまあ、とジェニファーが肩に手をやる。
「私達が孤児院を始めるに当たって、一番に考えたのは、経済的に自立する事です。そのためには一人一人が色々な意味で強くある事。強くあることで弱い者を護る事。その発展形が理不尽な戦いに決して参加せず、理不尽な戦いの被害者は必ず護る。強く正しい独立した町ですわ」
「大陸にはそういう町があるそうね。考え方が偏っているかもしれないけれど」
「セルトリア国王に自治権を認めて貰い、防衛に関しては共同歩調をとる。ただし、決して外征はしない」
「今の自警団の発展形ね」
「下手をすれば国家反逆罪ですわ」
国が国なら孤児院自体が閉鎖だろう。
二人して、顔を見合わせて笑いあう。
「それでもジェニファーは応援するのね」
「似ていますわ、初代国王のお考えに。ご存じでしょう? 私の先祖にあたるセルトリア初代国王は王になりたくは無かった。少し大きな町の猟師の元締めで良かったのですよ」
「それがいつの間にか国王になんかなっちゃって」
「最初は町を侵略者から取り返しただけでした」
「人が集まってきて国になった」
「せめて町長辺りで良かった、とこぼしていたそうですわ」
ジェニファーは、自分の部屋に飾ってある古い似顔絵を思い出した。似顔絵の初代国王は、正装では無く猟師の格好をしていた。特別に描かせたものらしい。代々伝わっていたのを、父にねだって貰ってきたのだ。
「変わり者過ぎるのよ、この国の王族は。大体、下級役人を装って町に住んで、毎日王宮に通勤している国王なんている? 王宮にいる時は、つけ髭つけたり、髪を染めたり、変装までして」
「何分、初代国王の御遺訓ですから」
勿論、ごくわずかの者しか知らない極秘事項である。
先代国王と王妃の仲間であったカトリーヌは、娘息子の教育係の一人だった事もあり、家族五人で連れ立って通ってくる国王一家と、週に一度王宮で会っていた。
「でも、今の中の原も悪くは無いわよ」
「今でもかなりの裁量を町長は認めて貰っています」
「後は、戦争に参加するかしないか、だけか」
「今のこの国の体制が悪いとは申しませんわ。他国に比べると良い国だと思います。だから、猶の事、将来への新しい試みが必要なのだと思いますわ」
言っている事はカトリーヌにも分かる。しかし、そういう事は王都の者どもが考える事だ。成人したばかりの女の子八人には荷が重すぎるだろう。
「あの子達はそこまで考えているかしら」
「考えていないと思いますわ」
真面目に聞いたのだが、ニコニコしているジェニファーにあっさりと躱された。
「つまり、今言った事は、元第一王位継承権者アン王女殿下の考えって事ね」
カトリーヌがバフン、とベッドに倒れ込む。
ゴロンと仰向けに寝転がり頭の上で腕を組んだ。
「私は別に、神職を志した時点で還俗する気がありませんでしたので。今の私は、ただの孤児院勤めの神官ジェニファーに過ぎませんわ。孤児院を退所した子達の夢を応援するだけですもの」
一つの可能性ですわ、と笑っている。
「院長先生はどうお考えですか?」
「あの子達?」
「ええ」
「わからないわ。ただ、ジャンヌは選ばれる子よ」
「選ばれる子? 選ばれた子、では無くて?」
「選ばれた子と言うのは、何か特別な能力を持って生まれて来た子のことよ。女神様の恩恵を受けた天才ね」
「英雄カトリーヌのような?」
「私に言わせると、私が使えないような特殊な魔法が使えるジェニファーの方がよっぽど女神様に選ばれた子よ。今だって姿を変えてそんな丸い顔になってるし」
「私はそんな……。第一、魔王を倒していませんし」
「一緒に倒しに行きましょうか? ロバーツとグラディスを誘えば、後、アドルフとマルセロ商会も」
ジェニファーに言わせると、神官とは思えないほど好戦的な英雄が、ベッドから立ち上がって目を輝かせた。
「また、そんな事を。ジャンヌの話ですわ」
カトリーヌといえど全盛期の力は失われている。ジェニファーの記憶では、昔だったらいくら一晩中駆けずり回っていたとは言え、アセンションを一回唱えたくらいで地に倒れ伏すような事は無かった。
「そうだったわね。選ばれる子ってのは、皆に選ばれて人が集まってくる子よ。例えば、ベアトリクスが失った感情を取り戻して、一生の約束をしたように」
「つまり、可能だと」
「それは分からないわ。でも可能性はあるかもね」
「では、やはり応援する事に致します」
カトリーヌは、ベッドに座って足をブラブラさせている。魔王討伐に行きそうにないので、振り上げた拳のやりどころに困ったようだ。
「ま、いいわ。まずはあの子達が土地を手に入れるだけの力を持つ事ね」
「おっしゃる通りですわ。時間はまだ沢山あります。ゆっくり考えながら自分達の道を進めば良いのですわ」
「そうね。自分達の夢が枷にならないほうがいいわね」
「第一段階の八人の家は賃貸だけど手に入れましたわ。第二段階は院長先生のおっしゃる通り土地を手に入れる事でしょう。この後どうなるのか、楽しみですわ」
ガバッと、カトリーヌが顔を上げた。
「もしかして、アドルフに話をしたの?」
「当然ですわ。どこかで口を滑らせて、いつの間にか変な噂にでもなったら可哀そうですもの。きちんと話をしておかないと、それこそ国家反逆罪ですわ」
「私はきちんと話をして貰ってないわよ」
「立ち聞きしていたのでしたら十分ですわ」
睨んでいるカトリーヌに、ジェニファーは素知らぬ顔だ。
「道理で話が上手く運んだはずよね。アドルフがあんな変な家を買うなんて、一人暮らしには広過ぎると思ったのよ。あの子達に貸すんだもの」
「でも、金額的には適正だと思いますわ。アドルフ町長も甘やかしはしていないみたいですから。それに、あの子達が本当に町を作ったら、移住する積りらしいですわ」
「あ、いいなあ。私もそうしようかしら?」
「孤児院はどうなさいます?」
「ジェニファーがいるじゃない。エイミーもキャサリンも。私一人抜けたって大丈夫よ」
ジェニファーが巻物を一本手に取った。上級神聖魔法の巻物だ。
「こういった孤児院の財源はどうなさいます? 英雄カトリーヌの巻物は付加価値がついて、良い値段で売れますよね?」
「いっその事、孤児院ごと引っ越さない? マルセロ商会も引き抜きましょうよ」
ジェニファーは何も言わずに、ただニコニコしている。そこでカトリーヌも気付いた。
「ジェニファー? あなた最初からそうする積りだったわね?」
「あら、お気づきになられました? 私は移住者第一号になる予定ですわ。ジャンヌにも認めて貰っていますの」
「ずるいわよ、そんなの」
ベッドに寝ころんで手足をバタバタしている。とても神官とは言えない。
「アドルフ町長は第二号かもしれませんわ」
手足をばたつかせるのを止めたカトリーヌが恐る恐るジェニファーの顔を伺う。
「私は第三号?」
しかし、その期待は裏切られた。
「どうでしょうか。私が話をしたのはアドルフ町長だけですし、本人達から話があるまでは知らないふりをしてくれるはずです。でも、ジャンヌ達から話を聞けば、きっと、町の人達も何人か名乗りを上げるでしょう。孤児院の子達もいますし、院長先生はきちんと話を聞かずに勝手に立ち聞きをしただけですから、第百号か二百号といったところかも知れませんわ。きっと、何年かお待ちにならないと移住出来ませんわ」
「え~! 何でそうなるのよ~」
ウフフと笑うジェニファーの言葉に、カトリーヌはまたもバタバタと手足を動かすのだった。
主人公獲得退治報酬:金貨15枚銀貨14枚 6か月
第四章了
第四章が終わりました。
ようやく八人全員が出て来ました。
これを持って第一部の完結となります。(後日、章編集で第一部の文字を加えます)
ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございます。
四章投稿の間に、ブックマーク登録や評価を頂きました。素直に嬉しいです。今後も是非是非、お願いします。
今後、第二部が第五章から始まることになります。
まさか、導入部にあたる第一部で五十万字を越えてしまうとは、思いもよらず反省しきりでございます。
一方で、なるべくのんびりとこの物語を進めていこう、とも思っております。
頭でっかちにならない様に完結を迎えるためには何文字になってしまうのか、空恐ろしい感じもいたしますが、PVやユニークを見る限り、最新話を読んで下さっている方がいらっしゃるようなので、頑張って続けていきたいと思います。
さて、今後の投稿予定ですが、週三回、月水金、時間は七時から八時、の投稿ペースは維持するつもりです。
なので、次回の投稿は来週月曜日に章間の小話をひとつ。水曜日から第五章第一話を投稿する予定です。
第一話投稿までの間に、第一部、の文字を入れたり、ちょこちょこと修正が入るかも知れませんが、ストーリー展開、設定、登場人物等の変更はありません。無いはずです。あれば、ご指摘下さい。
感想、誤字報告もお待ちしております。
では、今後ともよろしくお願いします。




