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光と影

「分身の術とはたまげたね……だが、こっちにはコイツがある」


 ダンフォース司祭から譲られた聖武具を青眼に構え、グリフェは影法師集団に対峙した。それが手前の影法師を袈裟斬りに斬り裂いていく。が、今度は手応えがあった。影法師が斜めに崩れて倒れ、影が薄れて消滅する。


 影法師集団がグリフェに押し寄せ、グルリと円陣を描いて包囲。仕込み杖の隠し剣が一斉に銀髪の若者に刺突される。シュブラック曹長は次の瞬間、針刺しのように串刺しとなる敵対者の姿を脳裏に描いた。


 円陣の中心人物が、影法師集団によって一世に刺殺……のはずが、影法師の群れは一斉に右方へ傾いていった。影法師はすべてドミノのように横倒しになって崩れ折れて消滅していく。一瞬のうちに円陣をくむ影法師の胴が、一周して輪切りにされていたのだ。


「なにっ! 私の影法師たちが倒されるとは……」

「次は貴様だ、馬面うまづら曹長!」


 驚愕するシュブラック曹長が剣を構え直す瞬間、グリフェが横薙ぎに『聖銀の大剣』をおくる。シュブラック曹長が両断され、二つとなった。その両断死体が薄れていって消滅していく。これも影法師だったのである。


「……そこだ!」

「ぎえええええっ!」


 消滅していく影法師の足元にくっきりと映る黒影。そこにグリフェは聖銀の大剣を突き刺した。影から赤い血が噴き出す。シュブラック曹長の本体は地面に映る二次元の影であったのだ……


「これでストーカー野郎の追跡は封じた。どこへ行こうが知られることはないぜ……」


 グリフェが周囲を見回すが、アンドレアの姿が見えない。彼女は倉庫の向こうで車を運転してきたギャリオッツの伍長に猿轡さるぐつわをされ、装甲トラックに乗せられるところだ。走りだそうとしたが、グリフェの足がふらついて自由にならない……無様に倒れてしまった。


「くそっ、まだ残っていやがったのか!」


 宿舎廃屋の影にいたミランが飛び出す。


 ――私が一番、アンドレア様に近い……グリフェ殿が動けない今、私が食い止めねば……


 連れ去る伍長はミランより背が高く、横幅もある屈強な男だ。戦闘どころか、喧嘩もろくにしていないミランは、まともに挑んでも勝つ見込みはなさそうだ。


 ――だけど、助けないと……どんな手を使っても……この私が……


 強い意志に突き動かされたミランは足音を忍ばせ、女主人と伍長の背後から忍び寄る。その姿がしだいに霞んでいき、半透明になっていった……


「うげえぇぇ!」


 突然、伍長が首を捻じ曲げ、立ち止まる。頬を殴られたのだ。侯爵令嬢の手を放して、周囲を見回すが誰もいない。


「アンドレア様に無体な真似は許さない!」

「なんだぁぁ! 姿は見えんが、どこからか声がする……姿を現せ!」

「私はここだ……」


 だが、声はすれども、依然と相手の本体は見えない。透明の怪物相手に惑乱する伍長。


「どこだ……どこにいるんだ……出てきやがれ、卑怯者め……」

「卑怯なのはムリヤリ誘拐するほうだっ!」


 周囲をキョロキョロ見回し、軍用ナイフを滅茶苦茶に振り回す伍長。その腹に拳を打たれた衝撃が走る。思わず呻いて、体をくの字にまげる。彼のアゴが出て、そこをすかさず見えない相手が右の拳を下から振り上げ、アッパーを決めた。伍長は宙に浮いて倒れ伏す。


「はぁはぁ……グリフェ殿の教えが……役にたった……」


 アンドレアの猿轡が外され、布が宙に浮いている。侯爵令嬢には透明人間の正体がわかっていた。


「その声はミラン……ミランなのね……」

「はい……そうです……アンドレア様……」


 気絶した伍長の手前の空間にもやのようなシルエットが浮かび出て、半透明のモスグリーンの燕尾服を着た少年の姿がみえ、実体となった。茶髪茶瞳の平凡な顔つきで、これといった特徴のない中肉中背の体つきの執事。アンドレア嬢つきの少年執事ミラン・ヨハークだった。


「驚いたわ……ミラン……いつのまにそんな能力を……まるで、魔力者みたいだわ……」

「……アンドレア様を助けたい一心で……足音を忍ばせ、気配を消して誘拐者に先回りをしていたら、いつの間にか体が周囲の背景と同化していたのです……」

「それは、ステルス能力だな……ミランは〈魔力者〉として目覚めたようだ……」


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